第27話 花火大会①
夏の風物詩と言えば、夏祭りや海水浴、ビアガーデンなど色々な楽しいイベントが目白押しだが、花火大会も一大イベントの一つである。
僕達の地元の花火大会は、約3000発の花火を三週に渡って計9000発が打ち上がる特大イベントだった。花火大会ともなれば、繁華街では出店が出たり、浴衣を着た男女が夜中まで飲み明かしたり、とにかく人でごった返していた。僕達も不良少年の時は、必ず花火大会に出刃っていき、時には喧嘩したり、大騒ぎをして怒られたり、補導されたりと賑やかな思い出が盛り沢山だった。
花火大会と聞くと、"感情よりも血が反応する"というような感覚が二十歳を越えていた当時でもまだあった。僕はいつからか彼女と花火大会に行く時は、花火大会の後、隣接している公園にある溜め池のボートに乗る事を定番としていて、一年前は浴衣を着たあんなとハシャギながら夏を満喫していた。
『今年も仲間達と予定を合わせていこう』という話を
あんなにしたが、『今年は2人で行きたい』とあんなに冷静に言われ、僕は違和感を感じていた。毎年の恒例行事ということで、仲間達とも行かなければならないので、1週目にあんなと約束をして、3週目にマコトやまさ達と行く事になった。
花火大会当日。僕は花火大会にいち早く行きたいと思い、仕事を超高速で仕上げ、あんなの自宅に迎えに行った。あんなを迎えに行くと浴衣を着ていなく、私服のまま登場するあんなを見て、僕は少し戸惑っていた。
『お疲れ!浴衣着なかったの?』
『うん、時間なかったから』
『まだ間に合うから、着替えてきてもいいよ』
『いや、、渋滞するから大丈夫だよ』
"こっちが大丈夫じゃないんじゃい"と鼻の下を伸ばしながら言いたかったのだが、僕はあんなのどこか心ここにあらずという空気感に不安を覚え、明るく『そうだな』と答え、車を走らせた。会場までの道は、あんなの言う通り、車、車、車と大渋滞。抜け道を探して回っては渋滞で足止めを食らっていた。車中では、あんなの口数が少なかったが、壮大な花火を見たら気も晴れるだろうと深くは考えなかった。とりあえず、時間までに間に合わせたいと、縦列する車を強引に切り抜け、何とか開始前に辿り着くことができた。
車をコインパーキングに停め、僕達は河川敷まで歩いていくことにした。しかし、どこをみても人で溢れかえり、少し目を離すとはぐれてしまいそうになるので、河川敷まであんなの手を引いていった。周囲が花火の打ち上げを待ちながら、今か今かと花火が上がるのを待ちわびている様子だった。こちらでは学生のカップルが頬赤らめ緊張した空気でいたり、あちらでは若者が酒を片手に騒いでいたり、子供がお母さんの横で目を丸くして花火を待っていたり。様々な人達が夏の思い出を作りにきていた。
肝心な僕達は、冬の凍てつくような重たい空気を纏いながら、花火の打ち上げを待ちわびていた。
『何か飲み物買ってくるか?』
『大丈夫だよ。ありがとう』
『今日ボート混んでるかな?去年はわやだったよな』
『うん』
あんなは、僕の方を見ず、終始うつむき加減で答えていた。
『バンッバンッ』
いよいよ、花火大会が開始された。ド派手な花火が打ち上がり『うぉーすげー!いやーやっぱ夏だなー!なー?』と僕は無理にでも気持ちを盛り上げようとしていたが、あんなの表情は曇ったままだった。僕が元気に振る舞えば振る舞うほど、あんなとの気持ちのギャップが開いていくようだった。花火は楽しい時に見るものだなと初めて思った。周りの人達の楽しそうな声が妙に耳につき、僕達だけが楽しめていないことが強調されているように思えた。
"今年はボートにも乗れないな"そう思いつつ、しかし何故、花火大会まで来て、こんな思いをしなければならないのだろう。僕は少しずつあんなに対する不満が沸々と込み上げてきた。"どちらにしろ、これ以上ここにいてもしょうがないな"と思い、僕は花火の途中で『もう帰るべ』と立ち上がった。
『あたし東京に行くね』
『!?』
あんなの突然の言葉に驚き、あんなの方へ目をやるとあんなは僕の目を真っ直ぐ見て『東京に行ってくるね』と言った。あんなは、僕の知らぬ間に東京にある企業に就職を決めていた。あんなの浮かない顔の原因は理解できたが、僕はそれ以上に驚きとショックで固まっていた。
東京で暮らすという事。それよりも、東京行きを僕に相談せずに決めたという事。この後の話が、おおよそ予想がついてしまった。
いつも以心伝心と思っていた。僕はいつもあんなの事を思い、あんなはいつも僕の事を考えている。いつの間にか僕は、あんなが何を考えているのかがわからなくなっていた。僕達は、花火が打ち上げる中、まだ客のいないガラガラのボート場に向かい、人混みを避けるようにボートの上で対面していた。
『おめでとう。就職決まったんだな。良かった良かった』
『ごめんね。言わなくて』
『謝んなって。夢の為にめちゃくちゃ頑張ってたんだから、その結果が出たんじゃん。あんなは本当に頑張ったよ。それは俺が一番良くわかってっから。本当に良かった』
あんなは浮かない表情のまま、僕は笑っていた。
『だけど、それを俺に言わないって事は何てんだろ、、あんなにも考えがあるって事だよね?』
『、、、』
『わりぃ。それは、俺賛成できないわ』
僕は"別れ"という言葉を避け話をしていた。一度口にしてしまうと後戻りができないような全てが気がして、怖かった。
『例え離れていても、お互いが夢に向かっていれば、大丈夫だよ。もし、何かあったら飛んでいくし、何があっても二人なら笑い話にできると思う。俺はここまで人を好きになることは、もう二度とない位好きなんだ』
あんなに何も言わせずに、僕は焦ったように言葉を繋ぎ合わせていた。普段は硬派を気取っている癖に、他人に聞かれたくないような愛の台詞を僕は恥ずかしげもなく、汗をかきながら必死に訴えていた。格好つけている余裕はなかった。
言葉には出したことはないが、あんななしでは生きていけないと本気で思ってた。恐らく僕は、一歩間違えればストーカーに変わる程に、一途にあんなが好きだったと思う。
まくし立てて話す言葉をあんなは、一つ一つ拾い集めるように聞いてくれていた。あんなに思いが伝わったのか、単に情に流されたのか定かではないがボートを降りる頃には、"二人で励まし合って頑張っていこう"と話を終結し、その日を終えることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます