第3話【実は凄い奴】

「いいかぁ?次回までに余弦定理の式を覚えてくる様に、次回からは実際に使っていくからなぁ。はい、号令!」


「起立〜、礼」


「「ありがとうございました〜」」


「終わった〜...次の授業は何だったかな」


「次はもうお昼よ」


 紗希に言われて今のが4時間目だった事に気づくと同時に、体が空腹を思い出す。


「確かに腹減ったわ」


「全く...大丈夫なの?今朝も珍しく寝坊してるし、体調悪いんじゃ無いの?午後の体育休んじゃえば?」


「いや大丈夫だって。眠気も無いし、疲れも無い。至って健康さ」


「ならさっさと食堂行くわよ」


 紗希の言う通り皆んなと合流し、校舎裏にある大きな食堂に向かい各自昼食を決める。


「紗希は今日も弁当か?」


「何よ迅ったら、羨ましいの?」


「いやなに、毎日学食だと中学の頃の親の弁当が恋しくなるなぁと......すまんはじめ無神経だった」


「別に気にするなって、親に関して何か嫌な記憶があるわけじゃなくて単に記憶が無いだけだからさ」


「俺は学食の方が好きだぞ!いくらでもお代わり出来るしな!」


「そのかわり太智君は生活費のほとんどを食事に使っていますよね」


「飯さえ食えれば筋肉は答えてくれるからな!」


「そう言う桃は昔から豪華なお弁当よね」


 桃は昔から体が弱いのと、親が金持ちという理由からしっかり栄養が管理されたお弁当を食べている。逆に次の日体調を崩しようものなら、担当の栄養管理士はどうなるかわかったものでは無いレベルで、桃のお弁当には気を使われている。


「はい、とっても美味しいです。ただ個人的には味がちょっと薄いのが難点ですね」


「いつか体に気にせず色んなものが食べれる様になるといいな」


「その時は皆さんと我が家のご飯を一緒に食べてみたいです」


 そんな桃の嬉しい提案と共に男子勢は食券を買って学食を受け取りに行く。迅と俺はカレー、太智はスタミナ丼という事で分かれて並んだ。


(そう言えば昨日書類見た時、俺の家族構成にエラー出てたり伏せ字の部分があったな。迅に聞いてみるか)


 丁度いいタイミングで迅と2人になれたので気になったことを聞いてみる事にする


「なぁ迅、昨日の書類なんだけどさ」


「うお!なんだいきなり耳元に小声で」


「すまん、書類にあったエラーについて何だけど」


「あぁあれか実はなーーー」



「......なるほど、つまりお前でも分からなかったと」


「あぁ、あれを全部見れるとしたら学園ぐらいだろう」


 迅曰く、情報を見るには管理権限なるものが必要らしく、基本一般生徒はレベル1

で実績と信頼、役職によってレベルが上がり、見ることの出来る情報が増えるらしい。因みに迅はレベル7の情報までが見れるそう。


(迅って実は凄い奴なんじゃ無いか?)


という疑惑が浮かんでくる内容だった。


「伏せ字に関してはあのコンピュータ内にその情報が入力されて居ない場合にのみ起きる。」


「他にもコンピュータがあるみたいな言い方だな」


「あぁ、僕でもその存在だけは知っている。その名も『メーティス』そのコンピュータには高性能AIが搭載されているらしい」


「なるほどなぁ、でもそんなに俺に話して良かったのか?」


「......堕ちるときは一緒だよ?」


(どうやら相当不味い情報らしい)


 迅から聞きたかった情報を聞きながらカレーを受け取り、みんなが居るテーブルでささっと昼食を食べ終える。


「次の授業は体育か、なら体育館で集合ね」


「次は体育か!おぉ!俺の筋肉が震えているぞ!」


「それはもうただの痙攣だ!」


「皆さんまた体育館で〜」


「あぁまた体育館でね」


 そん感じで俺らは一旦解散して体育着に着替え、体育館へ向かった。


「よーし、全員揃ってるならチャイムが鳴る前に準備体操おわらせるぞぉ」


 ということで皆んなと話す間も無く授業はスタートした。因みに桃は体が弱いため体育は基本見学だ。当然今回も見学になっている。


「今日はまだバスケの授業1回目だからな、最初はチェストパスの練習だ!2人組作れ〜」


 この学園のおかしいところの一つに、未だにこういった体育やペア活動を男女合同で行なうといったところがある。


(いや逆に最近話題の男女差別の観点で見たら、新しいのかもしれない)


 そんな事を考えている内にクラスメイトはペアを作っていく、迅は紗希と組み、俺は太智と組む事になった。


「お手柔にな」


「別に今回は対人戦では無いんだ!大丈夫だろう!」


「まぁ顔に飛んで来ないことを祈るよ」


「ふはは!俺の筋肉の餌食にしてくれるわ!」


「これはいよいよドッジボールになりそうだ」


 なんて心配も嘘のように、綺麗で取りやすいパスが胸に向かって飛んでくる。


(やっぱり運動神経良いんだよなぁ、足遅いけど)


 恐らく筋肉が原因であろう事はわかるがそれは皆んなの中では禁句であった。


「いいか?相手の胸目掛けてボールを指で強く弾き出すイメージだぞ!」


 そんな先生の声を聞こうと先生の方を向いた瞬間、不吉な声が横から聞こえた。


「あっ!手が滑った!」


 太智のその声と共にボールがありえない速度で顎に当たり、はじめの意識とボールは何処かへ飛んでいった。


はじめ君!」


 ボールが当たった事に一早く気づき声を上げた桃に一足遅れて、はじめの倒れた音を聞いた先生達が駆けつけて来た。


「おい五十嵐!大丈夫か!」


先生一はじめ君が!」


「...安心しろ、気絶しているだけだ。井上と足立は体育館の入り口にある担架持ってこい」


 先生は近くに居た紗希と迅に担架を取りに行かせ、はじめを保健室に運んだ。


「うん、軽い脳震盪ね。安静にしていれば直ぐ目を覚ますと思うわ」


「ならはじめは無事なんですね?」


「良かったぁ」


 保健室の小百合さゆり先生からの報告を受け、紗希と迅は安堵した。


「小百合先生。五十嵐は先生に任せて大丈夫ですか?」


「えぇ良いわよ、いずれ直ぐ起きると思うし...起きたら職員室に知らせておくわ」


「ありがとうございます。井上と足立もありがとうな、ほら授業戻るぞ」


「いえいえ、僕らははじめの友達なんで。当然ですよ」


「右に同じく!」


「あの...大輔先生...」


「うおぉ!びっくりした!すまん居たのか白石」


 そこにしれっと付いてきた桃が質問をする。


「驚かせてしまいすみません。それと...今日の体育は欠席で良いので、はじめ君のそばにいても良いですか?」


「...うーむ、確かに五十嵐も起きてから知った顔がいた方が安心か、どの道白石は今日は見学の予定だったしな。よし!今日は白石は公欠にしとこう!」


「ありがとうございます。」


「じゃあ小百合さゆり先生、よろしくお願いします。ほらお前ら授業行くぞ〜」


「「は〜い!」」


 こうして保健室は、普段の静かさを取り戻した。


はじめ君...)


 その小さな呟きも、静寂に溶けて消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る