第34話 黒幕①

まさが入院してから、約1ヶ月経った頃、僕はてつとうどん食べに行った時のことである。

僕は、まさの兄貴に言われた通り、まさとの連絡を絶つようにしていた。僕も募る話もあるし、そろそろ電話位は良いのかと思い始めていた頃だった。


『そーいえば、この前まさと連絡取ったけど、元気そーだったよ』

『あ!?いつ電話したのよ?』

『えーっと、この前だよ』

『だから、いつだよ?お前、まさの兄貴に言われてんだべや!』

『いや、そうなんだけど。たまたまというか心配でさ』

『たくっ俺達でも我慢してんのによー。あっ、お前セルシオ狩りにビビって、その事聞きたくて電話したんだべ?』

『ゴホッ』とてつは分かりやすい反応をした。

『図星かよ?』と僕はてつの呑気な性格に少し笑っていると『ハックション』とてつは、自分の器に鼻水を入れていた。

『一週間前位に連絡したんだよね。元気そーだったよ。肋折れたって言ってたけど、大分いーみたいだよ』

『そっか。もう退院できそうなのか?』

『いや、もうちょいかかるって言ってたわ』

『じゃあ今度見舞いいかなきゃな。そういえば、まさの兄貴、ケジメ取ったって言ってたけど、どこの不良なんだべな?』

『不良じゃないらしいよ。ガキだって言ってたよ』『ガキって。VIP系か?』

『いや、15~6のガキ共だって』

『あぁ?なわけねーべ。そんなガキ共にまさが狙われる訳ねーべ』


 僕達は曲がりなりにも武闘派で売っているチームだ。不良や不良をかじってる人間にやられたのであればまだ許されるが、暴走族のような子供にやられるという事はあり得なかった。そうすると、てつが僕に顔近づけてきて、『いや、ガキだったんだよ。俺も最初不良にやられたかと思ったんだけど。まさは、"単車乗り回してるガキ共"って言ってたんだよね。しかも、頭の奴なんか白のカナイ着てたらしいからね』


カナイ??


!!!!


『マジか!?』

 白のカナイと言えば、加藤である。一昔前は、カナイやウィルソン、スヌープドッグなど、着用しているヤンキーは多かったが、"安っぽいチンピラ"というようなイメージが出来上がり、ブームは下火になっていた。そうした中で白のカナイのセットアップを着用する人間は、そうはいなかった。今考えると、まさが襲われたのは、花火が上がる前の事であり、夕方と言えど、まだ辺りは明るかったでだろう。人通りもそれなりにあるような時間帯に、襲撃をするなんて事は無計画すぎる。


『俺達は狙われている』

まさの言葉を思い出した。加藤が首謀者であれば、恐らく金田が黒幕であろう。まさとマコトは、金田から金を騙し取り、その報復に金田は加藤を使い、まさを襲わせた。点と点が繋がる。

 こうなると、まさの兄貴が僕達に言っていた事も怪しくなってくる。まさの兄貴はこれ以上、"報復による報復"を繰り返さない為にセルシオ狩りという第三者の加害者を作る事で事態を納めようとしたのかもしれない。

 マコトなら、詳しい事を知ってるのでは?と思い、僕はその晩マコトに探りの電話を入れる事にした。

『もしもし、マコトか?まさの事、テツに聞いたんだけどさ。少し話せるか?』

『あぁ大丈夫だ。どうした?』

『今日、テツからまさが襲われた時の事聞いたんだけどさ、まさをやった相手って、あの加藤じゃねーのか?』

『なんで、そう思うの?』

『まさをやった頭の奴、白のカナイのセットアップ着てたって話だべ?白のカナイ着てる奴なんて今時いねーだろ』

『そーだな、、まさをやったのは、多分加藤だよ』

『・・やっぱりか、マコト知ってたのかよ?何で俺に言わねんだよ?』

『俺とまさの問題だしよ。言おうとは思ってたけど、まだこっちの準備が整ってねーからさ。俺会社辞めて、しばらく雲隠れしようと思ってんだわ』


 マコトは会社を辞め、人生を一からやり直そうとしていた。マコトの夢は、車のカスタムショップを持つことだった。今の仕事が全く為にならない訳ではないが、曰く付きの商品を曰く付きの客層を相手に車を販売修理をする事は、夢に近づいているようで、僕から見たら遠ざかってるように見えていた。

 それに併せて、加藤を足洗わせる為に一肌脱いだおかげで、タダ働きをさせられる始末。不良のシノギに手を汚し、手にした金は生活費に消えていく。いつも強気のマコトが弱音を吐いていた。僕自身も金田に顔を合わせる訳にはいかない所もあったが、結局はマコトのピンチに何一つやってあげることができなかった。

 マコトはまさの一件を聞き、極道の世界から抜ける事を決意したが、従業員を抱えているので、自分一人が逃げる訳にはいかなかった。マコトは、水面下で従業員全員の引き受け先を探していた。それも残す所、後一人という所まで来ていた。

 チームの活動も自分がこういう状態なので、あえて皆から距離を取っていたと言う話を聞いて、僕はマコトらしいなと思った。

『今回の件は、俺とまさの問題だから、ゆうじは何もしないでくれ』とマコトに念を押されるように言われた。

『、、わかった。マコト悪かった。もし、力貸せることがあったら教えてくれ』

『ああ。けど、ゆうじすぐ突っ走るからよ。笑』

『大丈夫だよ。俺も大人になったから。笑 勝手に突っ走る事はしねーよ。けど、、加藤のケジメは取らせなくていーのか?』

『まぁな。ただ、まさとも話したけど、今表立って何かやろうもんなら、金田達と全面戦争になりかねないからよ。まさも今は我慢してるわ』

『そうか。まぁ今は堪えるしかねぇって事だな』


 まさは加藤にやられ、加藤を匿ったマコトは不良の仲間入りすることになった。マコト達が行った報復行為として、加藤は金田に使われたという体であるが、加藤の罪は重い。相手が不良だろうと、これまで"売られた喧嘩は必ず買い、やられたらやり返す"という信念を貫いていたマコトにしては、らしくない答えに感じていた。それでも"背負ってるモノ"が大きいと動きが鈍くなり、自分の気持ち一つでは動けないことも理解できた。


『2人が落ち着いたらよ、チーム跡目相続やろうぜ?このままだと残された人間も可哀想だからよ』

『そうだな。後少しで形つくから、もう少し待ってくれ。連絡するわ』

『おう。わかったよ。マコトもあんま無理すんなよ』

『おう。有難う。したらな』


 厳しい状況下で場面ごとにベストを尽くす。スムーズに事が動き出しているようで、僕にはどこか腑に落ちないという印象をもった会話であった。そして、事態は更に悪化の糸を辿っていった。

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