高宮悠斗は小説を書きたい

高宮悠斗

第1話


「いや、俺だって悪かったと思うけどさ……」

 涼介が口を尖らせる。

「でも、もういいじゃん。こうして仲直りしたんだし」

「そうだよ。私も反省したから。これからはもっと仲良くしようね」

「ああ……うん」

 二人とも笑顔だ。これでよかったんだよね? と僕は思った。それから、三人ともそれぞれ自分の部屋に戻った。

 その夜、僕は自分の部屋で一人考え事をしていた。

(結局あの二人はどうなったんだろうか)

 そんなことを考えていた時だった。

 ――コンコン ドアをノックする音が聞こえた。

 誰だろうと思いながらドアを開けると、そこには制服姿のままの美波がいた。

「あ、ごめんなさい。ちょっと話したいことがあって……今大丈夫?」

「えっと……うん。まぁ入ってよ」

 とりあえず部屋に通すことにした。そういえば初めて女の子を入れることになるのか。なんだか緊張してきたぞ。

「飲み物とか持ってこようか?」

「ううん、お構いなく」

 部屋の真ん中にあるテーブルに座る美波。

「それで、どうかしたの?」

「あのね……今日学校で聞いたんだけど、涼介君ってバイトしてるらしいの」

「へぇーそうなんだ。知らなかった」

「しかも結構お金貯めてるみたいでさ」

「ふぅーん」

「だから、その……もし良かったらなんだけど、私にも何か手伝わせてもらえないかなって思って……」顔を赤らめながら話す美波。こんなことを言われるとは思わなかった。

「気持ちは嬉しいけど、別にそこまでしてもらう必要ないかな。僕一人でなんとかなるし」

「でも、せっかくだし……それにほら、私料理得意だよ!」

「いや、それなら僕の方が上だと思うけど」

「うっ……それは確かに」「そういうことだから。気にしないで」

 僕は美波に帰るよう促そうとした。その時だった。

「じゃあさ!こういうのはどう!?二人で一緒に涼介君の家に行くっていうの」

「はい?」

 何言ってるんだこの人。

「だって、二人とも手伝ってあげたいんでしょ?だったら同時に行けば問題ないじゃない!」「いやいや待て待て!なんで僕の家に二人が来るんだよ!」

「三人で勉強会すればいいじゃん」

「絶対嫌だ!!」

「え~どうして?」

「どうしても何もあるか!!とにかく無理なものは無理です!!」

「むぅ……分かったわよ。でも、せめてどんな内容なのかだけでも教えてほしいんだけど」

「いや、だからそれは……え?」

 一瞬固まってしまった。美波がいつの間にか僕のノートを開いていたからだ。そこには『異世界転生』という文字があった。

「ちょっ、勝手に見るなよ!」

「ねぇ、これってどういう意味?」

 美波の表情が変わる。しまったと思った時には遅かった。

「あ……えっと……これはその……なんていうか……」

「ねぇ、これってまさか――」

 美波が何かを言いかけた時だった。突然美波の体が光り始めた。

「な、なんだ!?」

 そして次の瞬間には美波の姿は無くなっていた。まるで元の世界に帰ったかのように。

「一体何が起こったんだ?」

 混乱している中、ふと足元を見ると一冊の本が落ちていることに気づいた。表紙にはタイトルらしきものが書かれている。「えっと……『異世界転生マニュアル~初心者編~』?何だこの本?」

 不思議に思いながら本を手に取る。すると、本のページがひとりでにパラパラとめくられていった。そして最後の方まで行くと、ある文章を見つけた。

『異世界に行きたいですか?』

 その下に小さく『はい/いいえ』と書かれている。

「何だこれ?」僕は思わず首を傾げた。しかしすぐに答えが出た。

「……まさか美波はこの本を試したのか?」

 そうとしか考えられなかった。そうでなければいきなり消える理由が無い。

 だとしたら急がないとまずいかもしれない。そう思った僕は急いで支度をした。財布、スマホ、鍵……よし、忘れ物は無いな。

 玄関に向かう前に一度部屋に戻ることにした。さっき落とした本を拾うためだ。

(あれ?)

 拾い上げた時に違和感を覚えた。

「なんか……軽い?」

 手に取った感じでは重かったはずなのに、実際は予想より軽かったのだ。

(そういえば、美波は最後何を言おうとしてたんだろう)

 そんな疑問を抱きつつ、僕は部屋を出た。

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