第4話
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ショッピングモールから帰り、一度 宇来は自分のアパートに今日買った物を置きに行き、再び藤堂家に向かった。
午後6時半を過ぎると、まず父親の拓也が、その後7時前になって、朝樹が帰って来た。
△
「ただいま~...って、あれ? 宇来ちゃん、何で?」
遅く帰宅した朝樹は、自宅に宇来が来ている事に、何故だか安心した。
「お邪魔してます。 えへへ、今晩招待されちゃいました~」
「ほほう、いいんじゃないの、ゆっくりして行きなよ」
「ありがとうございます」
宇来は、朝樹の返しの言葉に、自信が容認された人物として認められたと感じ、とても嬉しく思った。そして、夕食をご馳走になる代わりに、どうしてもその手伝いをすると言って聞かなかった。
恵は。
『いいから、未来と一緒に待っていていいのよ』
と、言われたが、性格がそうはさせなかった。
無理強いでも、手伝うと言い張り、モールから一度アパートに帰った後、エプロン持参で、只今この状態である。
「へえ~、エプロン姿、カワイイな 宇来ちゃん」
この春、購入したばかりの可愛いイエプロンを身に着け、その姿を朝樹に恥ずかし気に、見られた。
「あわわわ...。いきなりの朝樹さんの攻撃ですね」
「だって、ホントだもん」
二度も褒められて、恥ずかしがる宇来。 その照れを隠すために。
「じゃ、じゃあ おばさまの手伝いに戻りますから、呼んだら来てくださいね」
「分かった。 楽しみに待ってるよ」
「はい!」
そう言って、口角を上げながら、宇来はそそくさと、キッチンに戻って行った。
(はは、仕草が可愛いな、宇来ちゃん)
そう思う 朝樹だった。
△
「それじゃあ、頂こうか。 いただきます」
父 拓也の いただきます の合掌と共に、家族全員と宇来が、いただきますを言って、箸を進める。
「母さん、今日のギョーザ、いつもと包み方が違うけど...」
朝樹が母親に聞いてくる。
「宇来ちゃんが包んでくれたのよ~、手際が良くて、助かっちゃったわ~」
「へえ~、宇来ちゃん、家事 得意なの?」
「中学の時から、母親がパートに出だして、私が夕飯を手伝う様になって、さらに、高校・大学に入ってからの一人暮らしで、今は家事全般普通にやってます、と言うか、やらざるを得ないです」
「な~るほど」
納得した朝樹が、またギョーザに手を伸ばす。
「ホントに美味いな、ギョーザ」
「重ね重ね、ありがとう朝樹さん。でも、わたし包んだだけなんで....」
その会話に割り込む様に、未来が自慢する。
「このポテトサラダは私が作ったんだよ、えっへん!」
「おお、分かってるぞ。 未来のポテトサラダは最高だからな」
「えへへ、やったぁ~」
みんなが楽しく夕食を進めている最中に、父の拓也が恵に問う。
「何かみんなに話す事があるんじゃないのか? 恵」
「そうね、今日はみんなと 家族で話し合いがあるの、食べながらでいいかしら」
「オレは了解した」
拓也が言うと。
「私もお兄ちゃんもおっけいだよ、ね、お兄ちゃん」
「ああ、オレも大丈夫だ」
みんなの顔を伺って、恵が話し出した。
「あのね、実は、宇来ちゃんの事なんだけれど....」
今日のショッピングモールでの、女子三人の会話を掻い摘んでの話と、その後、恵が宇来の事を心配しての 提案 を話し出した。
「でね、コレから社会に出る宇来ちゃんなんだけど。なにせ若い女の子の一人暮らしという事になるので、昨日から知り合って、日の浅い事は重々承知してるんだけど、私はこんな可愛い娘が、一人でアパート暮らしってのが、とても心配でたまらないの、そこでね....」
「そこで宇来ちゃんが良ければ、ウチ部屋開いてるし、ウチで暮らしてみない? って事なんだ、お父さん お兄ちゃん」
途中から、未来が説明した。
「男居るぞ 恵 未来、いいのか?」
父、拓也が 質(ただ)す。....が。
「あのね、 あなた達って、カウントに入らないの、分かる?」
「「........!!」」
男子二人が絶句し、若干だが気落ちした。
その二人の姿を哀れ見て、未来が。
「ちょっとぉ~、お母さん。我が家の男子達の落ち込み様が半端ないので、それ以上言わないであげて」
未来に言われて、恵が男子二人を見る。
「あら、ごめんなさぁい。あなた、朝樹」
「今更謝られても........、なあ、朝樹....」
「う....、うん」
そこで、今まで黙っていた宇来が、意見を言う。
「無理にならいいんです、おばさまがとっても心配して下さったので、議題になっただけなんです。 ダメならいいんですよ、私だって、短大に通っていた時だって、普通に一人暮らしだったんで、自分的には心配をしてないんですが」
「今までは、たまたま運が良かっただけで、コレからもっと奇麗になっていったら、わたしもう心配で心配で....」
ココで、未来が宇来に頼む様に言ってくる。
「ねえ宇来ちゃん。お母さんの言う事、聞いてあげてくれないかしら。 いくら家が近いからと言っても、まだ知り合ったばかりだし、そうは、しょっちゅう行ける訳では無いんだから。 お願いよ....、ね?」
宇来が済まないような、困惑した様な顔をしている。
朝樹がそんな宇来を、気の毒そうに見ていたが、どうしても黙っていられなくなって、自分の考えを提案する。
「あの、みんな、オレの案なんだけど....、聞いてくれるかな。宇来ちゃんも」
一同が、朝樹の案を聞こうと、一斉に朝樹に向く。
「あのさ、オレの考えとして、宇来ちゃんは別にウチに下宿みたいな事はしなくても、良いと思うんだ」
この朝樹の言い出しに、恵と未来が意味深気に、怪訝な眼差しをし、その意見に未来が反論した。
「なんで? どうして?お兄ちゃん。いくら何でもそれはちょっと冷たいんじゃない?」
未来が朝樹に対して、冷ややかな目をしながら、若干大声で言った。だが、この女子二人の態度に、朝樹は慌てて否定する様に、言い直した。
「違う違う!未来、まずオレの話を聞いてくれ」
「何なの?」
今だ怪訝な面持ちをしている未来が、さらに聞いてきた。
「あのさ、今の宇来ちゃんの思いを考えて見なよ。全くもって昨日今日の知り合いになるウチの家族に、突然住み込みをお願いし、しかも、明日からオレと同じ会社に出勤するわけだろ? そんなん、常識的に考えたら、思いっきり恐縮してしまうのが普通なんだと思うんだけど、そうじゃないのかな? 宇来ちゃん....、どう?」
朝樹が、宇来の思っているであろう思考に、ほぼ的中した事に驚く宇来。
(この人は本当に相手の気持ちになって、物事を考えてくれる人なんだ)
と、朝樹の事を思った。
「私が言いたいのは、朝樹さんが言ってくれた事で、ほぼ合っていると思います。ありがとう、朝樹さん、分かりやすく言って頂いて」
「いいから....。で、オレが言いたいのは、その事も考慮して、宇来ちゃんは、この家に住むんじゃあなくて、毎日の晩御飯だけはココでみんなと一緒に食べながら、色んな話をしたらいいと思うんだ。 どうかな? 父さん 母さん」
「それでも、夕飯が終わる頃には、暗くなって、家路が短いとは言っても、心配だ」
拓也が心配そうに、宇来を見る。
「それは大丈夫!」
意気揚々と、朝樹が言い切った。
「どう言う事?」
未来が訊いてきた。
「送りは、オレが責任をもって、送るから、それに、未来も一緒の三人なら、尚更安心するだろ? 宇来ちゃん」
「はい! その案なら、わたし 受けたいと思います」
(ありがとう朝樹さん(宇来))
「だったら、わたし、その足で、宇来ちゃんの部屋に時々泊っちゃおうかなぁ、ちょっと図々しいかなぁ....」
「あ!それいいかも、未来ちゃん。おっけいよ、わたしなら」
「どうかな?みんな....」
朝樹の意見に聞き入っていた拓也と恵が、お互いに見つめ合い、頷いて。
「そうね、その案なら、私たちもいいわ。 だけどね、必ず毎日顔は見せてね、宇来ちゃん」
認めてもらった事に安堵して、宇来が拓也と恵にお礼を言った。
「本当にありがとうございます。ただでさえ、あつかましいと思っているのに、
朝樹さんからいい案を出して頂いたおかげで、私も安心してこの町での生活を送ることが出来そうです。ただ....」
何かまだ拘りがあるのか、宇来からさらに言い出したい事があった。
そして....。
「あの、わたし、夕飯を毎日頂く訳ですから、食費を払いたいです」
この意見に、恵が。
「そんな事いいのよ。気にしないでね、宇来ちゃん」
だが、その宇来の意見を聞いた朝樹は、母親に対して。
「母さん。オレの意見だが、宇来ちゃんからは、ちゃんと食費は貰った方が良いと思う」
「まあ、朝樹まで。なんでそんな事言うの? 別に一人分増えたって、女の子なんだから、そんなに食費の出費は変わらないわよ」
この恵の意見に、朝樹は敢えて反論した。
「あのさ、母さん。この宇来ちゃんの性格で“夕飯タダ”なんてのは彼女の性格上、気が棘めるだろうから、この場合は、きっちりと受け取った方が良いと思うが。どうなんだ?宇来ちゃんは?」
(この人って、本当に相手の気持ちに向き合ってくれる人なんんだ)
と、宇来は、朝樹に対して、信頼と、何か分からない感情が起き始めた。
「ありがとうございます、朝樹さん。私の意見は朝樹さんの言葉で合っています。なので、おじさま、おばさま、食費は払わさせてください」
コレに、拓也が。
「いいんじゃないか? 宇来ちゃんに杞憂が無くなるのなら、それでオレは良いと思うが」
「ありがとうございます。おじさま」
「まあ、そう言う言事だから、母さん、宇来ちゃんの意見も受け入れてやってくれよ」
朝樹に言われ、少しだけ考えてから。恵は。
「そうね....、そうよね。それで気兼ねが無くなれば、気楽に家に来てもらえるわね。 分かったわ、宇来ちゃん。じゃあ、これから毎月ちゃんと食費は頂くわね、コレで良いかしら」
宇来が微笑みながら。
「はい。 これで私も、この家にお邪魔させて頂けやすくなります。本当にありがとうございます」
「良かったわ~、取りあえず私達も安心出来たけど、わたしからもう一つお願いがあるの、宇来ちゃん」
え? っと言う驚きと、今度は何だろうと言う、ちょっとした不安が入り混じった面持ちで、恵を見る宇来。
「明日から、会社へ行くのに 朝樹の車で送ってもらって欲しいの、恥ずかしいからダメかな?」
「そ...それは....」
「は~、さすがに恥ずかしいわよね、ごめんなさいね、変な事言って」
コレには、未来が反応した。
「宇来ちゃん。 お母さんのお願い聞いてあげて、もう一度、わたしからのお願い」
少し宇来が暫く考えた後、笑顔になって。
「はい、そうします。....でも....でも、最初は恥ずかしいので、後ろの席でお願いしてもいいですか?」
「それは勿論、とにかく一緒だったらいいから、ありがとう、私の我儘聞いてくれて」
「いえいえ、何から何まで、お世話になります」
「あ~、コレで、何か胸のつっかえが大分無くなったわ~」
「あ、それと、この事は、宇来ちゃんの両親にも報告しておいた方が、いいと思うんだけど、どうかな 父さん」
「それはしておいた方が、後から知るよりもいいと思うな、賛成だ」
「だよね。 だってさ、宇来ちゃん」
「はい、分かりました。部屋に帰ったら、早速連絡します」
は~....、と安堵の溜息をついて、安心した表情を見せる、恵。
「そろそろ帰った方が良いんじゃないかな? 宇来ちゃん」
あまり遅くならないように、帰りを促す朝樹。
「あ! もうこんな時間、明日の準備がまだ半分だったんだ、すみません、今日はコレで帰ります、ありがとうございました」
「いいから、じゃあ明日、朝樹に迎えに行かせるからね、気を付けて帰るのよ、おやすみ」
「はい、色々ありがとうございました、おやすみなさい」
そう言って、宇来は朝樹と未来の護衛と共に、自分のアパートに帰って行ったのだった。
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