第47話 結婚式①

みのるとさやの結婚式。


 僕は前日から前乗りし、5.6年振りに実家へ帰った。実家では久しぶりのお袋の手料理を家族で囲んだ。勘当されていた親父からも特に詮索してくることもなかったし、僕も必要以上に自分の事を話す事はなかった。それでも、笑顔で食卓を囲んだのは約10年振りであったと思う。


『人に迷惑をかけんなよ』

翌日、みのるの結婚式に向かう僕に親父が言っていた。『わかってるよ。俺はもう昔の俺じゃねーよ』という今までの自分の苦労をわかってくれていない、努力を踏みにじられたような悔しさのような思いもあったが、昔から口酸っぱく言われていた説教のような格言に『懐かしいな』という感情が勝り、少しはにかんで返事を返している僕がいた。

 タクシーで式場に到着すると、式場の前ではワイワイと騒ぐガラの悪い連中が一斉に僕を見た。


『ゆうじか?』

『おう、お疲れ』

『お~その髪なしたのよ?最初全然わからんかったわ~』

皆、僕の変わりすぎた風貌に驚いている様子だった。自分としては、髪を黒くして爽やかな髪型にしていただけで、そこまで昔と変わらない気でいたが、皆の驚いた様子に僕は少し嬉しく感じていた。


『いやいや、そんな変わらんべ。10年ぶりの同窓会じゃねんだからよ』と皆と話をしていると、髪を七三に分け黒縁の眼鏡をかけた人間がこちらに向かい歩いてきた。


『マサ?』

『おう、ゆうじ久しぶりだな』

『おーぃ、全然わからんかったわ』と僕も10年振りの同窓会のようなテンションでまさを迎えていた。

 僕が地元を離れて2年程経過していたが、皆の成長が見て取れた。皆、それぞれ自分の人生を歩んでいるんだなと思った。それでも不思議な物で外見や性格がいくら大人になっていても、仲間に会うと当時の自分達に戻ることができた。

 マコト、まさ、じゅんや、てつなどいつものメンバーが揃い、会場入りした。中に入ると、会場はとても広く、隅々までこだわった装飾が施されていているのを見て、みのるを大したもんだと思った。席につき、一通り落ち着いた後、『よし、行くぞ』と全員でみのるの親族に挨拶をしに行き、その後さやの親族にも挨拶を済ませた。『早く飲みてーな』とざわざわとだらけながらも、僕はみのる達の生い立ちなどが記載されている冊子を眺めていた。座席表にも目をやると、見たことのある名前を見つけてしまった。


○○あんな


『来るんかよ』と心のどこかで期待していた癖に、口に出す訳でもない感情に対しても強がっている僕がいた。皆には恥ずかしすぎて、決して口に出す事もなければ態度に出す事も100%なかったが、僕は相変わらずあんなを思い続けていた。

 仕事で行き詰まった時、地元を離れて寂しく感じる一人の夜など、いつも僕の心にはあんながいた。一途と言えば、聞こえは良いが、いつまでも変わることのない想いに自分自身嫌気がさしていた。あまりにも引きずる性格に『実は一途ではなく、寂しいだけなのでは?』と自分を疑うようにもなっていた。

 そうした流れから、名古屋で一人の女性と出逢い、付き合い、半同棲するような事もあったが、失礼極まりない話だが、正直一度も心が揺れることはなかった。


『瞳を閉じればあなたが まぶたの裏にいることで どれほど強くなれたでしょう』というような歌があったが、その歌詞がとても当てはまり、あんなを常に意識して、いつ出会っても恥ずかしくない自分でいようとしていた。『あなたがいたから、ここまで来れました』などと言える程、何も成し得ていないのだが、僕の中心にはいつもあんながいた。

 思えば、地元を離れてからの2年間は、今までの自分を否定する事が良とし、今までの自分は悪とするような自分を完全否定してきたように思う。

『道に咲く花にさりげなく笑いかける君が大好きで~』というクリスタルケーの歌に出てくるような人間を『そんな奴いるわけねーべ』と小馬鹿にしながらも、そんな人間を目指している節があった。

 酷い話だが、みのるとの結婚式の招待状が届いた瞬間に『あんなが来るかも』と鼓動が抑揚したのも事実であり、『その前に』と同棲していた彼女との別れをつけてから地元に帰ってきたのも事実であった。ある意味、完全にイカれていた。そこまで想いながらも、不思議と『また付き合いたい』とまでは思わなかった。


 僕は『あんなが来る』と内心ソワソワとしながらも、皆に悟られまいとダルそうに『早く飲みてーな』と毒づいていた。あんなは、新婦側の友人席と、僕達とは席が離れていたが、絡みはあるだろうと気を引き締めていた。

 式が始まり、みのるとさやが緊張した面持ちで入場していた。二人ともとても綺麗で眩しく、僕達は心から二人の門出を祝った。そして、乾杯の挨拶と共に僕達のもう一つの戦いのゴングが始まった。

 飲み屋系の女の子も多かった為に飲ませ上手な人間と煽り上手の人間がタッグを組むと僕達のテーブルは地獄絵図と化した。一気のコールが絶えず飛び交っていたし、みのるの親族や勤め先の社長などにも『みのるを宜しくお願いします!』と酒を注ぎに行ったりと好き放題やっていた。

 みのるにも盃を交わすような皿と一升瓶を持って壇上で手渡し、酒を注いだ。みのるは嬉しそうに日本酒を一気に飲み干していた。新婦側の人間も知り合いが多くいたので、披露宴の終盤にはあらゆる人間が僕達のテーブルを行き交っていた。


『ゆうちゃん、久しぶりだね』

懐かしい声に反応するように僕が振り向くと、あんなが笑顔で立っていた。

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