第35話 黒幕②
それから数日後、今度はマコトが襲われたとまさから連絡があった。
真夜中に、まさから僕の携帯に連絡があり、事情を聞いた。容態としては、とりあえずは動ける状態ではあるが、数人の武装した集団に鉄パイプを何度も殴打されたという話であった。
襲われた当日、マコトは仕事の合間に従業員の受け皿になってくれるよう知り合いの鉄筋屋の社長の所を訪れていた。そこで、偶然S組組員の学と出会ってしまい、罰が悪いと口止めをお願いした。その後、マコトは会社に戻り、金田に問い詰められたが、知らぬ存ぜぬを通した。その時点で、学から金田へ報告があったのだろう。夕方になり、マコトは金田の義理事に付き合わされ、飲み屋などを回り、金田を送り届けた後、会社に戻った所で武装した集団に襲われた。おそらく、マコトが金田に連れ回されている間に金田は鉄筋屋の社長に裏を取り、襲撃に至ったのであろう。最後に『俺はこのまま従業員とガラかわすから、ゆうじに気をつけるように言ってくれ』と声を枯らし苦しそうに言っていたとまさに言われた。
『何で俺達ばっかり狙われるんだよ?』
セルシオ狩りに紛れて、不良が僕達のような人間を襲う事件が増え、極道が堅気に手を出すハードルが下がっているように常日頃感じていた。しかし、まさやマコトへの仕打ちは、明らかに『生意気だから小突いてやろう』というレベルではなく、ある程度の覚悟と計画的に仕組まれているやり口だった。
『理由はわからねぇ。だけど、金田は俺達を目の敵にしてる事は間違いねーわ。ゆうじ!金田が何考えてるかわかんねーけど、これ以上金田に何を言われようと関わるな』
『これ以上って俺はあいつと接点ねーし、構うつもりはねーよ。だけどよ、正直な所、このまま終わらせたくねーのが本音だよ。ヤクザがなんぼのもんだよ、そっちがその気なら行く所までいったるか?』
まさが襲われ、マコトが嵌められ極道の仕事をし、その上襲われた。『まさと距離を置いてくれ。あんなを守ってやれ。金田に関わるな』この手の話聞かされる度に僕はいつも蚊帳の外であった。
『俺が進むとき進まんで何が特攻隊長だこの野郎!』
熱くなり攻撃的に話す僕にまさは一呼吸置いてなだめるように話をしていた。
『堅気が極道には絶対勝てない。極道の喧嘩はガキの喧嘩とは違う。懲役覚悟で殺りにくるし、当人だけで済めばいいが、人の弱みを徹底的に突いてくる』
『ゆうじ悪い事は言わねえ。金田はヤバい。比山さんも手を焼く程だ。俺達がやらなくても、必ず自滅するよ』
『くそったれがー!わかったよ!!だけど、ここがラインだ。マコトが無事ガラ交わした後にこれ以上何かあったら、まさ、俺は一人でも動くぞ』
当人達が漕ぐ気のない船を僕がいくら漕いでも前には進まない。そんな事はわかりきっていたが、僕達ばかりが狙われ続け、何一つ返しができていない状況は耐え難いものがあった。
『もし、神がいるならいい加減恨むわ。俺の大事な人間ばかり引き離していく。もう何が大事かわかんなくなっちまったよ。まさ、俺よぅちょっと考えるわ。しばらく一人にしてくれ』
そう言って、僕達は電話を切った。
■
翌日。
仕事中に何度も知らない番号から僕の携帯に着信があった。ロクな電話ではない気もしたが、もしかしたら、"マコトの所の従業員からか?""マコトに何かあったのか?"などと心中穏やかではなかった。自宅に帰り、ゆっくりしていると同じ番号から電話がきたので、出てみると『おう!俺だ!』と久しぶりに聞いてもすぐにわかる金田の声だった。どうやら、電話に出たのは間違いであった。
『お前、久しぶりだなぁ。前の件忘れてねーぞ、コラ。詫び入れにこいや!』
前の件とは、加藤と初めてあった夜の事を言っているのである。僕としては"まだ覚えてるのかよ"という程度であったので、軽く濁していた。
『まぁいい、今回はあの腰抜けのことだ。お前、マコトの居場所教えれや』
『マコトはわからないです。何かあったんですか?』
僕は、マコトが襲撃された事も知らないという体で話をしていた。その白々しい僕の演技に金田が声を荒げた。
『知らねー訳ねーだろ!かくまってるとお前もやるぞコラッ』
『いや、知らないです。すいません』
僕は内心イラついたが、構えるわけにもいかず、落ち着いて答えた。
『ふざけんなよ、お前!じゃあお前がマコト探せ!コラッ!3日以内だ!3日以内に俺の所連れてこなかったら、お前にケツ回すからよ!』
少しまずい展開になってきたので、話をズラそうと改めて何があったかを聞いた。
『うるせーコラッ!お前には関係ねー!お前はマコトを連れてこいや!』
余りにも理不尽な物言いに僕もいい加減我慢できずに言った。『関係ねーなら、俺にケツ回すんじゃねー!俺はお前の兵隊でも何でもねんだコラッ!』
そして、この発言をきっかけに僕は信じがたい事実を知る事になった。
『お前、なーに調子乗ってんのよ!?またお前の女犯っちゃうよ?』
「!?!?」
僕は金田の言っている意味が分からず、少しずつ闇に足を引っ張られるような感覚に襲われながら、無言で聞いた。
『お前の女だよ。あんなだっけ?犯った奴も結構、気に入ったみてーだから、また行かすか?』
心臓の音も消え、静まり返り、時計の秒針の音だけが聞こえた。けれど、あの衝撃だけは、今でも鮮明に覚えている。
『お前知らなかったの?お前の女犯ったのは、俺らだぞ!マコトには教えてやったんだけどよ。あいつもヒデー奴だな!まぁいいや!3日以内だぞ!マコト連れて俺の前によこせや!!』
『オイ!聞いてんのか?コラッ』
『・・・わかりました』
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