第6話


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 藤堂家から出て、宇来のアパートまで朝樹と並んで歩く。

 宇来は隣に居る朝樹との身長差に。

(朝樹さんってカッコいいな、背も高いし。 私との身長差は約30cmかぁ....)

と、自分と朝樹の背丈の差に、溜息が出た。


 歩き始めてすぐに、ドラッグストアがある、宇来はそろそろ無くなりそうな生活品を購入しようと、帰りに寄る事を決めていたので、朝樹に寄ることを言う。


「朝樹さん、ちょっとココ寄っていいですか?」

「あ、ああ、いいよ、オレは外で待っていればいいのかな?」

「すみません、すぐに買ってくるので....」


 そう言って、宇来は店舗に入っていった。


 暫く外で待っていると、朝樹のスマホに着信があった。 幼なじみの 吉田 流(よしだ ながれ) である。


「もしもし? 流か」

『あ、もしもし 朝樹?今いいか?』

「ああ いいぞ」


 慣れ合いな会話で始まる。


『あのな、近いうちに合コンやりたいんで、集まってくんない?』

「先月やったばっかだろ? それなのにもうやるんだ」

『まあまあ、先月のヤツは、イマイチの女子だったろ? 今回は、美形を揃えたんだ、だから来いよ』

「やっぱ顔かお前は」

『そりゃそうだろ? やっぱ、第一印象だ』

「先回の女の子たちには。済まないと思ってないのか?」

『まあまあ、そう堅い事言うなよ、先回は先回、今回は良いぞ~、写真送ろうか?』

「イヤ いい」

『なんでだ?』


 一呼吸おいてから。


「行く気が無いからだな」

『おいおい!お前が来てくれなくっちゃ~、イケメンキングが....』

「そんなの知らん!」

「まあ、そう言いうなよ。 とにかく、今回も頼む」

 電話の向こうで、頭を下げている仕草が見て取れる。

「オレ、そもそもそう言うのって、苦手なんだ」

「真ん中に座っているだけで良いから、来てくれよ、朝樹」

「マネキン置いとけ」

「そんなぁ....、取りあえず考えておいてくれよ、頼む!」

「ふぅ....、取りあえず、返事は保留って事でいいか?流。 多分行かないけど」

「じゃ、じゃあ、取りあえず、また電話かけるからな。いい返事を待ってるぞ」

「お前もそろそろ合コンから卒業しろよ」

「はは....、とりあえず後日な」

「おう分かった、じゃあな」

「おう」


 朝樹の方から電話を切り。

(ったく!相変わらずだな、流は。人は良いのに、女の事となると、全く性格が変わるんだから、困ったもんだ)


 そう思っていると、店から宇来が出てきて。


「ごめんなさい、遅かったでしょ?」

「い、いや、いいから」

 変に焦っているのを、勘づかれてしまった朝樹は、話をすり替えた。


「さ、行こうか」

「はい」


 また歩き出す、とは言っても、道のりは、ほんの少しだ。


「何か電話していたみたいですね、レジ待ちしている時に、店内から見えましたよ」

「そ、そうか?....、学生時代からの親友からだったんだ」

(まずい! また話が元に....)

「って、着いちゃいましたね」


 アパートに着いて、ホッとする朝樹。


「じゃあ、ゆっくり休んで。また明日迎えに来るから」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」


 そう言って、宇来は部屋に入って行った。


(ま、どちらにしても、合コン 行く気は無いんだけどな)


 独り言を言って、家路に着く朝樹だった。



                   △               



「は~びっくりした。 朝樹さんったら、“合コン”なんて言う事を電話で言っていたから、ビックリした~」


 朝樹に送ってもらって、アパートのドアを閉めたとたん、ヘナヘナと座り込んで、呟いてしまっていた。

 ドラッグストアから出ても、少しだけ話声が聞こえてしまったからだった。


(でも、あんなにカッコいいんだから、女の人なんて、切れた事無いんだろうな~、私の事どう思ってくれているんだろ?)


 自分に対してどう思ってくれているのか、少しだけ気になるが、自分の容姿を考えると、少し落ち込む 宇来だった。


「さあ、風呂入って寝よ。ポンコツはポンコツなりに、綺麗にしてやらなきゃね」


 自分を励ましつつ、風呂場に向かい、今日一日の疲れを、ゆっくりと湯船に浸かり、癒した。



「はぁ....、結婚したい....」

(私の旦那様になってくれる人って、今どこに居るんだろう)


 そんな事を思いつつ、何となく結婚願望を口にしている自分がいた。


 その時、ふっと…、朝樹の顔が浮かんだ........。


「....?」



                   ◇



「愛美ちゃんって彼氏いるの?」

「あ、あの...」


 4月が過ぎ、GWをも過ぎた時期になった。


 結構事務作業にも慣れてきた宇来だが、隣にいる同期の愛美には、相変わらずちょくちょく未だに男子が言い寄ってきている。


 またまた昼食中の愛美に、若い男子事務員が迫っている。 困った表情をする愛美。 その様子を隣で見ていた宇来が、見ていられずに、男子事務員に意見した。


「あの、愛美さんが困ってるんで、そこそこにしてあげてくれませんか?」

 いままで言い寄っていた男子事務員が、宇来をまじまじと見て。


「あれ~、カワイイ女子に嫉妬かな~、普通女子さん。 いいから、隣で大人しくしてなさい」

「でも....」

「いいのいいの、そっちには一切迷惑かけないからさ」


 その後も愛美にしつこく言い寄っている男子事務員に、遠くから戒めの言葉が大声で聞こえた。


「こら~!! そこ! 新人を誑かすな!」

 その声を聴いた男子事務員が、怯えながら声の方を向く。


「わ~、咲彩さん!」

「こら!カワイイ後輩に手を出すんじゃない!、ほれ、戻りな!」


 そう言われて、男子事務員が、すごすごと、自分の事務部屋に戻って行った。

 所謂“鶴の一声”である。


「怖かったか?  愛美ちゃん。 もう、オオカミは追い払ったからな」

「はい、ありがとうございます。 助かりました」

 困り弱った表情で、お礼をする愛美。 それを見ていた、宇来にも礼を言う愛美。

「宇来ちゃんもありがとう。 言いにくいのに、言ってくれて、しかも、罵倒じみたことまで言われて、ごめんなさいね」

「いいから。 私、愛美ちゃんと咲彩さんに比べたら、ロースペックのちんちくりん なんで、しかも、学生の時から、アレコレ言われていますから、気にしないんですよ」


「「えっ?!」」(愛美 咲彩)

 宇来の何気ない言葉に呆れ驚く二人。


「ええ??」(宇来)

 コレまたそれに対して、何か分からない驚きの宇来。


「ちょっと何言ってるの? 宇来ちゃん」

「なにがですか?」

「そうですよ、宇来ちゃん」

 ふたりが 何を言っているのか、分からない宇来。

 それに何故か、だんだん呼び方が自然と変わって来た3人。


「ロースペックって、世の中の男子、目が節穴か?」

「....?」(宇来)


「な~に不思議がってるんだ、宇来ちゃん、私、何かおかしい事でも言ったかな?」

「私は、底辺の何処にでもいる、ロースペックな女子なんですよ」


 少し間を置いて、咲彩が言った。


「あはは、自分の事を知ってないんだ、宇来は」

 とうとう咲彩は宇来の事を呼び捨てになった。


「お前はもっと、自信を持て、しかも、ちょっと弄れば、愛美と並ぶ程の美人だぞ」

 咲彩の隣でコクコクと大きく頷く愛美。

 それに対し、今だ不思議そうに首を傾げる、宇来。


「ホント、分かって無いんだね~、宇来ちゃんは。 ホントは美人さんなんだよ~」

「あはは、二人して、からかわないで、本気にしちゃうから」

「本気にしていいから、宇来ちゃん」


 本気にしない宇来に、咲彩が命令する。


「よし!今日、業務終了の5時から、女子ロッカールームに集合!いいかな? お二人さん」

「はい」

「はい?...、あ、はい」

 訳が分からないが、取りあえず返事をする宇来。

 それに対し、ニシシ.....と、不敵に笑む咲彩。


 どうやら、咲彩は作戦があるようだ。



            ◇



 夕方5時になった。


 咲彩が宇来たちに集合を掛ける。


「よし!、業務は終わりだな。 じゃ、行こうか二人とも」

 そう言って、二人を連れて、ロッカールームに連れて行った。 その途中、咲彩がスマホを取り出し、誰かに連絡をしていた。


 部屋に入ると宇来を椅子に座らせて、咲彩が持って来たメイク道具を開け、カチューシャで、髪を止め、ニヤリとして、宇来の顔を弄り出した。


「あの....」

「ん? なんだ? 宇来」

「私5時半くらいに藤堂さんが待ってるんですが...」

「毎日送迎してもらっているんだろ?、それは知っているが、何か?」

 咲彩はまた不敵な笑みをして、宇来に訊いた。


「もしかして、朝樹くんと付き合っているのか?」

「!!....」

 若干動揺する宇来。


「宇来ちゃん、いつ藤堂さんとお付き合いし始めたんですか?」

 愛美も聞く。


「あ!違います」

 取り繕う様に、表向きは否定する。 

 続けて。

「そ、そう言うのじゃなくって、私は藤堂家の人達と、チョットした事から親交があるんです。しかも朝樹さんの家と、私のアパートがすごく近い事もあって特に朝樹さんのお母さんから、女の子一人だから、暫く送ってくれる事にと、家族会議で決められたんです」

「うわ~いいな~宇来ちゃん。藤堂さんって、カッコいいでしょ?」

「はい、私にはもったいないかな。お互いのスペックの違いが歴然で、つり合い取れないし....」


 宇来のメイクをしながら、咲彩が、不敵な笑みから、また ウシシ という顔になった。


「じきに仕上がるから、今日この後の朝樹くんのリアクションを明日教えるんだよ、分かった?」

「え~.....と、はい」

「それと、コンタクト持ってるか?」

「はい、一応、メガネの予備として」

「なら、尚更よいな、うん」

 会話をしながら、せっせと手際よくメイクを済ませて行く咲彩。それを見ている愛美が。

「いいな~宇来ちゃん、帰りに 逆告したら?」

「それ成功するかも?」


 二人が宇来の気持ちを置いたまま、はしゃぐ。


「私は旦那が居るし、愛美も彼氏が居るんだろ? ほれ、そのリング」

 咲彩が 愛美の左手の薬指を見て、言った。


「あ、バレてました? はい、大学からの彼氏です。多分、結婚する予定です」

「だったら、昼間のあの男子事務員にハッキリ言ってやれ、私はもう ソールドアウトですって」

「はい!そうします」


 ちょっとだけ3人で笑った。


                  ・・・


 5時半に近づいた時

「よし!おわった。 さあ、自分を見てみな、宇来」


 そう言って、手鏡を渡された。 自分を見て、宇来が


「あの、どちら様ですか?」 

と、すっとぼけた声を出した。


 咲彩が ニヤリ としながら

「宇来 自分だ。 ど~だ? ふふふ....」

 まじまじと見ていた愛美も

「宇来ちゃん、奇麗、メッチャカワイイ、凄い!咲彩さん」


 ドヤ顔の咲彩が

「コンタクトにして、早く帰れ。 朝樹くんに早く見せてやれ。特に他のヤツらに見られるなよ~、ウシシ....」

「はい、ありがとうございました、お先に失礼します」

「頑張ってね 宇来ちゃん、ばいば~い」


「うん、また明日ね、ばいばい」


 そう言うと、バッグを持ち、廊下に出る前に、そ~っと人が居ないか周囲を良く見て、居ない事を確認し、そそくさっとエントランスから出て、朝樹の待つ駐車場へ急いで行った。




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