第5話

 薄暗い小さな家の中で、ユナエルは棚の奥にある箱に手を伸ばす。箱をつかんで棚から取り出した時、背後で扉が開く音がした。

「用事があるって嘘でしょ? 何しに戻ってきたの?」

 メルが不思議そうな顔をしてこちらに歩いて来た。ユナエルは少し微笑んでみせ、箱を机の上に置く。

「ずっと考えてたんだ。ボクにできることが何か」

 箱を開けると、中に銀色の粒が敷き詰められていた。ユナエルは自分の服のポケットから巾着を取り出す。メルは何かを悟り、慌てて巾着をユナエルの手に押さえつけた。

「ダメだよ! それは私たちの、命を守るための大切なもの。それをなくしたら、ユナが無事でいられるかわからないんだよ?」

 妖精がこの世に生を受けた時に天から授かる守石まもりいし。石が無事な限り、持ち主を災から守ってくれる。

 ボクの守石がみんなより大きいのは、降りかかる多くの災からボクを守るためだと母様は言った。ボクが少しでも生きやすくなるよう努めると、命に変えてもボクを守ると父様は言ってくれた。父様も母様も、ずっとボクをかばってくれていた。

 でも、それじゃあ父様と母様は誰が守るの?

 そんな思いで研究を始めた。何百もの書物をあさって、たくさん魔法を習得して、やっと見つけたのに。父様と母様を守れると思ったのに……。間に合わなかった。二人とも、事故で亡くなってしまった。

 ボクに誰かを守る資格などないのだと、天に嗤われた気がした。みんなが言うように、誰とも関らず、森の奥で孤独に生きるべきだったかもしれない。

「それでも、彼の力になりたいと思った。」

 メルの目を真っ直ぐ見る。メルは少し視線を落として、それでもはっきりと言った。

「だからって、自分を犠牲にするような方法は……」

「犠牲にするつもりはないよ」

「え?」

 ペンダントを手のひらに乗せ、メルに見せながら話す。

「これは、砕けてしまった両親の守石から作ったものなんだ」

「守石を……加工?」

 メルはとても信じられないという顔でペンダントをじっと見つめている。

 信じられないのも当然だろう。守石は、普通の力では傷一つ付けることができないほど硬度に優れ、特別な力が秘められている。それを作り変えようと考える者は今まで一人もいなかった。

「このペンダントはすでに効力のない守石から作ったけど、守護の力がある状態でもうまくいくはずだよ」

 メルは諦めたらしく、ため息をついて手を離した。

「そんなに気に入ったんだね。あの子のこと」

「彼もボクと同じように、ずっと苦しんできた人だから……。何かしてあげられたらいいなって思ったんだ」

「そっか」

 巾着から守石を出し、銀の粒の上にそっと乗せる。

 ユナエルが呪文を唱えると、部屋の中が青白い光で包まれていった。

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