第9話【本棚部屋】

これ以上聞かれると困るため、アインスは自分の部屋に逃げて来た。


「これ以上は流石に誤魔化せないから時間が解決してくれるのを待とう」


 そんな独り言を言いながら自分の部屋に戻り、読み途中の魔術本を再度開く。


「とりあえず魔学の中に魔法と魔術って分野があるのは解ったな、後解る事は女性の方が体の魔術回路が強い事ぐらいだな」


 この世界では、男性より比較的筋肉の付きにくい体の女性の方が魔力が体の中の隅々まで行き届くとされている。


「まだ最初の方しか見てないから解らないけど面白いな」


 今まで存在しなかった新たな魔術という概念にアインスは、新しい玩具を貰った子供の如く目を輝かせていた。とは言え流石に今日一日色々な出来事があり、睡魔に襲われた為、ベットに潜るとぐっすりと寝てしまった。


(ゼウスもあぁ言ってたし明日から体鍛えていかないとなぁ)


 次の日アインスはいつもより早く目が覚めたので、着替えを終えて魔術本の続きを読んでいると、いつもの時間に部屋をノックする音と共に、アスターがアインスを起こしに来た。


「アインス様〜そろそろ朝食の時間です...よ?アインス様今日は珍しく早起きですね?」


「あぁ...それはほら、昨日の件でお...ぼ、僕も強くならないとなぁって思って!」


(危ねぇ寝起きで思わず俺って言いそうになったわ)


「そうです!その昨日の件で今日は一日休みにしようかと、頭痛は治りましたか?」


「うん!もう痛く無いよ!」


 早く魔学に触れたいアインスからすれば自由時間が増えるのは願ったり叶ったりだった。


「それは良かったです!ただ今日一日はゆっくりしてください」


「はーい」


「では朝食に向かいましょう」


 そうして食卓に着き、朝食のパンとスープを平らげてさっさと自室に戻って来た。

 恐らく家からは出れない為、やる事と言えば本を読むくらいである。


「魔術本は粗方読み終わったし魔法本も読みたくなるなこれ」


 魔術本には、良くある各種属性火、水、風、雷、地、に任意的に作られた光と闇の大まかな説明がされていた。

 加えて魔力の消費量に応じて決められている生活級、凡庸級、軍用級、神級、の階級に関する詳しい説明があった。

 因みに目次には、魔術とは魔力の通り道を物や空間に作り、空間中の魔力を使って現象を起こす事だと記されていた。


「とりあえず他の持ってきた本も読んでみるか」


 他に持ってきた本は、特に前世と変わり映えの無い日本語の辞書や詩、後は御伽噺系が殆どだった。幸い文字を読むのが前から嫌いでは無かった為、何の抵抗もなくスラスラと読み終えてしまった。


「ずっと同じ体制だったから疲れたしちょっと本棚部屋まで本を借りに行きがてら体動かすか」


 まだ読みたい魔術本や辞書以外の本を抱えて、例の一階の本棚周辺まできた。


(前回はナズナに手伝って貰ったけど今度からは一人で持てる分だけ持って行こう)


 5歳児にこの大きい階段と長い廊下はキツかったのかそれとも今まで碌に体を動かしていなかったからなのか、結構な体力を使ってしまった。そのまま本棚の近くにあるテーブルに本を乗せて椅子に座った。

 すると少し後方から聞き覚えのある声がした。


「あ、アインス様おはようございます!今日はお部屋でゆっくりする筈では?」


「ずっと部屋にいてもつまんないし新しい本が読みたいなって思って来たんだ」


 いきなり声を掛けられて思わず慌てそうになったが、特に悪い事をしているわけではないのでとりあえず満面の笑みで対応しておいた。


「流石アインス様!勤勉ですね!あ、この本は私が返しておきますね」


「ありがとうナズナ!」


「お名前覚えて頂き嬉しいです!良ければここで本を読まれては如何ですか?」


(正直あんまり読んでる所を見られるのは嫌なんだけど...でもわざわざ部屋まで運ぶのもなぁ)


「部屋に行く時に声を掛けて下さればお手伝いするので言ってくださいね」


 アインス少し悩んでいると、構わず先に仕事に行ってしまった。


(返しにくる時は1人だから出来れば部屋に持って行くのも1人で運べる分が良いなぁ)


 とりあえず目的の魔法本と以前話に出てきたヘーニルの本を手に取り一旦部屋に戻った。


「どうせそろそろ昼食だし午後になったらまた行こう」


 そして丁度魔法本を読み終えた頃に昼食を食べ、本棚部屋へ向かった。

 まずは図鑑や伝記などの、この世界の情報が書いてある物を中心に読んでいき、有名な童話以外の詩や物語などは後回しにして読み進めた。


「この前持ってきたのは無印だったから気づかなかったけど魔学系は結構シリーズが続いてるんだな、明日からも自由時間を使ってちょこちょこ読んでいくか」


 そうして丸一日を本棚部屋で過ごした後は、自分の部屋に戻り明日からの特訓について考えていた。


「今までのスケジュール的にはあんまり体を動かす事がなかったから自由時間に街中をちょっと走るところから始めようかな」


 コンプレプリオストには壁外がとても危険なので街中にランニングコースがあるのだ。

 と言っても道が舗装されていて走りやすかった為、脳筋達が毎朝そこを走り始めたのがきっかけで、特別ランニングコースと決まったわけではないのだが、健康の為に毎日多くの人がそこを走っているのだった。


「地図は今日しっかり目に焼き付けたから下手に細い裏道に入らなきゃ迷う事はないだろ」


 そうして明日の予定を立て今後の計画に胸を踊らせながら深い眠りに着くのだった。

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