第10話


                 10


「「ただいま~」」


「あ!お帰りなさい。お疲れさま、二人とも。 あら、もうこんな時間になってたのね、下ごしらえは済んでいるから、さてやりますか....」


 恵がキッチンのテーブル席に座り、スマホで何かをしていたところに、朝樹たちが帰って来た。

「父さんは?」

「さっき帰って来て、今はお風呂に入っているところよ...って....、また弄られたのね宇来ちゃん」


 一階が騒がしくなったので、未来が部屋から降りてきた。


「あ、お二人さん、おかえり。 あれまあ、また宇来ちゃん弄られたのね、うふふ...、でも本当に可愛い、こんなカワイイ人が、私のお姉さんになるんて、嬉しいな」

「おね....、」

 どうやら宇来が朝樹と結婚する事は、藤堂家では決定のようだ。


「まあこれは何て言うか、宇来の同僚が、オレだけに対して贈り物をしてくれているんだな」

「だよね~、こんなカワイイ姿、日ごろ普通にしていたら、お兄ちゃん気が気でないもんね~」

「それは言えてるな」

「あ、自覚した、しかも チョイ惚気かな?」


 この会話の中で、宇来は沈黙していたが、もうすでに 顔が 三回ほど爆発していた。

 この流れを諫めるべく、恵が。

「宇来ちゃんも、未来も、夕飯手伝ってね」

「「はぁい」」


 その後、キッチンではいつもの夕方の光景が始まる。



                  ◇



「いただきます」

「「「「いただきま~す」」」」


 拓也のいただきますと共に、夕飯が始まった。 父がお風呂から出てきたときも、宇来のフェイスメイクを見た一瞬、固まった。 そろそろ慣れなければいけないと思うが、中々慣れないのであった。


 夕飯も半ばくらいに来た時に、朝樹が両親に問いかける。


「父さん 母さん、聞いてほしい事があるんだ」

 拓也と恵が朝樹を見て、何処か違う雰囲気を読み取る。


「話してみなさい」

「うん」

  一息ついたところで、宇来を一度見てから、再び両親に向き直す。


「宇来も聞いてくれ」

「うん....」

 宇来も、何かを悟ったかの様に、朝樹を見た。


「オレ、宇来と同棲を考えているんだ」

「「・・・・・・・・・・」」

「そうか…」

 拓也が沈黙の後、呟いた。

 いきなりの事で、宇来を見ると、目を見開いたままで固まっている。


「分かった、準備が大変だぞ?」

 以外に父 拓也は冷静に答えた。


「それ、コレからだから、分からないけど、とにかく宇来と一緒に暮らしたいんだ」

 コレには恵が口を挟む。


「朝樹、同棲って。あなた達まだ半年もお付き合いして無いんじゃないの。 早いとは思って無いの?」

「多分そう言われると思っていた。だけど、オレ、普通のカップルみたいに、週末だけのデートとかの関係だけじゃなく、こうやって、毎夕食が家族と宇来が一緒という事で過ごして来て、如何(いか)に自分と波長が合うか分かったんだ、まるで昔からずっと側に居たかの様な彼女に、とことん惚れたんだ」

「朝樹さん....、嬉しい」


 宇来はうっすら涙を浮かべている。


「そう、そうなのね。 朝樹はそこまで宇来ちゃんの事を真剣に思っているのね」

「うん、そうなんだ」


「そうか....。まあ母さんの意見もあるが、俺は早いとは思っていないがな。 この二人は、何だか若い頃の俺たちみたいなところがあるかな? とは思っていたんだが、やはり親子だな、血は争えん」

 拓也と恵も過去にそれに似たことがあったのか、拓也は自分たちの若い頃を思い出す様に、遠くを見つめる眼差しをした。

「まああなた、二人の事を認めるの?」

「俺はこの約半年を見てきて、毎日顔を合わせているのにかかわらず、ちょっとした意見の違いもあったみたいだが、そう言う時でも、お互いが意地にならず、折れるところはどちらかが折れて、お互いを尊重し、思いやるところが、俺の認める要因だ」

「でもあなた、そうなると、希さんご両親にも報告しなければならないし、今後ましてや結婚ともなると....」


 恵が黙ってしまった。


「宇来ちゃんはどうなんだ? 朝樹の事」

 話が宇来に来て、少し戸惑うが、自分の意志はハッキリしているので、キッパリと言う。


「私も将来的に結婚するなら、朝樹さんとしか考えられません。朝樹さんと居る事で、毎日が幸せで、心も和むんです」


「そうか。 そう言ってもらえて、朝樹の親として、なんだか嬉しい気分になるな、ありがとう」


 どうやら、朝樹と宇来は、近々同棲を始める予定になったみたいだ。


            △


 夕食が終わり、後片付けを手伝ってから、宇来は自分のアパートに帰るまで、朝樹の部屋に暫く居る事が普通となった。 時々未来も混じり、楽しいひと時をほぼ毎日過ごす様になっていた。


「朝樹さん、何で夕飯の時に、あんな話をしたの?」

 フッと息を吐き、宇来を見つめ、朝樹が話す。


「本当なら、世間一般の流れでは、普通、彼女に承諾をしてもらい、OKを貰ってから、親に同棲の許可を得るものだとは思っていると思うんだが、オレはみんなが集まっている夕飯時に、未来も含めて、全員に報告と相談をしたかったんだ」

「でも、朝樹さん、帰りの車の中で、結婚って言ってたから、てっきり何処かの公園に車を止めて、プロポーズしてくるのかと思っちゃった」


 宇来を抱き寄せ、また軽くキスをする。


「本当の事を言うと。 オレ宇来が心配なんだ」

「どういう事?」

 宇来が不思議そうな面持ちになる。


「分からないだろうな、宇来は。 自分が可愛いって事に全く気が付いてない。 そんなカワイイ宇来が、コレからもっと陽が短くなってくるって言うのに、オレの担当の現場が少し遠くなって、送ったりが難しくなってきて、そうなると、宇来が自転車での通勤になる。 それがとても心配でたまらないんだ」

「私だったら、大丈夫なんだけどな......」

「それが自覚が無いって言ってるんだ。 もうオレのモノなんだからな、宇来は」


 もう今日は何度、顔と頭が爆発したんだろう、宇来が真っ赤になった。


「本来なら何処か一流のレストランを予約して、指輪を差し出し、プロポーズをするカップルも居るみたいだけど、どうやらオレにはそう言うキザ的な事は似合わないみたいで、ダメなんだ、だから........」

「そんなの要らない!...わたし、朝樹さんからのプロポーズの言葉だけが、私は嬉しいの。だから、そんな重く考えないで、朝樹さん」

「ありがとう。そう言ってもらって、気持ちが楽になる。やっぱり宇来はオレには最高の彼女だ」

「あは!」

 宇来が、拍子抜け染みた笑い声を出した。

「何だよそれ」


 ふたりで微笑み合う。

 お互いがお互いを信頼し、思い合っているので、気持ちが揺らぐことは決して無い。



「それで、コレからの通勤の事なんだけど」

「あ、そうだった、話逸れちゃったね。 あ、あのね、私なら夕方遅くなっても構わないから、待ってる」

「何もしてないで、事務所で待ってるってのも、何か悪い気がしてならないんだ。だったら、いっそオレが行き帰りに、自転車で通勤しようと思ってる」

「そんなのダメ! 絶対ダメよ。 疲れて帰って来てるんだから」

「オレなら構わない、宇来だって運転免許持ってるんだから、オレの車で通勤すればいい」


 その時、ノックをする音がして、未来が入って来た。


「どうしたの? 何か言い合っているみたいで、気になって来てみたんだけど?」


「未来ちゃん、聞いて....」


 宇来が未来に、今までの通勤の事を話す、すると、未来が笑いだした。


「な~んだ、そんな事?」

「なんだ未来、そんな事って、お前は宇来の事が心配じゃないのか?」

「そりゃ心配だよ。 いくら会社から近いと言っても、最近じゃ暗くなるのが早いからね」

「だろ?」

「だけどね、お兄ちゃん、お母さんの軽自動車、来月に買い替えるんだって言ってたよ。だったら今まで乗っていたその車、お母さんから譲って貰ったら?」


「「え!?」」

 朝樹と宇来の声が重なった。


「ホントかそれ?」

「あれ~? お兄ちゃんお母さんから聞いてなかったの?」

「全く聞いてない」

「まだ7年車だから、まだまだ十分乗れると思うよ」

「なら、母さんに聞いてみる」

 

 そう言って、朝樹は一階のリビングに居る両親の下へ行く。


 リビングの両親は、テレビを見ていたが、朝樹が来たので、二人が一度朝樹を見る。 

 両親の顔を見た途端、朝樹が言い出した。


「母さんの車、買い替えるって本当?」

 一瞬ポカンとした恵が、すぐに返事をした。


「本当よ、今週末に契約するのよね、あなた」

「そうだが、朝樹 どうした?」

「だったら、今の軽自動車、宇来にあげてもいいかな?」

 あ、そう言う事か、とも言い出しそうな顔をする恵。


「宇来ちゃんの通勤の話しね。いいわよ、使いなさい、新しいの来たらそれあげるから」

「ありがとう母さん、父さん」

「あら、愛しい彼女が心配なのね、私の王子も中々の姫思いね」

「な、その言い方....。でも、ありがとう」

「いいわよ。さあ愛しい彼女に報告してきなさい」

「うん。本当にありがとう」


 そう言って、朝樹はまた自分の部屋へ戻って行った。


 部屋に入ると、未来と宇来が楽しそうに、喋っている。 未来が教えてくれた事にお礼を言って、宇来に恵との先ほどの事を話す。


「来月には買い替えるから、今の軽自動車、宇来が使っても良いって言ってた」

「良かったね宇来ちゃん」

「嬉しい....でも....」

「でもなんだ?」


 恥ずかしそうに話す宇来。


「私ペーパードライバーなの....」

「だろうな。 運転している所、見たことないもんな」

「お兄ちゃん、今度からお母さんの車が空いている週末に、借りて、運転の練習付き合ったら?」

「そうだな、そうしないと、オレも不安だ」


 さらに恥ずかしそうに。

「お願いします」

 と宇来が言った。



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