第42話 報復に次ぐ報復⑥
それから、どれ位の時間が経過したかはわからないが、気かつくと、僕は薄暗い工場に拉致られていた。
「・・・」
遠くの方から誰かの話し声が聞こえ、ゆっくり目を開けた。辺りは薄暗かったが、見覚えのある景色で、すぐにどこだかわかった。本当によく来る工場だ。『お前等は他にアジト的な場所はねーのか』と心の中で突っ込みを入れた。精神的には少し余裕があったが、状況的には最悪だった。
ギブスお構いなしで腕を後ろで縛られ、家からそのまま拉致されたので、上下スウェットに裸足だった。僕から少し離れた所では、金田の兵隊であろう2人組が雑談をしていた。僕は顔が砂まみれだったので、口に入った砂を唾を吐くように吐き出すと、2人組は僕に気づき、こちらに歩いてきた。
『おう!目覚めたか?おはよう』
僕が『おはようさん』と余裕で答えると腹に蹴りが入った。腕を後ろで縛られていて、胸を張っている状態だったので、腹への攻撃は必要以上に痛かった。
悶絶する僕に『状況わかってねーべ?死ぬよ、お前』もう一人が言ってみたかったのか『お前跳ねすぎたな』と決め顔で言っていた。2人は金田に言われているからか、脅してきたりはするがこれ以上、手を出してはこなかった。とりあえず金田と話をしなければ、助かる事はないのであろう。僕もこれ以上は何も言わずに奴を待った。
5分程して、工場のシャッターが開き、1台の車が入ってきた。見覚えのある車だ。そりゃそうだ。僕のプレジデント。この前の一件で、ボコボコになったとはいえ、数々の思い出を一緒に過ごした。『ふざけんなよ』と腹わた煮えくり返った。
我が物顔で車から降りてきたのは、金田と構成員の1人だった。金田も比山さんにやられたのか、頭には包帯が巻かれ、眼帯をしていた。金田が車から降りると『いやぁしょべーな!この車!』とサイドミラーを蹴り折っていた。
『絶対、殺す』と誓った瞬間だ。その怒りに気づいたのか、金田が僕にゆっくり近づき、顔面に蹴りを入れてきた。
『ゆうじぃざまぁねぇな』お前も人の事言えねーべ。
『比山さんはこの事知ってんのか?』
金田は少し笑い、また腹に蹴りを入れてきた。
『お前、うるせーよ。お前は今日死ぬんだからよ。関係ねんだわ。そーいえば、命日記念にお前の金、引き落としてやったぞ。糞みてえな金しかねーな、お前』
僕があんなとの結婚資金として貯めたお金だった。
他の奴らも薄ら笑いを浮かべ『だせぇ』とか『シャバ憎』などと、中高生が言いそうな悪口を言って、僕を馬鹿にしていた。本当に下らない人間だった。
金田は覚醒剤でもキメているのであろう、薬物特有の笑みから一変して怒りの表情に変え『おう、あれ持って来いや!』と若い衆に指図をした。
若い衆が少し焦りながら、“あれ“を持ってきた。バールだ。僕もさすがにバールはまずいと思い、『なんで俺らを狙うのよ?こんな事やって楽しいのか?』などと少しでも状況を変えるように色々と捲し立てた。
金田は少し笑い『お前ビビってんのか?あの狂犬で知られたゆうじがこの程度で、ビビるわけねーよなぁ!』とバールを振り下ろした。
『ちょっ・・待っ・・』
『サクッ』
バールは丁度、僕の横っ腹の下の腰骨に命中した。服の上からなので、刺さると言うよりは、肉を無理やり引き離されるような感覚だった。右足に一気に電流が走り、痛みで声も出なかった。あまりの衝撃にエビのように体を丸める僕に金田はもう一度バールを振り下ろした。今度は後ろで縛られている腕に刺さった。あまりの痛みで、丸めた背中が一気に伸びる。
『おまえ等も遊べや!』
『押忍』
今度は、他の奴らからの蹴りのオンパレード。
髪を掴まれ、無理矢理体を起こされては目や鼻などの急所を殴られる。殴られて倒れた所に更に蹴り。鼻血で息ができずに口を開けていると、口の中に車のボルトやナットを投げつけられるように入れられ、その上から殴られ、それを吐き出して呼吸をしようとすると腹を蹴られた。
幾度となく、繰り返される攻撃。
終わりが見えない。
僕は肉体よりも精神が先に壊れた。意識が飛びそうになった僕に気づき『おう、やれ』と言って、金田が何かの合図をした。若い衆は僕の腕を解き、手のひらを無理やり地面に、押さえつけた。僕も力一杯抵抗するが、3人の男達に押さえつけられ、体の至る所が痙攣してた。金田は僕の前でしゃがみ込み、ペンチで僕の指を捻り折った。
『ギャァ』
今まで出した事ないような叫び声。
『詫び入れて、命乞いしてみろや!』
謝りたくても声が出なかった。今度は手の指の爪をペンチで摘み、そのまま剥ぎ取られた。もはや、人間の声でもない叫び声だった。
『殺せコラッ』
僕は、その言葉を繰り返していた。何かを言うことでしか自分を保つことができなかった。左手の小指以外の爪全て剥がされ、ギブスも意味をなしていなく、腕はパンパンに腫れていた。何かが触れるだけで叫びたくなる程だった。奴らの嫌な所は、頭や首をあまり狙わずに、僕に意識を失わせてくれない所だった。
奴らはクソ野郎でも、人を追い込むプロだった。最後の小指に差し掛かった時だった。
『ゴーォォォ』
ゆっくりと工場のシャッターが開き始めた。全員がシャッターの方へ視線をやり、シャッターの隙間から眩い光が入り、工場の中が照らされた。黒塗りの2台の高級車がこちらに向かって入り、僕達の前で停まった。
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