第48話 結婚式②
『おー!久しぶりー!とりあえず乾杯!』
ガヤガヤと周囲が騒がしく盛り上がる中、あんなと僕は席に座り話をしていた。あんなは、髪を巻き束ね上げ、露出の多い大人っぽい黒のドレスを纏っていた。しばらく会わない内に大人びた女性になったなという印象を受けた。東京に染まっているのか、一つ一つの言葉遣いや所作が昔の良い意味での雑な面がなくなり、洗練された女性に見えた。
『ゆうちゃん変わらないね』
『そーだね。変わらないっつーか俺は変われんのよ笑 あんなはまだ東京か?』
『うん。東京。月に一回は帰ってきてるけどね。ゆうちゃんは名古屋でしょ?』
『おぉ誰に聞いたの?』
『さやだよ。それにたまにみのる君とか皆とかと飲んだりもしてるからさ』
“皆、日常に戻っているんだな“
僕は最悪な経験をしたあの日から、それまでの日常が全て変わっていた。それまでは、日々のストレスを仲間と憂さ晴らしに行ったり、悩みがある時には、真剣に語り合ったり、時には意見がぶつかり合い喧嘩をしたりと僕も昔はそうだった。
あんなの言葉で初めてその事に気づかされたと同時にそんな日々がとても懐かしく感じた。もしかしたら僕は、あんなと出逢った頃に時を戻したいと考えていたのかもしれない。
『ゆうちゃん、彼女いないの?』
『いないよ。あんなは?』
『・・いるよ』と気まずそうに答えるあんなに『おーいーっしょ!東京の人?』と心中を悟られまいと僕は明るく振る舞った。
『前の職場の先輩?』続けざまにあんなの彼氏の話を聞いていると、彼氏と上手くいっていないのか、話したくないのかわからないが、あんなは言葉を詰まらせながら答えていた。僕自身も彼氏の話を聞きたい訳でもなかった。お互いに気まずさを感じ、あんなが次第に下を向くように話をしているのを見て、何とも言えない気持ちになった。
『あんな、みのる達見ろよ!あいつら絶対幸せになるよー。だってこれだけの人達があいつらの為に集まってよ、みのるは少し短気起こす時もあるけどよ、いつもさやの事を第一に考える優しい男だ。10代でさやと出逢って、それから今の今まで、これからもずっとさやが大好きなんだよ。あいつらが幸せにならねー訳がねーよな』
『そうだね。さやも本当にいつもみのる君の事を考えてる。いっつも明るいさやが悩んでる時は、必ずみのる君との話だったし、結婚するって電話きた時は泣いてた。さやは本当に可愛いんだ。本当にみのる君の事、大好きなんだよね』
『そーだよな、、あんなもよー、幸せになれよ!あんなは人一倍頑張り屋なのも、気持ちのある人間だってのは俺がよく知ってるからさ。なんつーか、人を引き寄せる力があると思うし。夢なのか結婚なのかわかんねーけど、あんななら余裕だべ。あんならしくこれからも頑張りな』
他人事は、スラスラと言葉が出てくるのに、自分事では話が詰まる。恐らく僕の本音は他にあった。
僕は僕自身が嫌いであった。綺麗事のように並べる言葉は僕を支配し、意味のないプライドをぶら下げては強がり続け、傷ついていた。結果として悪人にも善人にもなることができない、誰も救う事のできない弱い人間であった。
本当は、もう一度やり直したかった。無理にでも、自分のモノにしたかった。いつも僕のそばにいてほしかった。
格好悪くても、情けなくても素直な気持ちで向き合うべきだ。傷つくことを恐れずに。
『うん。ありがとう。ゆうちゃんもね』
僕達はもう一度グラスを合わせ乾杯をして、別れた。
披露宴は二次会へと会場を移し、グロッキーになってる者、リバースしていた者もいたが、僕達は相変わらずの盛り上がりを見せ、僕は自棄糞気味に騒いでいた。
みのるの計らいで三次会は、僕達の解散式も兼ねて、身内だけでやる事になった。三次会も勿論盛り上がり、会の終わりに、繁華街の交差点で、皆で胴上げし合った。久しぶりに再会する仲間との時間が楽しく、時間が止まればいいと思う程、幸せを感じた。
朝日が昇るまで、街に僕達の声が響き渡っていた。
早朝になり、解散式の最後にマコトが締めの言葉を僕に託した。
『今まで本当に有難う!僕は、個人的な事で皆に迷惑かける事もありましたし、その事で皆に何かしらの影響もあったと思います。その節は、本当すいませんでした。何度もチームを辞めるべきか悩んだ事もあったけど、こんなめでたい日に解散できるのは、ここにいる皆がいてくれたからだと思います。それとみのる、本当に有難うな。今日をもって、チームは解散しますが、これからも俺らは仲間だから。何かあったら、いつでも駆けつけるからな。一生、家族!お疲れっした!解散!』
『お疲れっした!』
2日後、さやは夕飯の買い出しの帰りに見知らぬ男達に暴行され、一生残る傷を負った。
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