第36話 跡目

翌日


 急遽チームの人間を集め、跡目継承をやろうと声をかけた。マコトが姿を消したこと。金田から何かしらの圧力やアクションがあるかもしれないこと。副総長のまさから事前にチーム全員に連絡が入っていたことで、スムーズな流れで集まることができたのかもしれない。

 久しぶりに緊急集会が行われたにも関わらず、殆どのメンバーが参加していた。久しぶりに揃った僕達だったが、状況が状況だけに皆に笑顔はなく、気が引き締まった表情をしていた。

 集会はいつも総長のマコトが仕切っていたが、不在の為、僕とまさが代表して集会を仕切った。僕がまさに跡目継承の話を持ちかけた時に、まさは"なぜ今なのか"と理由を聞いてこなかった。恐らく、僕がこれからの行動を言わずとも理解していたと思う。

 本当の意味で理解していたからこそ、何も言わなかったのだと思う。僕自身もまさやチームの人間に迷惑がかかるかもしれないという思いもあったが、この事件にケリをつけなければ、一生後悔すると思い、自分の考えを改めようとしなかった。


『二代目の総長はみのる、副総長は○○、特攻隊長はじゅんやに任せることにした。これはマコトも含めて俺達幹部で話し合った結果だからよ。意見ある奴はこの場で名乗りあげろ』

『・・・』

『よし、そしたらみのるー!これからどういうチームにしたいのか、自分はどうすんのか、皆の前で誓え!』

みのるは皆の前で、今後の抱負を威勢良く叫んだ。淡々と跡目継承を進める僕達の空気をみのるの一声で変わるのがわかった。皆がみのるの声に反応するように威勢の良い返事をし一致団結した状態で『さぁ走りにいくぞ』と盛り上がった所で僕が待ったをかけた。


『わりぃ皆ー!今日は走りはなしだ!これで集会は終わりにする』

全員が『なんで?』という顔をしていたし、メンバーの中には、走らない事に不満の言葉を漏らす者もいたが、僕は一貫して走らないと言い張った。不穏な空気の中、まさが口を開いた。


『わかってる人間も多いと思うが、俺達は今、S組関係の人間と仲違いしてる状態だ。マコトもその流れでガラ交わしてる。俺も時期みてS組に掛け合ってみるから、それまで派手な動きは避けてくれ』

『相手はあのS組だ。皆の所にも、何らかの動きがあるかもしれねー。もし、何かあったらすぐに俺かゆうじに教えてくれ』


 まさの助け船によって、皆は納得いかない顔をしながらも、首を縦に振っていた。僕としても、今の状態で走るわけにはいかなかった。僕は出川風に言えば『切れたナイフ』の状態であった。どんな些細な事でも収拾つかない所までいく自信もあったし、今パクられるわけにはいかなかった。

皆が解散した後、僕はみのるを呼んだ。僕は、みのるにせっかくの晴れ舞台を台無しにしてしまった事を詫びを入れた。みのるは、精悍な顔をして『大丈夫です。状況が状況だし、俺達もわかってますから』と言ってくれていた。

 これから金田とやり合おうとしている事、それにより事態が悪化した場合に、チームの人間が被害を食らうかも知れない事を伝えた。面倒なこと全てを人任せにする事が、とても後ろめたい気持ちではあったが、お願いするしかなかった。付け加えて、さやと親友のあんなの事もみのるに守ってもらうようお願いをした上、僕の事を言わないよう口止めを頼んだ。

 みのるは二つ返事で『こっちは大丈夫です。ゆうじ君無理しすぎないで下さいね』と言ってくれた。

『面倒な事ばかり任せてわりぃ。けど、奴だけは許せねんだ。どこに終着するかわかんねーけど、体かけて行くつもりだからよ。無事全て終わったら、マコトを含めて俺らの引退集会と跡目継承やろうぜ』

『そうですね!無事終わったら』


 僕達は手を合わせ別れた。みのると別れた後、僕の変化に気づいたのかじゅんやが話しかけてきた。


『兄ぃ、大丈夫ですか?何かあるんなら、自分、今すぐでも動きますよ』

『ありがとな。けど、これは俺の問題だからよ。それよりもチームの事、頼むな!』

『負けんじゃねーぞ』と僕はじゅんやに拳を見せ、じゅんやも拳を合わせ別れた。


その日の晩、僕は金田に電話をした。

僕は『マコトと連絡がついたので、明日一緒に詫び入れに行きます』と嘘を言い、その代わりに、あんなを犯した人間もその場に立ち会わせるよう条件を出した。金田は、少し笑いながら『わかった』と即答した。電話を切り、真っ暗な部屋で僕は不適に笑った。翌日昼1時、場所は金田の工場。役者が揃った。

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