第8話【背伸び】

アスターと一緒に食堂に向かうと、既に皆揃っていた。


「おぉアインス来たか」


「とりあえずご飯を食べましょう」


というわけでアインスも直ぐに席に着き食事を開始する。


(そう言えばこの世界基本日本語で話す癖に"いただきます"とか無いな)


 因みにアスターは既に一足早く夕食を済ませており、アインスの後ろに立っている。

 しばらくして、食事が終わると今日の話が始まった。


「よし、みんな食べ終わったみたいだし今日の話をするか」


「ではまず私から、アインス様申し訳ございませんでした」


 アスターはそう言って深々と頭を下げた。


「ん?何でアスターが謝るの?」


「今朝アインス様が頭痛を訴えたにも関わらず、私はそれを無視してしまいました。それに対する謝罪です」


 どうやらコルチカムがあれからしっかりと詳しい状況の説明をしてくれた様だった。


「いや、それは普段から嘘ついてた僕も悪かったし良いよ、僕の方こそごめんね?」


「いえいえとんでもないです!アインス様は何も悪くありません!」


 アスターに続いて両親も謝罪した。


「俺の方からもすまないアインス、今回は俺の不注意だった」


「私もごめんなさい、少しでもアインスの成長の糧になればと思ったのだけど...」


「良いよ、父上も母上もありがとう!僕これから稽古頑張るね!」


(なるべく煽らないように幼く見せるの以外と難しいぞ‼︎)


 などと別のことを考えていると、アスターの更に後ろから声がした。


「でも確かにアインス様前よりちょっとオーラが変わりましたね」


「オーラ?」


 アスターの背後から出て来た例の小さなメイドが喋ったので、アインスが思わず聞き返した。


「はい、なんだか前より落ち着いたというかか、大人びたというか、とにかく雰囲気が変わりました!」


「ナズナ?食器を片づけたら早く下がって寝具の準備をしてきなさい!」


「はーい」


 アスターに言われ、小さく手を振って下がっていくナズナに釣られてアインスは軽く手を振り返した。


「なぁに?アインスったらもうメイドに手を出しちゃったの?だめよぉ〜せめて学園卒業するまでは子供なんだから」


「いやっ!ちっ違うよ!ただちょっと本を運ぶのを手伝ってくれただけだよ!」


「確かナズナちゃんは6歳だったか...まぁ若いうちに色々経験するのも大切だが、あまりハメを外しすぎるなよ?」


(この家貴族の中でも大分おかs...珍しいのでは?もしかしてコンプレプリオスト家が辺境伯なのって厄介払い...それは無いと信じよう)


 アインスは否定するのを諦めて、逆に今後の本選びや本の運搬を手伝ってもらをおうと思いそのままスルーした。


「アインス様、因みにどの様な本を読んだのですか?」


「えっあぁ...えっと」


(不味いその質問は考えてなかった‼︎流石に5歳児が魔術の勉強を始めたら気味が悪い!)


「確かにそれは父さんも気になるなぁ」


(不味い不味い!これは流石に話を逸らすのは無理だ...なんとか誤魔化さなければ!)


「いやぁ本の名前忘れちゃってさぁ...ほらアレだよアレ...英雄が活躍するみたいなやつ!まだ全部見てないけど凄そうだったよ!」


(お願いだ!すごい英雄の伝承とかあってくれ!)


「ん?そんな本家にあったか?うーん」


「もしかしてへーニルの伝記かしら?」


「英雄要素はないぞ?」


「ちっ因みにそのヘーニル?って人は何をしたの?」


 ここでアインスは必死に話を逸らそうと話に出てきた単語にしがみついた。


「あぁあいつは...俺の古い友達だな」


「そうねぇあの人はとっても良い人だったわね」


(しまった!罠だったのか!これは大きな地雷をふんでしまっt)


「まだご存命ですけどね」


「なんだよ!」


(思わずつっこんでしまった...アスターが居なかったら本当に騙されてたぞ!)


「まぁ久しく会って無いし同じ様なもんだろ」


「今度うちのアインスを自まn...見せつけるために呼んでみましょうか!」


「母上それじゃ言い直せて無いです」


「奥様、ヘーニル様もお仕事が忙しい身ですので流石に来られないかと...」


「以前会いに行った時は暇そうにしてたぞ?何やら大人の鬼ごっこをしてるとか何やら」


(完全にスルーされたし父上のそれはただサボって逃走しているでは?)


「まぁヘーニルの件は手紙を送ってみるとして、結局アインスの読んだ本は何なのかしら」


「こ、今度持ってくるよ...」


 アインスはそれだけ言って逃げる様にその場を去った。


「全くアインスも素直に言えばいいものを」


「旦那様?それはどういった意味ですか?...」


「なに簡単なことさ、ちょっと背伸びして自分を大人に見せたかったのさ」


「お二人共それを分かっててえて聞くとは...かなり鬼畜ですね」


「昔のコルチカムもひどかったわねぇ」


「おいサルビア!何十年前の話をしてるんだやめろ⁉︎」


 コルチカムとサルビアの昔話はこのまま夜遅くまで続いたと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る