第6話
ユナエルとメルがどこかへ行ってしまった後、僕はイグニスとお互いの世界のことを話していた。
イグニスの話によると、この妖精界は地球のどこかに存在する切り取られた空間の中にあるらしい。特殊な空間のため、魔法を使わないと出入りできないそうだ。
「召喚魔法には多くの魔力が必要だから、特別魔力が高い妖精が代表に選ばれるんだ。ユナエルは自分が劣っていると思ってるらしいけど、あいつ結構すごいんだよ」
「え?」
さっきまで妖精界と人間界の話をしていたはずが、急にユナエルの話に切り替わった。イグニスはお皿のお菓子を口に運びながら続ける。
「月の妖精って、他の妖精に比べて魔力が少ないんだよ。だから月の妖精が代表に選ばれるのはものすごく異例なことなんだ。しかもあの歳で魔法を一つ編み出しちゃうし……」
「ユナエルはいくつなの?」
「15。」
15歳……一つ下だったんだ。
僕もイグニスと同じように、お菓子を手でつまんで口に運ぶ。
「ユナエルと話せた?」
「うん。ありがとう、イグニス」
「いや、礼を言わなきゃなのはこっちもだよ。ここに来てまだ半年しか経ってないからってのもあるだろうけど、ユナエルと距離を感じることは少なくないんだ。だから今回玲と話したことがきっかけで、少しずつここに馴染めるようになるかもしれない。ありがとな」
イグニスはにかっと笑ってそう言った。
遠くから鐘の音が聞こえてくる。
「もう昼か」
イグニスは立ち上がり、僕に手を差し伸べる。
「玲、お腹空いてる?」
「うん。」
「じゃあ広場で食事にしよう。」
イグニスの手を取って立ち上がり、広場に向かってゆっくり歩き出した。
広場では、何やらちょっとした騒ぎが起きているようだった。みんなが一か所に集まって、誰かを取り囲んでいる。
「何だろ?」
その様子を目にしたイグニスが、小走りで集団の中に入っていく。僕も気になってイグニスを追いかけた。
人と人の間から中をのぞいてみると、赤髪の少女が中央でうつむいて正座をしていた。
「本当にすみません」
「これ何度目だよ。お前毎回ノクスに迷惑かけてんだぞ!」
「いや、俺はいいから」
イグニスは頭を押さえて大きくため息をつく。
「あーなるほど、そういうことね」
「どういうこと?」
イグニスに尋ねると、イグニスは小さめの声で答えた。
「真ん中で正座してるやつ……ソレイユって言うんだけど、あいつ記憶力が壊滅的でさ。たぶん今回も召喚のこと忘れて家で寝てたんだろ」
視線を戻すと、薄緑の髪の青年がソレイユを叱る様子が目に入る。その様子を眺めていると、薄緑の髪の青年をなだめていた黒髪の青年と目が合った。黒髪の青年は笑顔でこちらに向かってくる。
「見苦しいところを見せてすまない。俺はノクスだ。」
「……玲です。」
この人がノクス……。確かユナエルとペアの人だ。
簡単な挨拶をしていると、ノクスの後ろにこちらに向かってくる二つの人影が見えた。僕の視線が別のものに移ったことに気付いたのか、ノクスは後ろに振り向く。
「ユナエル、メル、どっか行ってたのか?」
ノクスに声をかけられて、メルが小走りになる。
「うん、ちょっとね。ごめんね、ソレイユのことノクス一人に任せちゃって」
「いいよ。それよりみんなそろったから昼食にしよう」
ノクスの声で、みんな一斉にテーブルの方に駆けていった。僕もみんなの後を追って、昼食が用意されたテーブルへ向かった。
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