第31話 本当の愛とは①
男は女々しく。女は男らしい。
本来男はウジウジと未練がましく考えてしまうので、理想を込めて"男らしく生きなさい"と言われるようになったとどこかで聞いた事がある。正に当時の僕は、未練がましく執着心の塊のような女々しい男であったと思う。
みのるの家に遊びに行ったあの晩から、あんなは僕に気遣ってか東京の話をする事はなくなっていた。さや辺りから、指導が入ったのであろう。あんななりの精一杯の優しさだった。
けれど、僕にはそんな上辺だけの優しさは必要なかったのかもしれない。あんなの想いは嫌でも伝わっていたし、嘘が下手なあんなは切ない表情を合間で見せていた。本当は今すぐにでも東京に行きたいのだろう。
たったの3日しか会っていない男だけど、あんなはその先輩に恋をしていたようだった。デート中、旅行代理店のディズニーランドのパンフレットや東京にまつわる何かを見つめる度に、何気なく笑顔で見つめるあんなを見て、僕は居たたまれない気持ちで一杯になった。僕と別れる覚悟を持って、就職を一人で決めたあんなを一度は引き留めることはできたが、このまま誤魔化すように時を過ごすことが良い訳ないという事だけは理解していた。形だけで繋ぎ止めていても、意味はないのだ。そんな思いを持ちつつ、僕はいつも葛藤していた。
『俺と別れて、夢に向かって頑張ってこい!』
『行くな、俺の側にいてくれ!』
研修から3週間後経った時だった。『また東京に行ってきてもいい?』僕には、あんなが笑顔の悪魔が見えた。僕は、何も言えずに黙り込み、沈黙になった。
『なんで行くの?』
『研修で仲良くなった同期の子と話してたんだけど。研修の時の講師が、前もって言ってくれれば、いつ来てもいいよって言ってくれてるんだよね。今が一番自由だし、今出来ることをやりたいの』と夢を語るようなキラキラした目であんなは僕に言った。
その姿を見て腹を決めた。
『わかった!行ってこい!めぃ一杯気をつけながら、死ぬほど楽しんでこいっ!!』
あんなの事が死ぬ程好きな僕にとって、この状況であんなを東京に送り出す事は、胃が痛くなる程、不安で怖かった。だけど、夢に向かってるあんなはそれ以上に好きだった。好きだから、あんなが笑顔でいてくれる事が僕にとっても一番良いことなのだと言い聞かせて歯をくいしばって発した言葉だった。
『うん、わかった!お土産買ってくるね』
『軽っ』と思わず、ズッコケそうになる程、あんなの返答にまた不安で一杯になった僕がいた。そして、あんなは一週間後、東京に飛び立った。それから3日後、あんなが帰って来る当日の朝、あんなから電話がきた。
『昨日、連絡できなくてごめんね。帰ったら、ゆうちゃんに話したい事あるから、会いたい』
あんなの沈んだ声に僕には言わずとも予想がついた。あんなが東京に行ってる間も、僕達はマメに連絡を取るようしていたが、2日目の夜から連絡が取れなくなった。僕はあんなと連絡が取れない夜、不安という感情が作り出す色々な最悪な事態を想像しては、頭を抱えていた。気づけば朝になり、結局一睡もすることなく、あんなの電話を迎えた。
あんなが言うことは想像できたので、帰ってくる前に、僕自身の結論を出そうと考えたが、結局何も決まらないまま、あんなが自宅へやってきた。そして、あんなはなかなか厳しい土産話を僕に持ち帰ってくれた。
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