第9話


                 9


 

 結構な一大イベントがあった週末が明けての月曜日。 いつもの様に、業務を坦々とこなしていく宇来と愛美だが、もうすぐお昼休みになる少し前に、咲彩が、宇来に向かい、何かニヤついている。


「?」

 と、宇来は咲彩に何だろうと、不思議に思いながら、午前中の業務が終わった。


 昼休み、OL組3人が固まって、それぞれの弁当箱を開ける。 と、いつもの光景だが、今日はいきなり咲彩が宇来に質問してきた。


「宇来、週末何かいい事でもあったのか?」

「え? 何でですか?」

 そう返すと。


「いやな。 宇来が今日朝からいつもと違う表情をしているので、コレは何かあったな、と思ったんだ。 どうだ?」

それに合わせて、愛美も口を合わせる。


「そうよ、宇来ちゃん。 最近、朝樹さんとお付き合いしてるのは知っているけど、今日の表情は、また一段と違うわね。 何かいい事あったでしょ?....ねえ、言ってよ」


「う!....」

 コレには宇来が言葉が出ない。 何と、とっても分かり易く、顔に出ていたらしかった。

 それを今自分が、言われて知った。


「さあさあ! どうなんだい!? 白状しな、宇来!」

「この際、言っちゃいなさいよ、宇来ちゃん、ね?」


 コレにはもう降参である。 このまま黙っていても、この二人には敵わない。 なので、週末の双方の両親との顔合わせ、 な状況を、掻い摘んで話した。


          △


「宇来、それはもう、結婚が近いと言う事かな?」

 その意見は否定する 宇来。


「いえ。 そう言う事では無く、この約二ヶ月、ほぼ毎日朝樹さんの護衛の下、通勤している事と、夕食まで一緒に頂いている事への、感謝と挨拶に来たんです」

「でもな、それって、もう朝樹くんの事を、宇来の両親が了解しているという事になるんだがな、私の見解では」

「そ、そんな風に傍から見ると、取られるんですね」

「そうよ宇来ちゃん。 私だって今の話を聞いたら、まるで、 ウチの娘をどうぞよろしく 、みたいに聞こえるわ」

「そ~か~....、そんな風に取られるんだ」

「....、って言うか、いずれ結婚は決定だな! それは、うんうん」

「そうですね先輩、コレは決定って事ですね」


 どうやらこの二人の中では、そう遠くない将来、朝樹と宇来がゴールインする事になってしまっているらしい。さらにその事に、あっさりと、二人の意見に納得してしまっていた宇来だった。


「朝樹くんも、これで近々、既婚者だな」

「わあ、宇来ちゃんと朝樹さん、結婚かぁ~。羨ましい~。私も早く彼と....、うふふふ」

「おいおい!そんなすぐに結婚するなよ二人、私が寂しくなるじゃないか」



 どう言う訳か、宇来と愛美が近々結婚してしまう様な雰囲気になってきている流れになってしまった。  その話の先っちょだけ聞いた、例の男性事務員が、辛そうな顔をして、愛美に寄って来た。


「愛美ちゃん。 け、結婚してしまうの? 彼氏が居たんだ、そうか居たんだ~........」

 と、ガッカリした様子で、また自分の席に戻って行った。


「よし!、 コレでアイツも2度と愛美に言い寄って来ないだろう。ま、愛美は元々彼氏が居たからな、他の男が言い寄って来ても、ダメだったがな」

「それに、咲彩さんの A・Tフィールドが、鉄壁の守りになっていましたから」

「ははは、どうだ私の威力は」


 そう言って、仲良し三人OLが、昼食を食べながら、上品に少しばかり欠ける笑い方で、昼休憩を過ごした。




                 ◇



 初夏、盛夏が過ぎ、秋も後半となり、宇来と愛美も大分仕事にも慣れてきて、咲彩の分担分の業務も少しは手伝えるようになってきた。


 この頃になると、時々朝樹が宇来のアパートに泊まるようになっていた。

反対に、宇来の方も、藤堂家に時々泊まるようになり、朝樹の部屋もだが、

 時々には、未来の部屋で女子会を開き、そのまま朝まで一緒のベッドで寝ているという事も、珍しくは無くなっていた。


         △


「宇来」

「なに? 朝樹さん」

「オレ達もうじき付き合ってから、半年くらいになるな」

「そうね、春からだもんね」


 あのドラッグストアでの出会いがあってから、もうじき半年以上になる。早いものだ。


 宇来は相変わらず、週末の朝樹とのデート以外は、地味~な感じを保ち、会社に勤めている。 

 朝樹たちの交際を知っている他の同僚から、宇来の事を 地味で普通な彼女 と言われている事に、 普通が一番!と言って、日々は何とか胡麻化している。

(週末の宇来は誰にも見せたくないからな)

 と思う朝樹。 宇来 独り占め作戦だ。 その反面、愛美は相変わらずの美人度だ。 以前にも増して、奇麗度が上がっている。

 なのに、お高く留まらないのが、彼女の良い所だ。 咲彩も既婚者ではあるが、相変わらずの美貌で、男性社員からは、良い目の保養だ なんて言われている。


 それでも、時々は、宇来を弄って、週末の帰りには、例のメイクを施して、愛美と咲彩が、ひそかに宇来をメイクの玩具(おもちゃ)にしている。


 そして、またある週末....。


「宇来、あんたやっぱカワイイわ。 そこらのギンギラメイクしているお嬢ちゃんよりも、数倍だな。 朝樹くんが羨ましい、こんなカワイイの、一人占めにして」

「いいね~、宇来ちゃん。 カワイイ。 業務中とのギャップがたまんないわ~」

「よし!今日は朝樹くんは7時ごろ現場から帰って来るから、そのままで一緒に帰っていきなさい」

「またですかぁ?」

「いいじゃない、朝樹さん喜ぶから」

「まあ、そうなんだけど....」


 この日、事務処理も、月末という事も有り、6時過ぎまでかかったので、メイクが終わったのが7時前、、そろそろ会社のトラックが帰って来る頃だ。その車に朝樹もいる。


 暫く女子3人で喋りながら待っていると、時間どうりに朝樹たちが乗ったトラックが帰って来た。

 駐車場にトラックを止め、荷台の整理をし、週明けに使うものを積み込んで、荷台にシートを掛けて、各々手を洗い終了した。 


 申し合わせ通り、少しわざと遅れて帰り支度をする朝樹が、ロッカールームの陰からチラ見している宇来を見つけた。


「こら!見え見えだぞ宇来」

 そ言うって朝樹に近寄り、朝樹の作業用ヘルメットを宇来に被せた。頭と顔が小さい宇来には、ブカブカである。

被ったまま。


「朝樹さん、お疲れ様」

 ヘルメットを被ったまま、嬉しそうな表情で、朝樹に労いの言葉を言う。

「おう。 しっかし、またお嬢さん達に、顔を弄られたのか?」

「うん」

「最初はびっくりしたけど。最近頻度が多いから、驚かないな。 カワイイけど」

 サラッと言う天然的な朝樹の褒め言葉に、宇来はいちいち反応(赤面)してしまう。


 すると、ロッカールームから、咲彩がサムズアップをしていたので、朝樹も口角を若干上げ、返した。


「さあ、帰ろう、宇来」

「うん」

「他の男に見つかるなよ」

「分かった」


 この可愛いメイク姿の宇来を、他の男に披露するなんて、到底出来ない朝樹だった。


(ブカヘル姿もカワイ~!(朝樹))



                  △


「もう7時だと、真っ暗だな」


 もうすぐ晩秋になろうとしているこの時期は、夕方 日が暮れるのが早い。 朝樹が、現場の都合で、宇来を載せての送迎が難しい時は、宇来が自転車で通勤していたが、最近は陽が落ちるのが早い為、少し遅くなっても、朝樹の帰りを待っている。

 今月から、朝樹の担当の現場が、少し遠くになったので、朝は早く、夕方も遅めになっている。 暗い道での若い女の子の一人での自転車通勤は、いくら道のり10分少々でも、心配だ。


「これはまた家族会議だな」

 そう小さく呟く朝樹に、宇来が訪ねる


「何の会議?」

 フッと微笑む。


「オレと宇来の事だよ」

「??」

「ま、良いから。今夜、夕飯の時に、両親に相談してみるから」

「え~~っと....?」

 朝樹の行っている事が、イマイチ分からない宇来。


「宇来、オレの事好きか?」

「うん、大好き!」

 即答だった。


「じゃあ、オレと結婚しようか」

「え!?........」

 朝樹からの意表を突く発言だったため、言葉が出なかった。


「イヤなのか?」

「イヤじゃない! いきなりで、戸惑ったの。 なんで?どうしたの? 朝樹さん」


 どうして今ここでそれを言うのか、宇来は朝樹の考えが今一読み取れなかった。


 


 再び微笑んで、朝樹が言う。


「ただ、オレが宇来を大好きって事なんだよ」


 聞いた瞬間に、宇来の顔が ボンッ と爆ぜた。

 その爆ぜたままの宇来に、信号待ちの朝樹が宇来を寄せ、軽くキスをした。


「ず、ずるい、朝樹さん....」



 その表情に、朝樹は、笑いが止まらなかった。




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