第33話 本当の愛とは③
僕達が別れた事は、一夜にして仲間達に知れ渡った。仲間達は皆、僕に気遣ってくれていて『とりあえず飲むべ』と連絡をくれ、僕を激励しようと飲み会を開いてくれようとしていた。しかし、そんな仲間の誘いを僕は断り続けていた。決して、ふて腐れていた訳ではなく、単純に僕の中ではまだ終わっていなかった。失恋会を開いてしまったら、本当に元には戻れない気がした。
『チャンスが絶対またくる』とあり得ない事を信じて止まなかった。僕はその時に備えて、"どうすれば戻れるか"それだけを考えていた。僕達が別れてから、数日経った時だった。
僕の務めている会社も繁忙期に入りつつあり、残業を早く終わらせようと忙しく仕事をしていると、一匹のハエが僕に纏わりついてきた。それが二匹になり、僕の仕事を邪魔するかのように、本当に何度も追い払っても追い払っても寄ってくる。別に臭いわけではない。そういえば、前にもこんな事があった。忘れもしない。あんなが襲われた時の出来事だ。
僕は、当時の事をフラッシュバックするように『まずい』と反応し、ハエを追い払うことを止め、受け入れることにした。その後、急用を思い出したと見え透いた嘘を工場長に伝え、逃げるように会社を飛び出し、あんなの家に車を飛ばした。
ゾワゾワという不安に押し潰されそうになりながら、車を暴走する僕を導くかのように、10キロ以上もある道のりを一度も信号に捕まる事なく、あんなの家まで辿り着くことができた。
僕はあんなに連絡を入れて無事を確認しようと思ったが、何故か"自宅にはいないような気がする"と第六感が働き、こっちだと車を走らせた。その予感は的中し、2.3キロ離れた道端であんなが酔い潰れていて動けなくなっていたのを発見した。今でも信じられない出来事である。
東京のように大都会ではないが、5大都市には入る地域の道路状況で信号に一度も捕まることもなく、何の手掛かりもないまま、街灯の少ない道端で一人の女性を見つけ、それがあんなだった。第六感か守護霊か神の存在を本気で疑ったが、追い込まれた自分に力を与えてくれたのだと思う。
僕は車を降りて、あんなの所まで歩いていくとあんなは何かに寄りかからないと立てない程、あんなは酔いつぶれていた。
『あんな!あんな!』と何度も呼びかけると、『ゆうちゃん』とようやく僕に気づいていた。
『とりあえず車乗りな』とあんなの手を引き、助手席に乗せ、家まで送る事にした。
あんなの様子は変わらずかなり酔っていて、僕達が別れた事を忘れてるかのように笑顔で僕に接していた。僕は戸惑いながらも話を合わせるかのように話をしていた。
『ゆーちゃんありがと~』
『あんな所で寝てたら、危ないだろ?』
『寝てた?そーだよね。そーいえば、さっき変な車に声かけられたさ』
『ほら!?危ないから。夜遅くなる時は、迎えに行くからいつでも言いな~』
『ありがと~ゆーちゃんほんと優しい!大好き!』
そう言って、あんなは僕に笑顔をくれた。僕は分かりやすく舞い上がり、どさくさに紛れ『俺も!』と言うと、さっきの笑顔が嘘のようにあんなが泣きそうな顔をしていた。丁度良く、あんなの家に到着してしまい、『ありがとね』とあんなは帰っていった。
そんなあんなを見て、あんなも苦しんでいるのだと感じた。そして、その苦しみ与えてるのは紛れもなく僕だった。僕が存在することがあんなを苦しませている。僕はあんなの記憶から完全に消えさる必要性を実感じた出来事だった。
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