第1話

 「れい、これで全部?」

 「えっと、牛乳、卵、玉ねぎ、じゃがいも、……うん、これで全部」

 冷房がよく効いた最寄りのスーパーは、朝早い時間のためか、買い物客が少ない。僕は幼馴染の明利あかりに連れられて、こうして食材の買い出しに来ている。

「じゃあレジ行こっか」

「うん」

 僕はほとんど毎日家で一人で、明利とは家が隣ということから、よく食事に誘ってもらっている。

 レジでの会計が終わり、カゴの中のものを袋に入れて店を出た。

「休日に家にこもって本ばかり読むより、少しでもこうして外に出るほうが気持ちいいでしょ?」

「気持ち良くはならないよ。歩くと疲れるし」

「玲はもっと鍛えないとね」

 日曜日だというのに朝から部活の練習に向かう生徒たちとすれ違う。楽しそうに話しているその男子たちを見て、明利の顔が少しずつ曇っていった。そして、心配そうな顔で僕を見つめる。

 明利がこの顔をするとき、言われることはいつも同じだ。

「……ねえ玲、もう高校二年生だよ。そろそろ頑張って友だち作ってみない? きっともう大丈夫だよ」

「無理だ。僕にはそんな勇気ない」

「……」

 毎年、年度始めの時期になるとこの話になる。僕だって友だちが欲しくないわけじゃない。声をかけてもらえるのを待っているだけじゃだめだってこともわかってる。でも声をかけようとするたびにあの記憶が思い出されて、上手くいかないんだ。恐怖で足がすくんでしまう。

「あ、あのさ、最近はどんな本読んでるの?」

「妖精が出てくる話だよ。妖精が魔法を使って、いろんな人の悩みを解決していくんだ」

「へぇ……あ、もう家着いちゃったね。じゃあまたね」

「うん」

 持っていた買い物袋を明利に渡した後、手を振ってそのまま家に入った。

「はぁー」

 玄関で座り込み、大きなため息をつく。

 きつい言い方をしてしまった。せっかく心配してくれてるのに。気を遣わせてばっかりで……どうして思っていることをちゃんと伝えられないんだろう。

 その場から立ち上がったその時、地面が突然大きく揺れた。

「地震!?」

 地面が揺れたかと思うと、今度は地面が割れて崩れ、足元の玄関のタイルと一緒に崩れ落ちてしまった。

 僕が落ちていく中で、必死に抵抗してつかんだものは、角ばった岩肌だった。そして下には、真っ赤な火の海が広がっていた。

「何、これ……」

 2メートル下では火の海が波打ち、泡が弾け、岩石を溶かして飲み込んでいる。上に登ろうと右手を伸ばした瞬間、左手でつかんでいた岩が崩れ、火の海に落ちていく中で僕は意識を失った。

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