第5話
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私は昔から本を読むことが好きだった。物語の主人公に感情移入して、自分ではない誰かの物語を楽しむ。それがとても楽しかった。でも、いつしかそれだけじゃ満足出来なくなっていて、自分もこんな風になれたらなと思うようになった。だから、中学を卒業したと同時に親の反対を押し切り、東京の高校へ進学した。
初めは慣れないことばかりで戸惑うことも多かったけど、次第にそれも無くなり、友達も増えてきて充実した日々を送っていた。
そんなある日のこと。いつものように学校へ行こうとすると、玄関の前に人だかりが出来ていた。何事かと思って近くまで行くと、そこには私と同じように、制服を着た男の子がいた。彼は泣きながら必死になって叫んでいるようだったが、何を言っているのか分からなかった。
――
助けて!
――
その声を聞いた瞬間、私の頭の中に何かが流れ込んできた。まるで自分が経験したことかのように鮮明で、現実のような感覚だった。
気が付けば、私は彼を助けようと飛び出していて、気が付いた時には目の前が真っ暗になっていた。
***
目が覚めると見覚えのない天井があった。ここはどこだろう?見渡す限り、知らない場所だ。起き上がって周りを見渡してみたけど、やっぱり分からない。しばらくボーっとしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
コンコンッ 誰だろうと思いつつ、返事をしようと思った時、ふと思った。あれ?私って今までどうやって喋っていたっけ?そう思って自分の手を見てみると、記憶にあるものよりも随分小さくなっているような感じがした。もしかして、これって…… 慌ててベッドから出て鏡の前に立ってみる。そこに映っているのは、間違いなく小さな子供の姿だった。
どうやら、あの男の人は助かったようだ。良かった。
それにしても、まさか異世界転移とは驚いた。
正直、今でも信じられない。夢を見ているんじゃないかと思って頬っぺたを引っ張ったけれど、痛いだけだった。つまり、これは現実なんだ。
これから一体どんな生活が待っているんだろう? 不安もあるけど、それ以上に楽しみの方が大きいかな。
そうだ!折角だから、この世界を満喫しないとね。
* * *
とりあえず、家を出て近くの公園に行ってみることにした。家の外に出るのは久しぶりなので、少し緊張する。
家から出ると、太陽の光が眩しくて思わず目を細めてしまった。そういえば、今は何時頃なんだろうか?太陽の位置を見るに、恐らくお昼前くらいだと思うんだけど……。
そんなことを考えていると、早速道に迷ってしまった。ここ何処……? 途方に暮れていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、一人の女性が立っていた。綺麗な女性だ。歳は20代前半くらいに見える。服装は動きやすそうな格好で、腰には剣のようなものを差しているみたいだった。この辺りに住んでいるのだろうか? 女性は僕のことを心配してくれているようで、色々と話しかけてくれた。でも、僕はまだ上手く話すことが出来なかった。
困り果てていたその時、また頭に何かが流れ込んでくるのを感じた。
――
私はソフィア。君の名前は?
(君は?)
――
僕は涼介。
――
リョウスケっていう名前なのかぁ〜 ところで、どうして一人でこんな所にいるの?お母さんとかお父さんはいないの?
(えっと……)
僕はなんて答えればいいか分からずに黙ってしまう。
すると、ソフィアさんが僕を安心させるように微笑んでくれた。その笑顔を見た瞬間、僕は何故か涙が出そうになった。僕はこの人のことが好きだなって思った。
僕は何とか気持ちを抑えて、自分の置かれている状況を説明した。すると、ソフィアさんの表情が変わった。
――
ねえ、あなた小説家になりたいと思っているのよね?それなら、私と一緒に来ない?私があなたの師匠になってあげるわ! 僕は喜んで彼女の提案を受けた。
それから僕はソフィアさんについて行き、ある場所に辿り着いた。そこは森に囲まれた大きな屋敷だった。
彼女はその屋敷に住む魔女らしい。僕は彼女に魔法を教えてもらうことになった。
まず最初に教えてもらったのは魔力操作という技術だ。
簡単に言うと、体内に流れるエネルギーの流れを操作することで様々な効果を発揮することが出来る。例えば火を出したりとかね。ただ、これを意識的に行うことはとても難しいらしく、僕が最初に出来るようになったのは身体強化と呼ばれるものだった。ちなみに、この世界の人間は基本的に全員、多少なりとも魔力を持っているので誰でも使えるらしい。
次に教わったのは詠唱だ。これはイメージを明確にするためのものだと言われている。
最後に習ったのが魔道具作成術と呼ばれるもの。これはその名の通り、魔道具を作るためのもので、魔石に魔力を流し込むことによって作ることが出来る。
僕は彼女の指導の下、色々なものを作り出した。
そして、【魔法使いの弟子】
この作品が後に大ヒットとなり、僕は一気に有名作家の仲間入りを果たした。
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