第45話 キッカケ②
比山さんが無表情で金田の僕達を執拗なまでに潰しにかかるキッカケとなるエピソードを淡々と僕に話をした。それは、僕達がまだチームを作る前の話であった。
当時、僕達は10代真っ盛りで、酒の飲み方も知らずに、よく皆で繁華街に繰り出すことが多かった。若いので、酒飲めば必ず呑まれ、体育会のノリで周囲の迷惑を気にせず騒いでいた。
僕は当時から酒が弱く、いつも最後の方は寝ていた。起こされると、なぜかツレが喧嘩している。そんな事が珍しくなく、目覚めて5秒で人を殴る事もあった。負けても勝っても何か楽しかった。
そんなある日、僕達は極道としてまだ駆け出し中だった金田に出会った。金田はシノギを作るために、名を売り、揉め事を探すよう弟分を連れて街を徘徊していた。そして、僕達がよく出入りしていたチームの集会とかち合った。
そのチームは、当時僕達の街では一番力を持っていたチームで、頭の人は暴走族でもなければ、不良でもない、今で言えば半グレ、昔で言えば愚連隊のような団体を創った第一人者であった。ケツモチもこの街の不良界では最強であった。
駆け出しの不良では、敵うはずもなく、勢いも最初だけでケツモチを知り、金田は即座に詫びを入れた。その上で頭の人が僕達に『お前らもチーム作んなら、
名ぁ売っとけ!』と言うので、僕が一番に行き『初代○○特攻のゆうじだ、バカヤロウ!』とバカ丸出しで、言ったらしい。マコトも戦う気もない金田に、弟分の前で恥を掻かせるような事をさせた。
そう言われてみると、微かに記憶があった。僕達にとっては、その程度の思いであったが、金田にとっては堅気のクソガキに顔を潰された。忘れることのない悔しい思い出となった。それを機に金田は変わり、時を経て、何でもやる立派な鬼畜ヤクザになった。
正月に僕達が比山さんの自宅から帰る際に、僕達3人を見つけ、『ようやく見つけた』とほくそ笑み、潰してやろうと長年の恨みをぶつける形となった。僕達としては、自業自得、因果応報といった所ではあるが、男としてつっぱって生きる上でその時々の場面という物は必ずついて回る。
そこに関してはしょうがないという割り切りはできるが、自分の大切な人間が被害を受けるということだけは割り切っても割り切れない事であった。
そういう意味で言えば、やはりどんなに良い人間に見えても堅気が極道と関係を持たない方が身のためである。極道の世界でなくとも、一般社会でも元不良であったり、前科持ちなどの人間は多くいるので、真っ当な暮らしをしたいのであれば、そういう人間と付き合うのは、なるべく避けた方が良いし、どうしても付き合わなければならないのであれば、適した距離感が必要であると思う。
家が貧しかったり、学校でいじめを受けたり、家に居場所がなかったり、不良にまでなる理由は相応の悔しかった思い出や報われない思いがある。
誰しもが道から外れたり、犯罪者になる要素がある。生まれ持って悪人もいなければ、善人もいない。誰しもが善と悪を持ち合わせている。
犯罪を助長する気はないが、犯罪の裏には人それぞれ事情がある。その環境を自分が原因で作る場合もあれば、先天的に与えられる場合もある。恵まれて生きてきた人間は『世の中は平等』と当たり前のように訴えるが、平等な訳がない。
僕達にも道を外れたキッカケを持っている。しかし、金田が鬼畜な不良となるキッカケの一つとして、僕達が咬んでいるということは、非常に後味が悪かった。
僕は深く反省をしながらも、前向きにやっていくしかなかった。『これが俺の人生を変えるキッカケだ』と一度は捨てた未来にもう一度光を当てた。
これから1ヶ月後、僕は故郷を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます