四、
商売に終止符が打たれたのは二十五の春、憑きものを祓い始めて実に十三年が経っていた。私の噂を聞いて遠方から足を運ぶものも少なくはなかったが、その日現れた僧侶は御仏の声を辿り西から上ってきたと言った。衣の襟もまだ瑞々しい、清廉な面立ちの若い僧侶だった。
彼は差し出した茶を啜りつつ、私の「憑きもの祓い」の真実を教えてくれた。
――あなたは何も祓うてはおりません、憑きもんも業も全部まとめて自分にくっつけてしもうとるだけです。
そして私の背後で混沌と化しているらしいそれを眺め、最早消すことも元に返すこともできぬように言った。それはもう一つの大きな厄災の禍となり、存在しているらしかった。
彼に与えられた策はたった一つ、「背負った私が決して世に放たれぬよう抑えながら、少しでも長く生き長らえる」ことだった。私が死んだところで共に消える大きさではないが、長く抑えることができればそれだけ災いも小さくなるらしい。
――できれば、あと二十年。苦しかろうと思いますが、どうか己に負けませぬように。
彼はまるで子供を諭すような口調で伝え、見送りの最後に私の額へ触れた。少しひんやりとした指は驚くほど柔らかで、思わずじっと見上げた。彼はどこか懐かしいような穏やかな笑みを浮かべ、いずれまた、と告げた。
彼が何をしたのかは、垣根の向こうを見ればすぐに分かった。あれほど両親に噛みつき食いちぎらんとぶらさがっていたもの達が、一切見えなくなっていたのだ。
慌てて振り向いたが、彼の姿はもうどこにも、あるのはただ風に花を散らす桜の木と鄙びた町の景色だけだった。
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