第8話
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宇来をアパートまで送り届けた朝樹は、手を振りおやすみを言って、来た道を
帰って行った。
*
帰宅後、宇来は今日夕方からあった出来事を、回想しながら湯船に浸かった。
(うわ~、やっと朝樹さんとお付き合いが出来た~。 嬉しい。 明日からもう少し容姿も身なりもレベルアップしていこうかな。 あ、でも、これ以上は朝樹さんの前だけって言われたし、嫌われたく無いから、取りあえずこのままかな......)
その後、就寝前のスキンケアをして、幸せな気分で眠りについた。
◇
土曜日が来た。
今日は、宇来の両親が藤堂家に挨拶に来る。この春からの宇来に対する親としての、藤堂家に対するお礼をしたいと言う事だ。
藤堂家に到着するのは、大体10時くらいと言っていた、今が9時半だから、もう時期に来るだろう。
高速道路を使ってくるので、時間は多少ズレるだろう。
宇来も今日は朝から部屋を片付けて、アパートで朝樹と待っている。 すると、車の止まる音がして、ドアが3度開け閉めする音がした。 すると、玄関チャイムが鳴り、 は~い と返事をすると、鍵を開けてからすぐに、40代半ばくらいの男女が、宇来の部屋に入って来た。
朝樹の緊張は、ピークになり、宇来と共に玄関で、その男女と挨拶した。
「お父さんお母さん、わざわざ遠い所からありがとう。 上がってね。....って、瑠流(るる)!、あなたまで来たの?」
「えへへ、お姉ちゃん、私もついてきちゃった」
希 瑠流(まれ るる)。 地元の大学に通う、19歳のやはりカワイイ系の女の子だ。 身長は、宇来よりも高く、160cmくらいで、やはりやや痩せ型だ。
「まあまあ、とにかく上がらせてもらうわよ、宇来」
「うん」
上がってすぐに、宇来の後隣にいた朝樹に気が付く両親。
すかさず朝樹が、挨拶する。
「こんにちは。 遠い所、わざわざ来ていただいて、ありがとうございます。 藤堂 朝樹と言います」
そこまで言うと、宇来の母親の彩音(あやね)が、優しい面持ちで挨拶する。
「まあ、あなたが朝樹さんね。 本当にウチの宇来がこの春からお世話になって、ごめんなさいね。それと、今 お付き合いをしてもらっているそうで、ありがとうございます」
すると、今度は父親の 直樹(なおき)が続けて挨拶する。
「君が朝樹くんか。 ウチの宇来が、君の家に大変世話になっていると聞いて、早く挨拶に来たいと思ってはいたんだが、今日になってしまい、申し訳ない。今後とも、宇来をよろしくお願いしたい」
「ありがとうございます。 はい、宇来さんとは、先日からお付き合いさせて頂いています」
挨拶の途中で、宇来の妹の瑠流が、朝樹に興味ありげに、親の会話に被って来た。
「お姉ちゃん、もしかして、このイケてる人が、近々私の お兄ちゃん になる人なんだね?」
瑠流が嬉しそうに、続ける。
「初めまして、妹の 希 瑠流(まれ るる)です。今19歳です、よろしくお願いします、お兄ちゃん」
この“お兄ちゃん”と言う言葉に、朝樹と宇来が、少しだけ顔を赤く染めてしまった。
その言葉に抗う様に、宇来が返す。
「もう、何言ってるの 瑠流。 私達まだお付き合いして日が浅いのよ、そこまではまだ考えていないわ」
「な~んだ、残念....」
少しつまらなさそうな顔をする瑠流。
「俺は考えているけど、宇来」
突然の朝樹の言葉に固まってしまった宇来。 そこへさらに瑠流が追い打ちをかける。
「ほ~らね。 やっぱ近いうちに、お兄ちゃんになるんだ。 やった~!」
そこで、両親達が瑠流を戒める様に言った。
「いい加減にしなさい瑠流。 二人とも困っているでしょう....って、今から藤堂さんの所に行こうと思ううんだけど? 宇来」
気が付いた宇来が、慌てて。
「あ、ごめ~ん。 そうだね、お父さんお母さん」
「こういう話は午前中にした方が良いので、取りあえず荷物だけを置いて、早速行こうか、彩音」
父、直樹が彩音を促す。
「そうね、早い方が良いわね、では早速行きましょう。 いいかしら? 朝樹さん」
「はい。 じゃあ今から行くという事で、電話入れときます」
「お願いね」
「分かりました」
早速ポケットからスマホを取り出した朝樹は、自宅に電話をして、了解を得た事をみんなに言い、早速五人 徒歩で藤堂家に向かった。
△
その後、藤堂家に到着した一行は、玄関で頭の下げ合いがしばらく続き、 いい加減にして と、双方の妹が忠告して、その場が治まった。
リビングに通されて、やっと全員が座ることが出来、お茶とお茶菓子を目の前にして、話の本題に入った。
まずは宇来の父、直樹から口を開いた。
「この度は、藤堂家の皆さんに、ウチの娘が春からお世話になっていまして、本当にありがとうございます。 いち早くご挨拶に上がろうとは思っていましたが、この様に遅れてしまい、重ね重ねお詫びを申し上げます」
「いえいえ、そんなご丁寧にご挨拶して頂いて、恐縮です。 それと、宇来さんの事は、私たちが女性の一人暮らしがどうしても心配という事で、お願いしてもらい、ウチで夕飯を済ませる様にと頼んだんです。 だから、その様なお気遣いは、なさらないで下さい」
「ありがとうございます。見知らぬ土地で娘を一人暮らしさせるという事で、藤堂さんのご厚意は本当にありがたい事です。 しかも、宇来が勤めた会社で、朝樹さんは先輩と言う事で、さらにお世話になっていると聞きました。 もうこれは、居たたまれなくって、今日、お礼に参った次第です」
何とも言えない堅苦しいやり取りを、暫く聞いていた 未来と 瑠流が、とうとう居たたまれなくなって、両方の両親に向かって。
「「 もう! いい加減にして、お父さんお母さん!!」」
「....って、未来ちゃん、合っちゃったね」
「えへ、そうだね 瑠流ちゃん」
いつの間に、仲良くなったのか、未来と瑠流が、親たちの堅苦しい挨拶を戒めた。
妹たち以外は、全員固まってしまった。
「堅苦しいのは、もう止めようよ」
「私も瑠流ちゃんも、もっと気楽に話そうよって、言ってるの、だから、みんな、リラ~っクス....ね」
この一言で、緊張していた両親達が、フッと 息をつき、見合って、笑い出した。
暫く笑ったあとに、直樹が改まって。
「そう言う事で、これからも娘の事をよろしくお願いします」
と、 直樹が言うと。
「はい、これからも、宇来ちゃんの事、娘の様にさせてもらいますから、安心して下さい」
そう拓也が返すと、母親同士が うんうん と頷きながら、微笑んでいた。
「ところで未来。 いつの間にか宇来の妹さんと、仲良くなったんだ?」
朝樹が未来に聞くと。
「何時って。 ついさっきだよ、ね? 瑠流ちゃん」
「そうなんです。 あ! 私 瑠流ですからね、忘れないでください“お兄さん”」
「おに....。(まあいいか)。 瑠流ちゃんだね、可愛い名前だね、覚えやすいし」
「褒められたぁ....、(フニ~....)」
瑠流が嬉しさのあまり、フニャけた。
(なんだ宇来とは違った、この可愛さは)
「あ!今、妹の事 可愛いと思ったでしょ、朝樹さん」
「ちょっとな」
「ええ??」
少し妬まし気に朝樹を睨む宇来。
「はは....、すまん宇来、ウソだウソ。 オレは宇来がいつも一番だと思ってるからな、ふむ!」
両親が、自分の子供たちに呆れて。
「親たちの目の前で惚気ってのはいかがな物かな? 朝樹くん。 ま、娘を持つ親としては、一途な事は、大変嬉しいんだがね....」
両親が、飽きれた表情をしていた。
「「あ!!」」
当人の朝樹と宇来は、赤面しながら“あ”しか言えなかった。
◇
昼時になったので、オードブルの寿司を頼んで、二家族の親睦をトコトン深めた。
「いやぁ、宇来も私たち親から離れ、自分から就職を決めたんですが、家から結構離れているので、随分心配してはいたんです」
「でしょうね。 私だってこの未来が、県外に就職してしまったら、寂しいし、本人も心許ないと思いますからね」
「でも、偶然にしても、このように藤堂さん達に巡り合って、しかも就職先の好青年の先輩とお付き合い出来て、宇来は幸せ者です。本当に藤堂さんには、感謝しています」
宇来の父、直樹の朝樹に対する褒め言葉に、朝樹は少しテレをみせた。
ゆっくりとした時間が過ぎて行き、父親たちもほろ酔い気分で、随分と両家が打ち解けたところで、宇来が心配事を言う。
「お父さんお母さん。 今日はこのまま帰るの? 何処かホテルか旅館に予約はしてあるの?」
「予約は全くないが、宇来のアパートでは、瑠流も含めて、無理だろう、だから、駅前のホテルにしようかと思っているんだ。ま、道のり2時間だから、帰ってもいいんだが」
「折角来たんだから、帰らないで、駅前のホテルにしたら?」
「そうするか。 瑠流、ネットで予約してくれ」
瑠流がスマホを取り出し、検索を始める....が、その動作を恵が止めた。
「瑠流ちゃん、ちょっと待って」
瑠流はスマホの検索を止め、恵の声に拝覧する。
「どうしたの?お母さん」
未来が恵に聞く。
「あのね宇来ちゃん、お父さんとお母さん、瑠流ちゃんもだけど、 今夜、ウチで泊まっていってもらえないかしら。 布団もシングルが、3セット丁度あるので」
それを聞いた彩音は。
「いえいえ、宇来が散々お世話になっているのに、私達までご厄介になるなんて、とても申し訳なくて、有り得ません」
その彩音の意見に、瑠流が挟んできた。
「いいじゃないお母さん。 わたし未来ちゃんと一緒に寝たい。だから、お願い、ダメかな?」
「いいよ、瑠流ちゃん。 私と一緒に寝よ。 ねえ良いよね? お母さん」
瑠流の意見に、未来が同意した。
「私は構わないけど........。あの....、希さんたちも、よろしかったら泊ってください。 部屋も空いてますし。瑠流ちゃんも言ってますし、いいじゃありませんか、ぜひ!」
恵の誘いに、戸惑ってしまう希夫妻。
「どうしましょう、おとうさん....」
「宇来からも、両親にお願いしてくれ、オレもわざわざ今から空きホテルを探すってのはどうもな....」
朝樹の意見だ。
「そ、そうね。 お父さんお母さん、おばさまのご厚意を受けてもらって欲しい。私からもおねがい」
見ていた恵が、頷きながら、促す。
「そうして下さい。 あ! それに、宇来ちゃんも、泊って行ったら?」
恵の発言に、戸惑う宇来。
「おばさま、私はアパートがあるので、一家全員がお世話になるのは、時に気が退けます」
「気にしなくていいのよ。 今更じゃないかしら、何なら 朝樹と一緒の部屋でいいと思うわよ」
「恵さん、それいいかも。 私も朝樹さんなら、宇来を任せても良いと思っているので、その意見は賛成です。ね? おとうさん」
「........」
「何で黙ってるの?」
捻りだした父 直樹の言葉は。
「いや、良いかなと思ってな....」
と、重い返事をした。
娘の父親と言うのは、成長と共に、変わっていくとは思っていたが、今がまさしくその時なんだなと、直樹は思い、重い返事をしたのだ。
その表情を感じ取り、宇来が 父 直樹に、言い寄る。
「お父さん、私の事をいろいろと思ってくれていて、ありがとう。 わたしすごく嬉しい、そんなに思っていてくれたんだと思って、今まで無言で見守っていてくれた事に、凄く感謝してます」
静かに一度頷きながら、直樹はまっすぐ宇来を見て。
「これからは朝樹くんと、いい関係で居なさい。 その後もお父さんはお前たちを見守るから、何か事があったら、迷わず頼って欲しい、コレが、父としての意見だ。 とにかく、幸せになりなさい、宇来」
この様に言ってくれた父に、宇来は啼泣(ていきゅう)した。
△
少しして、宇来の鳴き声が治まってきた頃、朝樹が宥める様に。
「宇来、お父さん お母さん、こんな自分を信頼してもらい、ありがとうございます。 みんなの思いを裏切らない様に、宇来とはいい関係で進みたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。」
今この場の雰囲気が、まるで、朝樹が宇来に近い将来での結婚を、希 一家に懇願している様で、両家の両親も、真面目(しんめんもく)の様になっていた。
だがそこに、瑠流の一言で、状況が一変する。
「ねえ、ここに泊まるんだよね? お父さんお母さん」
「「!!....」」
「そうだよね。 瑠流ちゃんの言う通り、何か、話が逸れたね」
コレには朝樹が絶句した。
「逸れたって....、未来....」
「もう!お父さん達、わたし未来ちゃんと一緒に寝るからね」
一連のやり取りを聞き、コレからの事を考え、彩音が直樹に。
「ねえ、藤堂さんの、せっかくのご厚意を受けましょう、あなた」
「う~ん、そうだな。 折角だから、コレからの事もあるし、今回このご厚意に甘えよう」
「やった~!。 未来ちゃん、お風呂も一緒にはいろうね!」
「おっけ~だよ、瑠流ちゃん」
どうやら、そう言う事になったみたいだ。
そして、希 家族は4人全員が、藤堂家に泊まる事になった。
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