第29話 花火大会③
翌日。
この日は皆で花火大会に行く予定をだった。僕は、まだ夜が明ける前の早朝にまさの家を出て、急いで身支度を済ませ、仕事に向かった。皆もそれぞれ仕事があるので、『じゃあまた後で』と言い、朝早くにバラけて、仕事が終わったら随時花火大会会場で落ち合おうという予定をしていた。まさだけは、キャバクラを経営していたこともあり、基本的に日中はフリーな時間を過ごしていた。
寝不足の中、僕は仕事を早く切り上げる事だけを考え、段取りよく終わらせた。仕事を終えるとすぐに仲間と連絡を取り、花火大会の集合場所に向かった。毎度の事だが、混雑する車に埋もれながらも、抜け道を探し、約束の時刻に間に合うことができた。
駐車スペースはいつも以上に車で一杯だったが、じゅんやが愛車のシーマの前で『先約があるから、他停めて』と他の方からすると迷惑極まりない交通誘導をしていたので、僕はすんなり駐車することができた。僕のすぐ後にてつのセルシオ、みのるのセンチュリーも到着した。
残るは、まさを待つだけだったが『まさ、連絡つかないんだよね』と同じセルシオオーナーのてつが言っていた。僕も気になってまさに電話をしてみたが、出ることなく留守番電話になり、僕は嫌な予感がした。
『俺らは狙われている』
昨日まさが言っていた言葉が頭をよぎった。時間にうるさいまさが集合時間を過ぎても、何も音沙汰がないので、あきらかにおかしいと心配した。いよいよ花火にも間に合わない時間になってしまったので、不安を顔には出さずに女連れのみのるとてつに先に行ってもらうよう話をして、僕達は『後で追い付くわ』と笑顔でみのる達を送り出した。
みのる達が去った後『じゅんや、まさの家いくぞ』と気持ちを切り替え、直ぐにじゅんやの車に乗り込み、まさの家に向かった。約20分程かけ、まさの家に狙われていて到着したが、僕は目の前の惨劇に言葉を失った。
『!?』
まさが大切にしていたセルシオが無惨な姿に変わり果てていた。イタズラレベルの損傷ではなく、明らかにねらわれての仕業であった。目的があって壊されたということが見て取れた。サイドミラーが垂れ下がっていて、フロントバンパーの破片は飛び散り、フロントガラスはクモの巣状に割れている。
僕達は急いで車を降り、走ってまさの部屋へ向かった。『ガチャガチャ』と玄関ドアのドアノブを回すと、ドアが開き僕とじゅんやは顔を合わせた。『入るぞ』僕達は恐る恐るまさの部屋の中に入ったが、部屋の中は静まりかえっていて、争ったような形跡はなかった。
『兄ぃ』
『あ!?急にでかい声出すなや!』
『これ』
じゅんやは、まさの携帯を手にしていた。
『拐われたな』
『マジっすか!?誰に?』
『わかんねーよ!わかってたら、こんな所に突っ立ってねーわ!とりあえずよぅ、まさの兄貴に連絡してみるから、お前は車の周りに手がかり探してきてくれ』
『わかりました』
僕はすぐにまさの兄貴に電話したが、電話には出てはくれず、じゅんやも手掛かりになるような物を探すことはできずに僕達は途方に暮れていた。下手に心配を煽るだけと周りの人間にも伝える事なく、僕達はまさの家の前で待つ事しかできなかった。まさを待ってる間、花火の途中でみのる達から電話が来たが、適当な理由をつけ、合流できない事を伝えた。
何の進展もない状況に見かねて、僕は『2人で待ってたってしゃーねーんだから、帰れ。何かわかったら連絡するからよ』とじゅんやに言ったが、じゅんやも頑なに動こうとしなかった。
『お前、いくら待ってても、俺のケツは貸さねーぞ!』と冗談を言うと『えっそーなんですか?じゃあ帰ろっかな』とじゅんやが冗談で返した。
『おうっ帰れ!帰れ!』
『そんな事言わず、2人でイチャイチャしましょうよ』
『ばーか!俺はあんな専用車両だからよ。お前はそこら辺のゴリゴリのマッチョでも相手しとれや』
『ゴリゴリマッチョより細マッチョがいいな~ジョリジョリマッチョもいいな~』
などと、僕達はくだらないやりとりをし始めていた。
マコトともそうだが、僕達は緊迫しなきゃいけない時は、いつもくだらない事を言う癖があった。それは今考えると、僕達流の励まし合いであった。下らない雑談をしていると、一台の見覚えのあるセンチュリーがやって来た。みのるだ。みのるは車から降りてきて『まさくん何かあったんすか?』と凄い形相で僕達に問いかけた。みのるにこれまでの経緯を説明して、みのるも僕達と一緒に待つ事となった。
夜も更け、深夜1時を過ぎたので、さすがにこれ以上待っててもしょうがないと思い、お互い何かわかったら、連絡し合うことを約束して、僕達は解散した。その時に足がないことに気づいた。僕は自分の車を花火会場に放置したままだったことを思いだした。
『あ、すいません。言おうとしてたけど僕も忘れてました』とみのるが言った。急いで、まさの家から駐車場まで向かったが、最悪な事にレッカーされた後だった。
結局、車をレッカーした警察署まで送ってもらい、家路に着いたのは午前3時を越えていて、僕は連日の疲れと共に泥のように眠りについた。
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