第3話

 広場では、何人かの妖精たちが集まってパーティーの準備をしていた。白いテーブルクロスのかかった長テーブルに、お皿に盛り付けられたフルーツやお菓子。周辺の木にはリボンやライトが飾り付けられている。

「あの大きな木のそばで本を読んでいる子がユナエルよ。ユナエルもあまり話さないタイプだけれど、あなたとなら気が合うかもしれないわ。少しだけでも話してみない?」

「……うん」

 小さくうなずいて、二人と一緒にユナエルのところへ向かった。

 ユナエルは木の根元に座って、古そうな本を読んでいた。僕たちが近づくと、本から目を離してこちらをじっと眺める。

「ユナエル、この子はさっき人間界から召喚した玲よ」

 その少年は何も言わず、こちらをぼーっと眺めていた。ユナエルの瞳は宝石のような綺麗な碧色をしていて、銀色の髪にとてもよく合っている。

「綺麗……」

 思わず僕の口からこぼれた言葉に、ユナエルは少し苦しそうな顔をしてうつむいた。

「違う。これは不吉な色」

 ユナエルはぽつんと小さくそう言い、右手で胸元のペンダントを握りしめた。

 また失敗した。せっかくテラが話す機会を作ってくれたのに。どうにかして流れを変えられないかな……。

 焦って思考を巡らせていると、背後で少女の声が聞こえた。

「テラ、イグニス、戻ってたんだ。その子が召喚した子?」

 その金髪の少女は数歩歩いて僕の目の前に来た。

「お名前聞いてもいい?」

「……月宮玲」

「私はメル。よろしくね」

「よ、よろしく」

 メルはにっこり微笑んだ後、イグニスとテラの方に向き直った。

「メル、もうみんなそろってるの?」

「ううん、ソレイユがまだ来てないの。今ノクスが探しに行ってくれてる。準備の方はもう終わったよ」

「そう。ありがとう」

 テラとメルが話している間、イグニスは二人から離れて僕の方に近寄ってきた。

「さっき二人の話に出てきたソレイユとノクスも代表だよ。ソレイユは日の妖精で、光の妖精のメルとペア。ノクスは闇の妖精でユナエルとペア」

 イグニスはそう言ってユナエルに視線を送ったけれど、ユナエルは一つうなずいただけですぐ本に視線を戻した。

「玲、ちょっとあっち見に行こ」

 イグニスがそう言って歩き出したので、僕はイグニスについて行くことにした。

 イグニスはしばらく歩いて、パーティーの準備がしてあるところから少し離れたあたりで足を止めた。

「玲は何か趣味とかある?」

「趣味? ……読書」

「じゃあさ、ユナエルと本の話してみたらどうかな? ちょうど本読んでたし、ユナエルは読書が好きだって前にメルから聞いたことがあるからさ」

「メルから?」

「うん。メルとユナエルは幼馴染なんだよ。なんか親同士が仲良くて、小さい頃からよく一緒にいたらしい。でさ、読書好き同士なら話も弾んで、仲良くなれると思うんだけど、どう?」

「……本のことなら話せるかも」

「そっか。一人で行ける? オレも一緒にいた方がいいかな?」

 ここまで助言してもらったんだし、あとは僕が勇気を出して話すだけだ。これ以上迷惑をかけるのはよくない。

「頑張ってみる」

「わかった。じゃあオレはちょっとみんなのところ行ってくるから」

 小走りでパーティーの準備をしていた他の妖精たちの元へ行くイグニスの背中を見送り、僕はユナエルがいる大きな木の方へ向かった。

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