第28話 花火大会②
あんなと花火大会に行った翌週の土曜日。
僕達は久しぶりにチームの活動を再開した。セルシオ狩りが始まり、僕達は比山さんやまさの兄貴に釘を刺されていたこともあるが、あんなや金田との一件以外にもゴタゴタが続いていた為にチーム全体の活動としては、集まる機会を失っていた。
『久々に集まりましょうよ』『走ろうぜ』などという声もあったので、『久しぶりに走ろうぜ』と集合をかけたが、この日集まったのはたったの5人程だった。
誰が見ても、チームの弱体化が見てすぐわかった。
頭のマコトが当日不在ということもあるが、幹部である僕達が個人的な問題を抱えていることが一番の要因であった。
他のメンバーも、初めは僕達が色々と忙しくしているので、しょうがないと許容してくれていた。他のチームが活動を開始してる中で『まだ早い』と動き出しが遅く、皆の気持ちを蔑ろにしていたことで皆の信頼を失いつつあった。中には他のチームの集まりに参加している人間もいて、解散という噂も立ち始めていた。
他のチームには、不良をやりながらチームをやっている人間もいて、セルシオ狩りを名目に不良の看板を出し、襲撃をかけてくるという事もあった。幹部としては、そういう懸念材料も活動を先延ばしにしていた原因があったが、それを理解してくれる人間は少なかった。
『お前達が作ったんだろ。最後までケツ持てよ』と、もし僕が逆の立場なら言ってたと思う。僕は、色々と動き回ってる割には、成果が出ず、何もかもが中途半端になってる現状に嫌気がさしていた。そろそろ引退をして、二代目のみのるやじゅんや達に任せた方が良いのかもしれないと思ったが、世間はそんなに甘くない事を思い知らしてくれた。
花火大会最終日前日、まさが襲われた。
まさが繁華街を徘徊していた時に、不良風の格好をした二人組に襲われたとじゅんやから連絡があった。まさは歩いている所に、後ろから首を殴られ、倒れた所に数発の蹴りを食らった。倒れながら、スラックスにニットのセーターと不良スタイルの男達が走り去って行くのを見たらしい。怪我の容態は、咄嗟に体を固めてガードしていたので、心配ないようだ。
僕はじゅんやから連絡が来て、みのる達がまさの家に集合するということなので、僕達も向かうことにした。皆より少し遅れてまさの家に到着したが、部屋の外から聞こえる賑やかな声に少し安心した。チャイムも鳴らさず『お疲れ』と入って行くと『おせーよお前』とまさが明るく迎えてくれた。"心配するな"ということだろう。
『なんだよ、元気そうだな。せっかく励ましに来てやったのによ』
『お前から励まされる方が凹むわ』
『そうだべ。だから、来たんだよ』と僕達は後輩達の手前、強がりを言い合っていた。僕達はソファーに座り込み、まさが被害状況を冗談を交えて話をしていて、皆笑っていて穏やかな空気が流れた。一人の男を除いては。いつでも喧嘩上等のみのるだけは、一切笑みを浮かべず真剣な顔していた。
『まさくん、返しに行かないんすか?なんなら、今からそいつら探しに行きますよ』と皆へ一喝するという意味も含めてだろう。今すぐにでも暴れだしそうな目つきしていた。そんなみのるを見て、皆一瞬でピリつき緊張が走っていた。
『みのる、いんだよ。これは俺の喧嘩だからよ』とまさがなだめるように言ったが『いや、副総長のまささんが動くなら俺も動きますよ』と一歩も引かずに答えた。
『みのる、まさには考えがあんだよ。今はセルシオ狩りもあちこちで聞くしよ。下手に動けば、マコトまでケツが行くことになるんだから、まずはまさの言う通りにしとけよ』と僕が仲介に入った。
『喧嘩する時は言うからよ。その時まで力溜めといてくれや。けど、みのるありがとな』
『いえ、すいません。けど、いつでも行けるんで言って下さい』とみのるが頭を下げた。
みのるは、昔のマコトにどこか似ていて、そんなみのるを見ると僕は少し嬉しく思った。まさも恐らく同じ事を思っていたと思う。『まぁ飲むべ!』とじゅんやが酒を開け、『お前は飲みてーだけだろ』と突っ込みが入り、皆で乾杯をした。みのるもいつもの強烈な屁で存在感を表し、じゅんやも大酒を飲み、かなり酔っ払っていた。会の終いには、じゅんやは全裸でまさのベットで大の字で寝ていた。
色々なトラブル事を抱えていた僕達だったが、こうやって仲間とバカ騒ぎしている時だけは、色々な物から解放されるような気がした。皆が酔っぱらってウトウトし出してきたので、僕も、一服してから寝ようとベランダに出るとまさも一緒に外に出てきた。
『ほんとじゅんやはアホだよな』と僕がまさの方に笑みをやると、まさはさっき表情とは打って変わり真剣な表情で煙草に火をつけた。
『今日、俺をやった奴ら・・比山さんのところに出入りしている奴だったわ』
僕は驚いて何も言えずにいた所にまさが続けた。
『多分、俺ら狙われてるんじゃねーか。マコトとも話したけど、あの人なに考えてるかわかんねーし、俺らこのままだとヤバいかもな』
『まさの兄貴はなんて言ってんの?』
『うちの兄貴は、確証もないのに滅多なこと言うなって言ってたわ。兄弟分って言っても、五分じゃねーから、やりづらいんじゃねーか』
『けど、俺らを狙う理由なんてあるか?』
『・・ある。俺とマコトで金子を嵌めたんだわ』
以前まさとマコトが、金田から金を引っ張ったことまさから聞かされた。まさは、マコトが加藤との一件で比山さんに詰められ、タダ働きを強いられてる状況を何とかしようと動いていた。まさの店の女の子を使い、不良は警察に駆け込めないことを良いことに、金田を騙し金を引っ張った。
僕は、マコトに対し何も手助けできなかったので、まさに詫びをいれた。まさは『いんだよ。けど、また奴ら仕掛けてくるかもしれねーからよ、ゆうじはあんなちゃんの事守ってやれ。そういえば、あんなちゃん最近どおさ?』
僕が自分を変え、環境を変えようとしている事をまさやマコトは温かく受け入れてくれていた。
『いつも面倒かけて悪い。あんなとは、何とかこんとかって感じだわ』とまさに一週間前のあんなとの一連の流れを説明した。
『そうか。まぁ別れがあるから、出逢いがあるんだからよ』とまさが言うので、『いや、まだ別れてねーから』と突っ込むとまさは、笑みを浮かべていた。
この時、僕はまさの言う本当の意味をわからずにいた。そして、翌日まさの予言通り、まさは入院する程の大怪我を負ってしまった。
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