第3話


 ****


「……これで終わりか?」

「はい。次は登場人物の設定を書き込んでいきましょう。名前や性格、職業なんかも決めていきます」

「なるほど」

「まずは主人公からですね」

「ふむ、『高橋涼介』という名前にするのだな?」

「はい。そうですね」「性別は男、年齢は18歳。職業は……特に決まっていないか」

「まぁ、まだ高校生ですしね。とりあえず学生で良いんじゃないでしょうか」

「うむ。他には何か決めることはあるか?」

「そうですね……年齢とか誕生日は必要ですよね。あと、趣味も書いておきたいですね」

「趣味は読書と。後は?」

「後は……好きな食べ物、嫌いな食べ物、得意なこと、苦手なこと、家族構成などは最低限決めておいた方がいいかもしれませんね」

「ふむ、意外とあるものだな」

「まあ、この辺は読者へのアピールポイントにもなり得ますからね。適当には書かない方が良いでしょう」

「『俺は勇者である。世界を救った英雄であり、孤独だ』」

「ちょっと待ってください。『孤独』を強調しすぎじゃないですか?もっとこう、爽やかな感じで書きましょうよ」

「むぅ……難しいな」

「そうですね……。じゃあ、こんなのはどうでしょうか」

「『僕は世界を救ってしまったせいで、誰も僕のことを知らなくなってしまった。世界を救った勇者として祭り上げられてしまったからだ。でも、別に僕が望んだことではない。それに、今は平和になってしまったために、魔王を倒した勇者に対する世間からの風当たりが強くなってしまい、人々は僕を避け始めた。そのことに悲しさを感じながらも、どこか安堵している自分がいる。なぜだろう』」

「ふむ」

「『きっとそれは、今の自分にはもう居場所がないと思っているからなのかもしれない。だが、そんな時に僕はある人物に出会った。彼女もまた勇者として魔王を倒したものの、人々に避けられ、孤独になっていた。彼女は言った。「あなたは私の初めての『仲間』です」と。そこから僕らの冒険が始まった』」

「ほう」「『最初はお互いのことを知らなかったが、一緒に過ごすうちに段々と彼女のことが分かってきた。僕は彼女が好きだ。だからこそ、彼女とずっと一緒に居たいと思った』」

「うむ」

「『でも、それと同時に彼女を危険に晒したくないとも思った。魔王を倒したことで、また人々の間で争いが起こるのではないかと考えた。その時、彼女に言われた言葉を思い出す「私だって怖い。それでも私は行く。貴方と一緒に』」

「『だからお願い。私と……』」

「『結婚してください』」

「『……はい』」

「ふー、やっとここまで来ましたね」

「ああ。だが、これで終わりなのか?」

「いえ、まだです。次はこれを」

「『結婚指輪』か。これがどうかしたのか?」

「これを渡すシーンを書いてほしいんです」

「『君に似合うと思って買ってきたんだ。受け取ってくれるかい?』みたいな感じだな?」

「はい。そうです」

「うむ。分かった」

 ―――――――――

『結婚したので、小説書くのやめます』完結

 作品名:『孤独な小説家志望の俺を拾ってくれた編集者が幼馴染だった件について』

 作者:高宮悠斗

 キーワード: 異世界転移 恋愛 ラブコメ

「……」

「どうしました?」

「いや、なんだか変なタイトルだなと思って」

「まぁ、確かにそうですけど。それよりほら、早く感想を貰いに行きましょう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る