第44話 キッカケ①

それから約2週間が経った。


前回やられた箇所にプラスして、身体中が傷だらけとなった。右の腰骨が粉砕され、口の中も数ヶ所縫い、指の骨折、爪も皮膚のように柔らかい爪が生え始めていたが、拳を握ると血が滲んでいた。体のあちこちが炎症していた為、高熱が毎日出たし、身体が回復しようとしているのか、1日18時間は寝ていたと思う。

 その期間、僕は病院に直結している自宅の方で治療を受けていた。この病院に来るのは、いわく付きの人間がほとんどで、夜中から早朝にかけて、皆『刺された』だの『指を落とした』だの物騒なエピソードと共に担ぎ込まれてくる。

 病院でゴタつかれても、困るから、基本的には入院をさせないというのが決まりらしいが、僕は堅気なので、寝泊まりすることができた。

 僕が少し歩けるようになってくると、医者の爺さんはリハビリだと言って、怪我人の僕に病院の掃除や買い物など雑務をさせた。

 爺さんは、『ヤクザになんかなるなよ』とそんな気さらさらない僕にしつこく言ってきたり、名前を間違えたりする。恐らく誰かと僕を重ねているのだろう。

僕からすると、ただの口うるさくセコい爺さんだったが、実際は比山さんも頭が下がる程の人物だった。


『ゆうじ、退院したらカシラが顔出せって言ってたぞ』僕の着替えを持ってきた比山さんの若い衆が言っていた。僕が入院している間、比山さんの使いの者が定期的に僕の着替えなどの世話をしてくれていた。その言葉にドンと重くのし掛かるプレッシャーを感じたのは確かだった。僕の内情的にはもうほっといて欲しいという気持ちだったが、若い衆も兄貴分の頼まれ事は全うするしかない様子だった。

 爺さんにその事を伝えると『堅気やっていくなら、ヤクザに関わる必要はない』と言っていた。

『そうは言っても着替えなどの世話を受けている手前、全くのシカトという訳にもいかないんだよ』と言うと『ヤクザに義理なんか立てるな!堅気らしく真面目に生活しろっ!』と少し怒っていた。

 爺さんとの生活は、なんとなく居心地が良く、もっと手伝ってやれば良かったと思ったが、少しずつ怪我がよくなってくると、あまりにも退屈で病院を後にする事にした。

 病院を出る時、爺さんに『ありがとね。また遊びに来るわ』と言うと、『もう来るな』と寂しそうな顔して言っていた。


 病院を出て、爺さんには止められたが、やはり比山さんには筋は通しといた方が良いと思い、その足で比山さんの事務所に向かった。

 事務所に到着し、緊張しながらもチャイムを鳴らし『ゆうじです!只今退院しました』というと若い衆が『お疲れ様です』と言ってドアを開けてくれた。

事務所の中へ通されると比山さんは笑顔で招き入れてくれ、内心ホッと肩を撫で下ろした。


『ゆうじ、大分良くなったな』

『はい、お陰様で少しはマシになりました。色々と世話して頂いて有難うございました』

『おう!高いぞ』と言われ、封筒を渡された。封筒の中には札束が入っていた。『色々迷惑かけたな。車の修理にでも当ててくれ』と比山さんから金田に盗まれた貯金プラス50万を受け取った。

『金田はよ、昔、お前らに顔潰されたって言ってたぞ』僕は、金田が僕達を執拗に攻撃してくるに至ったキッカケを比山さんから詳しく教えてもらった。

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