第2話【かけがえの無い日常】

「ん......んぁ......」


 体がだるい、まるで手足に重しでも仕掛けているのかと言うくらいに体が動かない、当然実際に重しがついているわけもなく


(朝か...)


 漫画やアニメなどで、幼馴染や目覚まし時計で目を覚ます主人公がいるが、一はじめは何故か目覚ましをかけるとよっぽどの事が無い限り、必ず目覚ましが鳴る前に目が覚める。


(意外と共感してくれる人いるんじゃ無いか?)


 なんて事を考えながら時計を見ると既に針は8時を指していた。


(いや寝坊してんじゃねぇか!)


 と盛大に突っ込みながら、いつもより15分程遅くベットから抜けたのだった。


(いつも鳴る前に止めてたから気づかなかったけど、この目覚まし時計音がミュートになってるじゃねーか!)


 過去に目覚まし時計をセットした自分に腹を立てながら急いで身支度をし、リビングに向かうと


「おぉはじめ起きたか、今起こしに行こうか迷ってたところだよ、はじめが寝坊とは珍しいな」


「俺の筋肉も、もうお目々ぱっちりだぜ!」


「いや筋肉に目はついてないだろ」


 と朝から元気な奴らが出迎えていた。


「ごめんごめん、普通に寝坊したわ」


「さては夜更かしでもしたなぁ」


 と迅がニヤニヤ俺を見てきた、いよいよアイツが本当に喋らない心配になってきた。


「夜更かしは良く無いぞ?」


「なんだ太智にしてはまとm「筋肉にな!」あっはいそうですよねぇ」


「俺には予想できたぞ今の流れ」


そんな感想を言いながら玄関に足を運んだ。


「よしはじめも起きたことだしさっさと食堂で飯食うぞ太智」


「あぁ!俺の筋肉も悲鳴を上げている!」


「ごめん太智、それは本当に意味が分からない」


「遅いぞお前ら、置いていかれたいのか?」


「いや俺たちはわざわざはじめが起きるのを待って...っておい!本当に置いていくんじゃ無い!」


「うぉー朝食だー!」


 と言うわけで急いで寮の食堂で朝食を食べ終え、気づけば時間は8時15分。3人でいつもの様にそのまま学校に向かって足を運んでいた。


「今日のシャケは塩気が足りなかったなぁ」


「いや!俺にはあれくらいが丁度いいぞ!」


「俺は寝起きであんまり味分かんなかったわ」


 と朝食に関して感想を述べていると


「おっ迅達じゃ〜ん」


「皆さんおはようございます」


 2人の女子生徒がやってきた


「紗希と桃ちゃんかおはよう」


「おう!俺のサイドチェストも2人に挨拶しているぞ!」


「いやだから筋肉は挨拶しな(ry」


「違うぞ迅!サイドチェストは筋肉じゃなくてポーズの名前だ!」


「余計に訳わかんねぇよ⁉︎」


 とりあえず、俺が挨拶する前にいつものコントを繰り広げている男子メンバーを放って置いて、今しがた合流した女子2人に挨拶する。


「2人ともおはよう。今日は俺らもいつもより遅かったけど、そっちも今日は遅くない?」


はじめ君もおはよう。実は今朝はちょっとお寝坊しちゃって...」


「そーよぉ、桃ったらいつもは寝坊しないのに...。因みに男子は何で遅れたのよ?」


「それが今朝は俺も寝坊してな」


「あらはじめの寝坊も珍しいわね?あっもしかして夜な夜な2人でRIMEでもしてたんじゃ無いの?」


「いやなに、普通に寝つきが悪くてな」


「わ、私もです!」


 桃は何故か返事に必死になっているが俺も嘘は言っていない、因みにRIMEは無料通話アプリの名前だ。


「わかるぞ!俺も夜中偶に筋肉に話しかけられて起きるからな!」


「それはもう幻聴よ!」


 という今度は紗希のツッコミをいつもの様に聞きながら、俺達は校舎に向かって足を進める。

因みにツッコミ役は基本紗希で、紗希が居ない時は迅が担当している。


「にしても桃が高校生になってからは、歩いて登校するって聞いた時はびっくりしたなぁ」


「それ!私もちょっと心配だったけど案外大丈夫だったわね」


「ふふっ、流石に私も数十分歩くぐらいは出来ますよ」


 こう言ってはいるが、桃は中学では必ず車通学だった。その理由としては、体が生まれつき弱いのと、親が金持ちであることが大きいだろう、ストーカー対策の可能性もあるか。

何故高校からは徒歩で通う事になったのかというと


「この学園は完全生徒制で多少大人の手助けはあるものの、この学園都市で身元不明の不審者なんてそうそう出ないからな」


「流石は生徒会長!俺の筋肉も出番が減ってムキムキだ!」


「まぁ平和なのはいいことだし筋トレでもして我慢しろ」


「おいツッコミが間に合ってないぞ」


「あら?なんか変な所あった?」


「私もはじめ君達と一緒に登校したかったので、父から許可が出た時は嬉しかったです」


「あっもう完全にスルーなんだ」


 そんな小さな嘆きを呟きながら歩いていると校舎に着いた。3人とも教室は同じなのでそのまま教室に入って各自席に着く。俺の席は教室の窓側の端だ因みに隣は紗希だ。


「今日は午前座学で午後が体育だったわよね?」


「あぁ因みに体育は大輔先生だ」


「うへぇそれはキツイわぁ」


 体育科の大輔先生は結構スパルタで有名だが、しっかりと生徒ごとの限界を理解しているので、嫌われているわけでは無い。そして...


「おーし、皆んなおはよう!えぇ全員席に着いてるなぁ?」


 我らが1年13組の担任でもあるのだった。


「朝の報告は無し!とりあえず午後は先生が担当するから覚悟しておけよ、以上!」


 クラスの何人かが呻き声をあげている中、朝の挨拶が終わり各自授業の準備をする。


(ぱっと見は普通の学園なんだがなぁ)


 友達と離れ、1人になった事で例の書類について深く考えていると授業は既に始まっていた。

1時間目は現代文。


「はい、じゃあ今日は76ページの8行目第3段楽の初め、"かけがえの無い日常"からやっていくわよー」


 窓の外を見れば透き通る様な綺麗な空に雄大な入道雲が出来上がっていた。

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