第3話 探偵ごっこ<碧>

「湊が殺された、って本気でそう思っているのかよ」

「ああ、思っている」

 放課後、僕と光岐は渋谷駅付近にあるファミレスで落ち合わせることにした。理由はもちろん死んだ湊のことだ。

 ファミレスの窓から見下ろす街は相変わらず喧騒に満ちている。こんなにごちゃごちゃした世界であれば、人が殺されても無理はないように思える。人が集まれば集まるだけ、トラブルは起きる。例え、閉鎖的な学校内であっても、それは同じだ。

 頼んだ山盛りポテトを頬張りながら、僕は光岐に問いかけることにした。

「どうして、湊が誰かに殺された、と推測するんだ?」

「まず、一つ。別れた彼女と何かあって、殺された、と推測する」

「よくある恋愛のもつれ、みたいなやつか」

「もう、一つ。それは……」

 光岐は言いかけて、そこで口を閉ざした。

「おい、なんだよ。勿体ぶらずに話せ」

「もう一つは、碧が一番わかっているんじゃないの?」

「僕が? なぜ? というか、まったくわからないんだけど」

「まったく鈍い少年だな」

 光岐はポテトをケチャップで塗りたくる。

「殺害予告された碧のために、殺された」

「はい?」

 声が上ずった。予想の斜め上の発言であるということもあり、頭が真っ白になった。

「どうだ、俺の推理」

「ちょっと斜め上すぎる」

「違うだろ、って言いたいのか」

「そうだね。昨日自分が言っていたじゃん。殺害予告なんかただの悪戯だって」

「そうだったっけ」

「そうだよ。なんでとぼけるんだ」

「あれは事件前の発言だ。事件が起こったともなれば、話は別だ」

「どの口が言うんだか。僕の悪戯メールのことはともかく、そもそも事件性はない、と個人的には思っている」

「なぜそんなことが断定できる?」

 僕らのテーブル席を横切る女子高生が僕らを見て、嘲笑していた。少しばかり、探偵じみたことを言い過ぎたかもしれない。

「事件性があれば、ニュース番組とかSNSで大きく取り上げられているからだよ。今のところ、それはない。つまり事件性がないということだ」

「でも、今のところ俺たちに死因は聞かされていない」

「そりゃ、昨日死んだばかりじゃ、何もわからない。元同級生だからって、そこまで詳しく知る権利があるのかはいまいちだし。死亡解剖とかそういったことをしないと何もわからない」

「おお、そうだろう? 死亡解剖とか調査とかしないと事件性があるかはわからないだろう」

 しばらく沈黙が続く。

 はあ? と僕は光岐の顔を覗いた。

「つまり、俺たちは調査をして、死の原因を知る必要がある」

「おいおい、何探偵みたいなことをしようとしているんだよ。そんなに暇を持て余しているのか」

 ああ、そうだよ、と光岐は呑気にドリンクバーのコーラをストローで吸い上げる。

「現にこうして、放課後ファミレスで時間を潰しているし、間違いじゃないだろう」

「そうかもしれないけど、人の死に首をツッコむのはマズいと思う」

「じゃあ、碧は湊の死を知りたくない、ということなのか」

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、決まりだな。一緒に探偵ごっこしよう」

 光岐はガッツポーズを決めた。

 大変なことになってしまったな、と僕はこの場にいることを少しばかり後悔した。運命の悪戯というのはこういうことなのか、と思ってしまう。ともなれば、あの悪戯メールなんか細やかなものに過ぎないのかもしれない。

「それはそうと」

 光岐は溜めながら、話をし始めた。

「俺のスマホにも今朝、悪戯メールが来たんだ」

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