第43話 報復に次ぐ報復⑦

 ヘッドライトの光が眩しく、角膜に傷が入っていた僕は目に激痛が走った。そんな中でも、2台の車の車種がBMWと30セルシオだとわかった。

 その場に居合わせている全員がすぐに、誰だかわかり、僕以外の人間が全員が勢いよく立ち上がり、姿勢を整え、直立不動になった。

  BMWのゴツい運転手が降りた後、すぐに後ろに回り込み、後部座席のドアを開けた。比山さんがこちらを睨み降りてくると『お疲れ様です!』と金田達はさっきまでの鬼畜ぶりが嘘のように精悍な声で挨拶をしていた。比山さんは、金田達に見向きもせずに、僕の方へツカツカと靴鳴らし歩いて来て、僕の前でしゃがみこんだ。


『大丈夫か?』

比山さんは何も言えない僕に舌打ちをして、立ち上がり、金田を見た。比山さんの表情までは、見えなかったが、見えずとも鬼の表情が想像ついた。

 比山さんは直立不動の金田の元へ行き、金田を何度も殴りつけ、頭を鷲掴みにした。

『コラッガキ!まだわかってねーのか?あっ!?どーなのよ?コラッ!』

 比山さんは金田を殴りながら、言葉で追い込んでいった。金田は、どんなに殴られても直立不動の体勢を崩さず、『すいません!すいません!』と情けない声を出していた。それが更に比山さんの怒りを買い、『すいませんじゃねーコラッ』と強烈な蹴りがミゾに刺さった。しゃがみ込む金田に、また蹴りを脳天に振り下ろした。

 金田は勢いよく、地面に叩きつけられ座り込んだ。比山さんは『おい!』とゴツい舎弟2人に目をやり、僕をを担ぐよう指示をした。僕は、ゴツい男2人に両脇抱えられ、車まで向かった。金田の方へ目をやると、僕に対しての勢いと打って代わり嘘のように座り込んだまま、下を向いていた。

 そんな金田を見るとイラつき、僕は2人に抱えられながら『殺せよ、コラ』と言った。金田が顔を上げ、

いかにも苦しいですという表情で僕を見た。


『イラつく』


『殺せコラッ!何の恨みがあって俺に突っかかってくんのか、知らねーけど、殺す気できたんだろーが!殺せ!コラッ!』

『ゆうじ。このクソはよ、昔、お前らに因縁つけられた事を未だに根に持ってんだわ』

僕は、その事を思い出そうとしたが、思い出せなかった。どんなに恨みがあるかはわからないが、人に言われて止めるようなら、最初っから殺すなんて言うもんではない。人の命は、平等に重いものなんだから。


『お前は、ヤクザである前に、男としてしょーもないクソだな。恨みがあるなら、1人で来い。俺はこんなやり方で、やられようが殺されようが、お前に負けたなんて思わねーよ。土俵に立つ前から、お前は俺に負けてんだ。バカ!二度と俺の前にツラ見せんな!』

金田は下を見たままだった。

正に試合に負けて、勝負に勝ったような戦いだった。本気の勝負は、リスクを背負って勝負するべきだと思う。それは、僕にとっては、恋愛でも友情でも同じで、心配だ。お前が大事だと言って、2対1で説得をしたり、綺麗事だけを並べたり、ただ自分の思い通りにしたいだけだと思う。

 そんなリスクの少ない言葉に誰も心なんて動かされない。例え、言ってる事が間違ってても、責任とリスクを背負うべきだと僕は思う。間違ってたら、後で本気で謝れば良い話だ。

 僕はその後、担がれながら、初めてBMWの後部座席に乗せてもらった。隣には、比山さんが乗り『約束守れなくて、すまなかったな』と初めて僕に頭を下げてくれた。僕はなんて答えて良いかわからず『いや、大丈夫です』と答えた。金田達を残し、僕達は工場を後にした。車内は沈黙していたが、クリスタルケーの「恋におちたら」が流れていた。いつも演歌オンリーの比山さんが『クリスタルケーって!』

 理由を聞いてみると、中学生の娘からの初めてのプレゼントなんだと比山さんは、少し照れながら言っていた。CDは何度もリピートされ、比山さんを少し可愛く思った。病院までの道中、今まで教えてくれなかった比山さんの壮絶な生い立ちを、面白おかしく話してくれた。病院に到着して病室まで抱えられて歩く僕に『治療は明日だ。一晩寝てろ』と年老いた医者が頭をかきむしっていた。

僕は病院のベッドで寝ながら、頭の中ではクリスタルケーの曲が何度もリピートされていた。僕は少し感傷的になり、今までの事を振り返っていた。


暗かった少年時代、マコトやまさとの出会い、遊び歩いていた時代。あんなとの事。

僕はいいのか悪いのか悪さをするには、最高の環境にいた。真っ当に生きようとしても、いつも邪魔が入る。それもすべて自分が悪い。

なんか涙が流れてきた。


『道に咲く花にさり気なく、笑いかける君が大好きで~』


『そんな奴いる訳ねーべ』と思いながらも、このフレーズが気に入って、何度も口ずさんでいた。もし僕がこの歌のような優しい人間なら、あんなも幸せにできたのだろう。色々悔やんでも、もう遅い。

そんな風に思い、僕は変わろうと心に決めた。


『俺は生まれ変わる』

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