第2話 カレーの匂い<碧>
中学の同級生であった彼――湊が死んだと聞き、僕は呆然とした。母さんに大丈夫、と問いかけられ、我に返った。
荷物をリビングのソファーに置いた。
キッチンからカレーの匂いがする。
「カレー食べる?」
「うん」
適当に返事をした。
リビングにある椅子に座り、テレビをつけた。どうせ大して面白い番組はやっていない。だけど、死んだ彼のことが気がかりだった。母さんに怪しまれない程度に、僕はチャンネルを変えた。
ニュース番組を観るものの、欲している情報は何もなかった。どうでもいい一週間の天気とか芸能人の結婚とか、そんなものだった。
「はい、どうぞ」
母さんが皿に盛ったカレーをテーブルに運んでくる。
ありがとう、と僕は礼を言った。
「何か良い番組やっている?」
「大して良いのはやっていないよ」
そっか、と母さんは大した意味を含まないような返事をした。
いただきます、と手を合わせ、カレーライスを口に運んだ。
父さんは仕事で遅くなるということもあり、自宅には今いなかった。
「あのさ」
やはり死んだ湊の事が気になったので、僕は死んだ彼の話題を母さんにぶつけることにした。
「どこで死んだことを知ったの? SNS?」
「そんなわけないじゃない。ママ友同士で電話で話していたところなの」
なんだか不謹慎なように思えたが、別に何も悪いことをしているわけじゃない。
「葬式とかどうするのかな?」
「家族葬みたいだから、碧は何も心配することはないよ」
家族葬、か。
昔みたいに大がかりな葬式を行うことが減っていると耳にするから、別に不自然ではない。ただそれでも同世代の元同級生が死んだ、という事実は衝撃的だ。
「ねえ、どうして死んだの? 死因は?」
声を大きくして話すことではないことくらい、百も承知だ。それでも、僕は死の原因を知りたかったのだ。
「さあ、ね。私もついさっき聞かされたばかりで、よくわからないの」
「そっか」
「碧、そこまであの子と仲良かったの?」
「別にそういうわけじゃない。ただ気になっただけ」
「まあ、確かに急で訳が分からないよね。でも、事件性はなさそうだし、気にすることないよ」
事件性があれば、やっぱりニュースで大々的に放送されるものなのだろうか。
カレーのルーをスプーンでかき分ける。病気もしなさそうだし、誰かとトラブルを起こしそうな人間性があるわけでもなさそうだし、疑問は多く残る。
「明日も学校でしょ。ひとまず、高校生活のほうを大事にしなさい」
「なんか説教みたい」
「お説教よ。過ぎたことをくよくよと悩んでるのは良くないから」
母さんに助言をしてもらったものの、その日はよく眠れなかった。何度も自室のベッドで寝がえりを打ったし、何度もベッドの中で夢想もした。
もし、彼が生きていたら?
もしも今後、僕と関わることになったのなら?
そんな考えが頭の中で逡巡していた。
朝を迎え、ベッドから起き上がろうとした直後、光岐から電話が来た。
「おはよう」
「どうした、朝から。これから準備して高校行くんだけど」
「ああ、それはわかる。俺も同じだから。それより、湊の話聞いたか?」
「……聞いた」
「やっぱりな。どう思ったか?」
「どう、って……そりゃ、驚いたよ。突然だったから」
「俺はな、あいつは誰かに殺された、と思っている」
「……殺された?」
電話越しから、ああ、そうだ、の声が聞こえてきた。
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