猫又騎士とファーマー魔王

東寒南

 アタシと魔王とひつじと女神

 アタシは猫又である。名前は四蘭スーランである。

アタシの住んでいた猫又の村では女の子が生まれると「蘭」という字を名前に入れる風習があるんだ。

4番目に生まれたから四蘭。「安直」とか言われるけどアタシはこの名前を気に入っている。

 小さい頃から強くなるために修行に明け暮れていたんだけど、周りの連中が弱っちくて相手にならない。

それで妖魔界をあちこち修行していたんだけど、道に迷って着いた先が魔界っていう魔王がいる世界だった。

 お腹が空いてフラフラしていると、どこからかマタタビの良い香りがしてきて、そっちにつられて魔王の城の庭にやって来たアタシ。木の下でゴロゴロしていると人がやって来たんだ。

 「人の庭で何やってるんだ?」

声の主を見ると、麦わら帽子に軍手を着けた頭から角が生えた男がこっちを見ていたんだ。

「ウニャ?」

 頭を撫でられてゴロゴロ喉をならすアタシ。それを見て男がニコッとした時、アタシのお腹がグゥーっとなっちゃった。

「お前、お腹が空いているのか? うちでご飯でも食べるか?」

アタシは喜んで首を縦に振ったんだ。そこに、

「魔王様! 何をしているんですか! 隣の領地で魔王同士の領地争いが起こったと連絡がきましたよ!」

 魔王と呼ばれた男は声のした方を見て、

「よし! じゃあ領地内に結界張って巻き添えを食わないようにしてくれ!」

 領地争い? 物騒…修行のいっかん…そうだ!

「じゃあアタシ、アンタとここの土地を守ってあげる!」

「「はあっ!?」」

魔王ともう一人が驚いたような声を出した。

「えーと、いっしょくいっぱんの恩義ってやつだっけ? こう見えてもアタシ強いんだよ!」

 「…魔王様、こいつ誰ですか?」

「マタタビに釣られてここに来たみたいで、お腹が空いてるみたいなんでご飯をあげようかと」

「見ず知らずの者を入れるな、と何度も言ってるではないですか! 犬猫じゃ…猫、ですか?」

「アタシは猫又だよ! 名前は四蘭って言うの!」

「妖怪…でしたっけ? 始めて見ましたけど」

「…まあ見習い騎士という事でここに置いても」

「…まあ人手も足りないですし、しょうがないですねえ」

 そういうわけでアタシは魔王の見習い騎士になったんだ。


 「ふわあ…」

門の前に立ちながらあまりの退屈さにあくびをするアタシ。全身にプレートメイルでは重くて動きにくいから鉄製の胸当てと肘当てと膝当てを装備している。風が吹く度に肩の長さに適当に切った外はね三毛猫カラーの髪が揺れる。

 「退屈だなあ…」

魔王に仕えるようになって初めて知ったんだけど、魔界っていうのは人間界で人間に負けた魔王達が土地を貰って住む場所なんだって。

 魔王って元々支配欲が強いから、隣の土地に攻めてきて争う事が多いんだけど、うちの魔王はどこかの土地を攻めるよりも畑を耕して作物を植えて育てるのが好きみたい。なんだけど…、

 「何故だ、何故野菜の種を植えたはずなのにマンドラゴラが育つんだ?!」

魔界の土地は魔力が強いんで、何を植えてもマンドラゴラになっちゃうみたい。

ちなみにマタタビの木の他の種類の樹は全部枯れちゃうみたい。

 「あくびしていないでちゃんと仕事をしてください」

魔王のひつじさんがチェックしにやって来た。

「ひつじ、ではなく執事です! 何度も注意しているではないですか」

「ひつじさん?」

「だから執事です!」

「あ、そうだひつじさん! 役所の人がこの箱を届けに来たよ」

「…何ですか?」

そう言いながら箱の中身を確認する。中は、

「これは…この前川原に捨ててきた呪いのアイテム! しかも解呪されている! あいつらに不法投棄がバレてしまっていたか!」

「アタシも一緒に手伝ったやつだっけ? あ! このお茶碗貰っていい? ご飯がいっぱい食べられるから!」

「ご飯が減らない茶碗ですか? これだけ解呪されなかったようですね。いいですよ」

 喜ぶアタシを見ているひつじさん。その時、魔王の叫び声が聞こえてきた。

「またマンドラゴラになったー!」

「…魔王様、いい加減何かを植えるのを諦めたらいかがですか?」

「これだけが楽しみなのに諦めてなるものか!」

「ではこのマンドラゴラを売って我が軍の資金にしましょう」

「軍って、俺を入れて三人しかいないじゃないか。それにマンドラゴラは抜く時叫び声を聞くと気が狂うそうだから1人では抜けないぞ」

「グールとかのアンデッドを雇えばいいじゃないですか!」

「あいつら単純作業しか出来ないし、引き抜いたマンドラゴラを足元を気にせず、踏んづけちまうからダメだ!」

 毎日同じやり取りをしている魔王とひつじさん。よく飽きないなあ。


 「あら~、まあたケンカしているのお~?」

また来た。女神様だ。

「女神様、ここは瘴気が漂っていて神様には毒なのですから来ないで下さいと伝えたはずですが」

「ええ~? 姉が弟に会いに行くのがそんなにダメなのお~?」

「姉上、何の用ですか? 天界には戻れませんよ」

魔王が気付いて女神様の方を向いた。

「ホントに天界に戻れないのお~?」

「姉上が俺に用事を言い付けて人間界に行ったら、人間達から俺が魔王呼ばわりされて、天界から魔族に堕天されたのが元々のきっかけなんですが…」

 弟は姉に逆らえないのは魔王も同じなのか。

なんか、理由にちょっと同情しちゃうなあ。

 「ねえ、あなた達からも説得してよお~」

んー、説得してって言われてもなあ。

「んー、魔王も里帰りしたら?」

「四蘭!『様』を付けろと何度も言っているではないか!」

 今度はアタシがひつじさんに怒られた。

「じゃあじゃあ」

少しはなれた場所にアタシとひつじさんを連れてきてコショコショ話を始めた女神様。

 「あなたが女の子の格好して弟を説得してよお」

「な、何を言っているんですか?!」

「えー、だってえ」

「「女の子だし」」

女神様とアタシに言われるひつじさん。普段から男の格好しているから魔王には男と思われているみたい。

 「ダメです! ダメダメダメダメ!!」

首を振って拒否するひつじさん。似合うと思うんだけどなあ。

 ちなみにアタシが何でひつじさんの性別を知っているのかは、来た当日にあまりに汚れているからって一緒にお風呂に入れられたからなんだ。

「ヤダー! 男に裸を見せるのは結婚相手しかダメだって掟があるからダメー!」

「…何言っているんですか! よく見てください」

「へっ?!」

 見ると、確かに女の子だった…アタシより胸がある。うらやましい…。

 いやそういうことじゃなかった! とにかくあちこち念入りに洗われてキレイさっぱりにされたんだった。


 まあそんなこんなで平和な日々を過ごしている魔王の領地。のんびりするのも悪くないなあ。とか思っていたり。

 もう少しここに居ようっと。


 








 

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猫又騎士とファーマー魔王 東寒南 @dakuryutou

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