第40話 報復に次ぐ報復④
事務所のドアの前には、比山さんの若い衆、学が立っていた。挨拶もする間もなく『入れ』と言われ、
ドアを開けられた。
僕は大きな声で『失礼します!』と言い、事務所の中に入ると、若い衆が7、8人が両サイドに整列していて、中央のソファーには比山さんが仰け反るように座っていた。何度か事務所に来たことがあるが、いつもとは違い、一つの間違いで命を取られるようなピリついた雰囲気だった。その様子に僕の緊張感も高まっていた。
僕は足を引き吊りながら、3、4歩進んだ所で、手を膝につき頭を下げた。
『ご無沙汰しています。自分は今、金田さん達とやり合ってきました。今日はその事で、お詫びとお願いがありましたので、お邪魔しました』
僕の言葉に一切反応せず、『とりあえず座れ』とソファーに座らせられ、若い衆が僕を囲むように立っていた。
『わかってんなら、話ははえー。お前、この落とし前どうつけんだ?』
落とし前と言われても、そもそもの原因は、金田が僕達を目の敵にしたからである。落とし前やらケジメやら言われても、『悪いのはテメーらだろ』と僕は思っていた。
少し間が空け『詫びはこの頭です。頭下げて許される事じゃ・・』と言っている途中で『パァーン!』と比山さんがガラスの灰皿をテーブルに叩きつけた。
『どう落とし前つけんだ、コラッ!』
”どうもこうもねーだろ。俺はそんなんじゃビビんねーよ”と比山さんに目を合わせながら『いや、だから!頭下げに来ました!』と反抗的に言った。
『コラッ!ガキ!勘違いしてんなよ!』比山さんは鬼の形相で僕を睨み付けた。
『すいません。けど、テメーの女やられて、俺は黙ってられないです。やられたら、やり返す。筋を通しただけです』
『おー、お前も偉くなったもんだな?だったら、ドカドカとウチに入り込んで、偉そうにゴタク列べてるテメーはなんなんだ、コラッ』
『いや、それは・・』
比山さんに続き、若い衆の怒号が飛び交った。『調子乗るな、クソガキ!』『まずはテメーの筋通してみろや!』
極道の筋とは、こんなもので、実際は、筋やらケジメという言葉は、人を追い込む時に都合の良いように
使われるだけだ。
『覚悟決めれコラッ』
集中豪雨のように若い衆の罵声の中、それをかき消すように僕は『わかりました!』と大きな声で言った。
『S組お世話にならせて貰います!そん代わり、これ以上俺の身内に手ぇ・・」
また、話してる途中でソファーに座ってる僕を、若い衆が僕の後ろ襟を引っ張り上げ、床に叩きつけた。それだけでもノックアウトしそうな僕に、受け身を取る間もなく、若い衆の容赦ない攻撃が続いた。僕は、もう蹴りだかパンチだか何もわからない程、疲弊していた。次第に痛みよりも眠気が勝ってきた。
徐々に意識が遠のき、視界が薄くなる瞬間、一瞬あんなが見えた気がして、そのまま僕は意識を失なってしまった。
何れくらい経ったかわからないが、目を覚ますと、僕はベットの上で寝ていた。隣にはまさがいるのが見え『助かったんだ』と安堵した。まさが『大丈夫か』と心配そうに言ってきた。
僕は声を出すのも困難だった為、まさにアイコンタクトをしてゆっくり部屋を見渡した。コンクリートが剥き出しの壁にベッド以外は殆ど何もない殺風景な部屋だった。
『ここは事務所の3階だよ。比山さんと話つけたから、帰ろう?帰って病院いこうぜ』
僕は微かに返事をし、まさが僕を起こそうとしてくれたが、体中に激痛が走り、立つだけでもかなりの時間がかかった。まさの肩を借りて、ゆっくりと歩き出し、何とか部屋を出た。
ゆっくりと階段を降りると、比山さんとまさの兄貴が話を終わらせ、事務所から出てくるのが見えた。僕は、すれ違う際に比山さんを睨みつけ、無言でそのまま階段を降りていた。
『ゆうじぃお前いつウチに入んのよ?親父に話しといてやるぞぉ』
!!!
僕はまさから手を離し、振り向き「『いや自分根性ないんで、務まらないと思います。それじゃあ失礼します!』比山さんは『お前はそれでいい』といつもの優しい笑顔をくれた。僕はその笑顔を見て、涙が出そうになりながら階段を降りた。その後、まさが僕の車を運転し、そのまままさの兄貴の知ってる病院に行き、手当てを受けた。
後から聞いたが、まさは、みのるから電話で僕のことを聞きつけてきたらしく、兄貴と一緒にS組へ出向いてくれた。まさが来た時には、僕は既に事務所でぶっ倒れていて、キレそうになるまさを兄貴が止め、僕は3階まで運び、兄貴は比山さんとの直談になった。
比山さんは、金田達があんなに手を出した事までは
知らなかった。僕の話で初めて事実を知ったらしいが、立場上、自分の若い衆がやられて黙ってるわけにはいかなかった。
比山さんは、今後このような事をさせないと誓ってくれた上、頭を下げ、詫びたと聞かされた。
身体や車はボロボロにはなったが、結果的には僕の願い通りとなった。僕の長い一日は、昨日から想像していた悪夢のようにはならず、最高の形で終了することができた。僕は心から安堵し、病院で死んだようにほぼ丸2日間寝続けた。
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