第2話


 ****


「えっと……ここかな?」美波の家の前で少し迷った後、ようやく涼介の部屋の前に辿り着いた。

「あのーすみません。松乃さんのお宅でしょうか?」

 インターホンを押して呼びかけると、「はい」という返事とともにドアが開かれた。出てきたのは眼鏡をかけた男性だった。

「えっと……どちら様でしょう?」

「あ、申し遅れました。私、高橋と言います。涼介君と同じ学校の友達で、今日涼介君に用があって来たんですけど」

「ああ、涼介の友達の方でしたか。涼介なら今出かけてまして」

「そうだったんですね。ちなみにどこに行ったかご存じありませんか?」

「さぁ?ちょっと分からないですね」

「分かりました。ありがとうございます」

 私は頭を下げてからその場を離れた。「涼介君が帰ってくるまでここで待たせてもらおっかな」

「んー……」

「あら、どうしたの?」

「いえ……なんだか外が騒がしいような気がして」

「ふぅーん。ま、気のせいじゃない?」

「……ですよね」

 ――コンコン

「はい」

「あの、僕だけど」「おお、開いてるぞ」

「お邪魔します」

「いらっしゃい」

 僕こと涼介はいつものように師匠の元へ向かった。

「それで今日は何をするんだ?」

「とりあえずはプロットの作成ですかね」

「ほう、それはどういうものだ?」

「簡単に言えば物語の骨組みみたいなものです。物語の流れとか、登場人物の設定とかも書き込んでいきます」

「なるほどな」

「それと今回は読者目線で読んでもらいたいので、できるだけ感情移入しやすいようにしましょう」

「了解だ」

「じゃあ早速始めていきましょうか」

「うむ」

「えっと……『魔王を倒した勇者は世界を救った英雄となった』」

「うん」「『だが、その代償は大きく、平和になった世界で彼は孤独になっていた』……こんな感じです」

「ふむ。つまりこの世界に居場所が無くなっているということだな?」

「はい。なので次からはこの主人公の気持ちになってみてください。あ、でもあくまで主人公になりきるのではなく、あくまでも自分の体験談として書いてください」

「分かった。やってみよう」「それではお願いします」

「『魔王を倒した勇者は世界を救った英雄となった』」

「…………」

「……うーむ、どうだろうか」

「えっと……そうですね。悪くはないと思います。ただ、もう一歩踏み込みたいところがあるんですよね」

「ふむ、例えば?」

「えっと、こういうのはどうですか?」

「『だが、その代償は高く、平和になった世界で俺は孤独になっていった』」

「ふむふむ」

「これだと『孤独な』が強調されすぎていて、あまり良くないかと。あと、もう少し他の人と交流する場面があってもいいかもしれません。例えば『酒場』とか」

「なるほど……」

「『俺』が『酒場』に行くことで、『仲間』ができるわけだな?」「はい。そこで初めて『仲間』と呼べる存在が出来るんです」

「『仲間』とは具体的にどんなものなのだ?」

「えっと、同じ目的に向かって一緒に行動する人たちのことですね。冒険者ギルド的な組織に所属する人もいれば、個人で活動している人もいるはずです」

「なにか依頼があればそれを解決することで報酬を得る。そういう仕組みになっているのか?」

「はい。基本的にはそうですね。他にも、困っている人を無償で助けたり、依頼を受けずにお金を稼ぐことも出来ます」

「色々あるのだな」

「はい。また、時には協力し合うこともあります」

「『協力』というのは?」

「例えば、誰かが魔物に襲われているところに別の人が通りかかって、助けを求められた場合、普通なら無視してしまうところですが、もしその場にいたのが強ければ、助けることもあるかもしれないということです」

「確かにそうだな」

「そして主人公は強いため、弱い人の頼みを聞くことが多いです。しかし、だからといって全ての人に力を貸していたらキリが無いので、ある程度の線引きが必要となってくるんです」

「つまり、その線引きをするために『協力』が必要になるという訳だな?」

「はい。大体そんな感じです」

「よし、では続きを書いていこう」


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