第7話【小さなメイド】
「アインス!」
「っつ!」
死の恐怖、その衝撃は本来7歳で覚醒するはずの"俺"の意識を無理やり起こした。
「あっっぶねぇ、前世と同じ死に方になるところだった...」
(とりあえず死ななくて良かった...前はよそ見してて避けられなかったけど、俺普段避けるのは得意だからな、ドッチボールじゃ大体最後まで残るし...まぁキャッチしたり投げて当てたりは出来ないけど...)
そんな事を考えているとコルチカムが凄い勢いでアインスを持ち上げる。
「ごめんよアインス!大丈夫か?あぁちょっと頭を掠っただけか⁉︎とりあえず今日はもう帰ろうな?」
「う、うん」
(感覚的にはまだ意識が寝ぼけているような、まだ情報がしっかり認識できない感じだな...アインスとしての記憶もあるし、恐らく他人の体を乗っ取ったと言うより、目が覚めたって感じだな)
コルチカムの腕の中でそんな事を考えながらハンカチを頭の擦り傷に押し当てる。
そうしているとあっという間に家に着いた。
「アスター!居るか⁉︎」
すぐさまコルチカムはアスターを呼んで事情を話す。するとアスターは大慌てでサルビアを呼びに行った。
「ちょっアインス様‼︎こんな怪我を!痕が残ったら大変ですね、すぐに奥様を呼んできます!」
「あぁありがとう、そうしてくれ」
そう言ってコルチカムはリビングにアインスを運んだ。
そしてどうやら想像よりも深い傷らしく、中々血が止まらない。
(俺の血小板は何をやってるんだ?急いで塞いでくれないと貧血で意識飛ぶぞ)
するとサルビアが大慌てでアインスの所に来た。
「アインス!大丈夫⁉︎まぁ額から血が...うん軽いか擦り傷ね」
そう言ってサルビアは大きめの絆創膏をアインスの額に貼った。
(え...それだけ?魔法とかで綺麗に治してくれるんじゃ?)
「奥様?回復魔法はかけないのですか?」
(一応回復魔法はあるのか...)
どうやらアスターも同じ事を思ったらしく、サルビアに回復魔法を求めた。
「アスター、確かにアインスに今回魔法を見せる良い機会かもしれないが、回復魔法を小さい頃から使うと自然治癒力が落ちるんだ、だから今回は絆創膏にしたんだと思うよ」
「それにこの絆創膏は治癒協会印の入ったちゃんとした絆創膏だから、軽い擦り傷程度なら傷跡も残らないわよ」
「なるほどそうでしたか...確か治癒協会の出してる絆創膏には魔力が込められていて、自然治癒の促進をしてくれる物でしたね。出過ぎた真似を...失礼しました」
「やめてくれアスター、僕たちは普段の君のフレンドリーな感じが気に入ったから君にアインスのメイドを頼んだんだ、そんなにかしこまらないでくれ」
「...皆様ありがとうございます!」
(なんか知らないうちに話がどんどん進んでるぞ...話もまとまったしとりあえず俺は部屋で安静にしたいかなぁ)
「と、父上、少し横になってきても良いですか?」
「あぁそうだな、アインスは少し安静にしていると良い今日はだいぶ疲れただろうしな」
「ではコルチカムはその間に何があったのか話してもらおうかしらね」
「そうですね、旦那様説明をお願いします。」
中々に威圧感があるが、一方的にコルチカムを責めず、2人ともしっかりと理由を聞こうとしていた。一方でアインスはと言うと、無事に自分の部屋に辿り着いていた。
「改めて見るとこの家広すぎるだろ、今までの記憶が無くなってたら迷ってたな、一応自分が辺境伯の長男って事は知ってるけど...一体どれだけ金持ちなんだ?ゼウスの事もあるしそこら辺もぼちぼち調べていくか」
そう言ってアインスは直接自分の部屋には行かず、一階にある我が家の本棚に向かった。
「今までも勉強はしてたけど殆どが道徳とか軽いマナー講座だったからな、まずは地理と歴史...はまぁ良いか、気になったのがあれば後々見ていこう、後は...」
アインスがいくつかの本を持って本棚に向かっていると、恐らく本棚付近の掃除をしていた10歳くらいのメイドが話しかけて来た。
「あら?アインス様、こんな所にどうしたのですか?アインス様のお部屋は2階ですよ?」
「いや、あの、ちょっと本を読もうと思ってね?」
「なるほど、アインス様ももうそう言うお年頃なんですね、昔私の弟がカッコつけ始めたのを思い出します」
会話の仕方や喋り方が前と変わったのもあり、何故かカッコつけだと思われてしまった。
「いや別にそう言うわけじゃ...」
「はい、分かっています!アインス様はいつもかっこいいですよ?」
「うんもうそれくらいでいいよ」
そう言いながら本を抱えて部屋に帰ろうとすると、メイドがもう一冊本を渡して来た。
「アインス様、こちらもどうぞ」
「ん?この本は?」
「魔術関連の本です。初歩的な知識が広く浅く書いてあるので、初めての方にはおすすめです!」
「おぉ!ありがとう」
「いえいえ、メイドとしてアインス様のサポートをしたまでです!それにこういうのはなるべくやる気がある時にやっておくべきですからね!」
妙に張り切っているメイドに本を運ぶのを手伝ってもらい、アインスの部屋にやっと着く。
5歳児には普通の階段を大きな本を持って上がるのはだいぶキツかった。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえこれくらい容易い御用ですよ、私は大体いつもあの読書室あたりに居ますので、何かあればまた声をかけてくださいね」
「分かったよ」
そう言って小さなメイドは部屋を出て行った。
「とりあえず魔術の本でも読むか」
そうして本を読み耽っているといつのまにか夕食の時間になっていた。
「アインス様お夕食の準備が整いました」
「あぁありがとう、今行くよ」
本に詩織を挿してアスターと食堂に行く事にした。
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