第24話 金田③

 カナイというヤンキー御用達メーカーの白のセットアップを身に纏った、まだ幼さが残る少年。恐らく歳は15~6才であろう。少年は緊張した面持ちで、金田に何度も頭を下げ挨拶をしていた。少年は金田に近づき、持っているリュックの中身を金田に見せ、小声で何やら話をしていた。


"完全に何かあるな"と思いつつも、僕達は金田の指示を待った。金田が僕達に目を向け、指でこっちにこいと合図した。僕は少し構えながらも、金田の元へ近寄っていくと、金田が少し遠くを指差した。

『あそこのアパートに一人暮らしの女いるからよ。今から乗り込んで、犯しにいくぞ』と少し笑いながら言った。言葉にならなかった。


 くず野郎とはこういう男を言うのであろう。僕は全身に血が回るような怒りを押し殺し『それは勘弁して下さい』と呆れたように言った。あんなの一件があった僕によくそんな事を言ったものだ。知らなかったとはいえ、目の前の男を今すぐ殴り倒したいと思った。

 金田は僕の態度に反応するように怒り出したが、僕も引かずに反抗し、お互い掴み合いになり一触即発となった。直ぐにマコトが僕達の間に割って入り、金田を宥めるような仕草をした。

『社長、ゆうじはこう見えて正義感あるんですよ。それにせっかく会社も立ち上がったんだから、今パクられたら洒落にならんすよ』

『正義感とかじゃねーわ!何が正義感だコラッ!当たり前の話してんだろ?くそくだらねー話してんなこの野郎!』と、僕は今度はマコトに感情剥き出しで掴みかかった。


 マコトは『なんだこの野郎!テメーの為に言ってやってんだぞコラッ』と掴み返してきた。『テメーら誰の前で揉めてんだコラッ』と金田が言うので、『うるせー』と僕はマコトを振り払い、『テメーら勝手にやっとけタコがー!』と住宅街に響き渡る声で言った。

 その声に反応するように、辺りの住宅の窓が開き、恐る恐るこちらを見ている様子が感じとれた。『くそがー!』住民を尻目に僕は大声を撒き散らし、その場を去った。


 数時間後マコトからの着信があった。

『おう!上手くいった?』

『おう!なんとかな。あの後、金田も黙り込んじゃってよ。お巡りもくるかもしんねーから、お前ら散れって話で解散したわ』

『そっか!良かったな』

 僕達は金田を欺く為にアカデミー賞級の名演技をうっていた。話を巻き戻すと僕達は、金田が住宅街を歩き始めた時から、目で合図を送り合い打合わせをしていた。車を盗めといった時のマコトのよくわからないフォローや襲いにいくぞといったフォローは、全て僕に対しての合図であった。僕達は、チームを始めてからヤクザから言われる無理難題を二人の演技で、その場を乗り越えることがあった。毎度、予め打ち合わせをしている訳ではないが、感覚的に『あっこいつ、今仕掛けてきてるな』というのがわかるので、それに乗っかり、終着点を探すといった感じである。

 これは、小学一年からつるんできた歴史があるからこそわかる感覚であり、一年二年付き合っている人間にはできない僕とマコトとの芸当だった。正に腐れ縁である。


『そっか!しかし、あいつらとんでもねー奴らだな。あのカナイ着たガキもやらされてる感満載だったけど』

『そーだな。異様に金田にビビってるようだしよ。

だけど、ゆうじも気を付けた方いーぞ。『詫び入れにこいって言っとけ』ってブチギレてたからよ』

『行かねーし、もう関わんねーよ。私はこれでドロンします。マコトもあんまり深みにハマる前に抜けた方いーぞ。あんな金田なんかに尻尾振ったってくそにもならんべ』

『まぁな。俺は店の軍資金の為だからよ。稼げるだけ稼いで、高飛びしてそっちで商売やるわ。当てはあるんだわ。比山さんにだけは迷惑かけないように筋は通すけどな』

『ならいいけど。とりあえず金子には俺と連絡とれないとか何とか言っといてくれ。いつも面倒かけて悪いなーマコト』

『ほんとだわ、まぁそれが頭の仕事だからよ』


電話を切り、『シャバ憎が、なめんなよ』と僕は一仕事終えた達成感に満たされ床についた。この時はまだ、金田の恐ろしさを知るよしもなかった。僕達は少しずつ闇に足を引っ張られるように激動の渦に飲まれていった。

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