三、
「憑いていたものは祓いましたから、もうよろしいですよ」。
何度、この言葉を口にしただろう。人に見えないものが見えると気づいたのは、子供の頃だ。尤も最初は、その肩や首や足に巻きついているものの違いを眺めるだけだった。自分にそれを祓う力があるなど、知る由もなかった。
力に気づいたのは十二の春、誰かのつらそうな背をなんとなく撫でた時だった。相手は驚いたように振り向いて、何をしたのかと訊いた。
その男は裕福な商家の主人で、ずっと謎の神経痛に苦しめられていたらしい。背に噛みついていた女が誰かは言わなかったが、ともかく男は私の家にたんまりと礼を運んだ。その善意が、これまでは気味が悪いと私を疎んでいた両親を変えてしまった。
両親はすぐに私を担ぎ上げて、「憑きもの祓い」の商売を始めた。商家の男から話を聞いた者達が一斉に押し掛け、私は休むことなく肩や背を払い続ける役目を負わされた。中には何も憑けていない、病気と思える者もいたが、両親は許さなかった。
体に異変が出始めたのは、二十歳を過ぎてからだった。最初は月のもののように月に数日、軽い不調を感じる程度だった。しかしそれは少しずつ、まるで毒が蓄積されていくかのように体を蝕み始め、やがて起き上がれないほどの痛みを与えるようになった。今でも月に三日は、全身の骨が軋む痛みや息苦しさ、皮膚の下を虫が這いずる感覚に襲われてのたうち回る。しかし両親は、それでも商売を辞めようとしなかった。
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