第2話

 目が覚めると、目の前に赤髪の少年がいた。少年は僕の顔を見るなり、左右や後ろをきょろきょろと見回したり、頭を下げたりした。

「目覚めた? 怪我はない……よね。大丈夫? ほんっとごめん、お願いだから泣かないで!」

「え……泣いてないよ?」

 なぜか必死で謝ってくる少年に、体を起こしながら困惑していると、少年の背後から茶髪の少女が出てきた。

「ごめんなさいね。私たちが召喚を担当した年は毎回泣かれるか怒られるかで、彼も参っちゃってるの」

 召喚?

「妖精界へようこそ! 私は土の妖精のテラ。彼は火の妖精のイグニスよ。あなたのお名前は?」

「……月宮玲つきみやれい

「来てくれて嬉しいよ、玲。ここではみんな呼び捨てか愛称だから、オレのことはイグニスって呼んで! さあ来て。案内するよ」

 イグニスは地面に座り込んでいた僕の手を取って立ち上がらせ、そのまま引っ張って歩き出した。

「妖精界では年に一度、人間界から人間を召喚して数時間だけ共に過ごす習慣があるんだ。オレとテラはその召喚の役割を担う代表の妖精なんだよ。代表は全部で10人。火・土・水・風・植物・命・日・光・月・闇の妖精。召喚魔法は二人一組で行うんだ。ここに来る前、火の海とか岩壁とか見たでしょ? あれがオレたち2人の召喚魔法だよ。五組の中で一番恐ろしいってよく言われる」

 あれは召喚魔法だったのか。あんな光景見せられたら泣いてしまうのも無理ないだろうな。実際僕も死んだと思った。

「イグニス、そろそろ本の話する?」

「そうだな。前回はテラがしたから、今回はオレが話すよ」

 イグニスは咳払いを一つして、真剣な表情をしてみせる。

「これから話すのはこの妖精界に古くから伝わる本に書かれた昔話。昔、人間と妖精がまだ同じ大地の上にいた頃、二つの種族間では争いが絶えなかった。その争いは、人間が妖精を捕まえて売っていたことに怒った妖精が魔法を使って人間を次々と殺していったことから始まったらしい。人間側も妖精側も死者が増え続けるばかりで一向に終わりが見えなかったために、両種族の王が動きを見せた。両種族の王と側付き一名のみの密会を開いて、ある取り決めをしたんだ。妖精族はすみかを変え、人間界と妖精界に分けて、二度と争いが起こらないようにしようって。その取り決めによって世界が分けられ、人間と妖精の交わりは無くなった。本に記されているのはここまで」

 イグニスはふーと息を吐いて、少し得意そうな顔をした。

「この話を聞いて、どうして魔法を使える妖精が簡単に勝てなかったのかって疑問は持たなかった? どうしてかっていうと、妖精は人間より体が圧倒的に小さいからなんだ」

 あれ?でもイグニスもテラも僕より背高く見える……。

「これがこの世界の不思議なところなんだよ。この世界では人間はオレたちと同じサイズになるんだ。で、話を戻すんだけど、さっき本に記されているのはここまでって言っただろ? この話には続きがあるんだ。両種族の関係がこれで完全に断たれるのはもったいないと考えた王たちは、年に一度だけ会う約束をしたんだ。たぶん王同士は気が合ったんだろうな。で、集団はダメでも少人数なら争うことなく仲良くなれるんじゃないかってことで、こうやって人間界から人間を1人2人くらい召喚するようになったんだ」

「……」

「あれ、反応なし? 玲はけっこう静かだな」

「緊張してる? 普通に話してくれて大丈夫よ」

 テラは微笑んで優しくそう言った。

「……話すの苦手なんだ」

「そうだったの。私たちの仲間にも似たような子がいるわ。月の妖精のユナエルって子なんだけど……」

「あ、見えてきた!」

 イグニスの声に驚いて前を向くと、道の先に大きな広場が見えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る