第4話 悪戯メール<碧>
ジャズの音楽が僕らの沈黙を守る。
「悪戯メールって、なんだよ」
「一言だけしか書いていない。謎を解け、と」
「……謎を解け?」
「そのまんまの意味だろうけどさ。このメールに関してはマジで単なる悪戯かもしれない」
光岐は笑って誤魔化そうとしていた。
「他にこれまでに悪戯メールを送られてきたことはある?」
「昨日言っていたように、変な請求メールくらいだよ。可愛い子からもメッセは来ない」
一体、どうなっているのだろうか。偶然にしては出来過ぎている。メールの内容自体も、短文ではあるけど、意味合いが深いものになっている。
やはり、僕らの周りで何か大きなことが動き出そうとしているに違いない。
生温くなってきたコーヒーをじっと見つめる。
「悪戯メールが来たから、湊は殺されたと推測し始めたということか?」
「それもきっかけの一つだな」
「じゃあ、他には?」
「男の勘ってやつだ」
ため息をついた。光岐は何の悪意もなさそうに、こちらの反応を窺っていた。
こうもなれば、探偵ごっことやらを始めるしかないのだろうか。
「もし探偵ごっことやらを始めたとして、何から始める?」
「まずは、湊の中学の同級生たちを疑うことから始める」
「随分とまあ、抽象的な言い方だな」
「全員を洗い出すとは言っていない。手始めに、別れたばかりの湊の元カノについて調査する」
「湊の元カノの名前、忘れたわ。なんだっけ?」
「西條さんだよ」
「よく覚えているな。感心する」
「人の名前を覚えることに関しては長けているからな。頼りにしてくれ」
温いコーヒーを口に運ぶ。温くなると、苦さが余計に引き立つような気がする。
「わざわざ彼女が、俺たちにあんなメールを送るような真似をするかな。そもそも、人を殺すようには思えないし」
「それはどうだろう。協力している犯人が他にいるかもしれない。それに直接的ではなく、間接的に殺す可能性だって考えられる」
「想像するだけでなら、いくらでもできる」
「第一、俺たちは彼女の事に関して、ほとんど知らない」
「湊、に関してもな」
光岐はミルクと砂糖を大量に入れたコーヒーを口に運ぶ。将来、糖尿病にならないか、その様を見て不安になる。
「ひとまず言えること。犯人は俺たちが知っている人物だということだよ。メールをわざわざ送ってくるわけだし、宣戦布告をしているんだろうし、何か伝えたいメッセージがあるのかもしれない」
「伝えたいメッセージ、か」
別にそんな回りくどいメッセージなんかもらわなくてもいいんだけどな。
「じゃあ明日の放課後、西條さんを追跡するか」
僕の方から提案すると、光岐は大きく頷いた。
隣の席から女子高生の笑い声が聞こえてくる。
「なんだかワクワクするな」
「ゾクゾクするよ。もし、西條さんが犯人でも何でもなかったら、こっちが通報されるレベルだ」
「別に欲情とかするわけじゃないし」
「そういうことを言っているんじゃない」
こんなやり取りをしているようでは、先が思いやられる。
だけど、どうせ何もしなかったらしなかったで、退屈だろうし、心の靄は解消されないままだ。やるしかない。自分を奮い立たせて。
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