第23話 金田②

『やっとこさ、車屋っぽくなったよな』

『いやー長かったわ。これで俺の肩の荷が下りるわ』


 工場には、びっしりと金融系の車が並び、曲がりなりにも一通りの工具や機械が揃った。それを眺めながら、僕とマコトは達成感に浸るように雑談をしていると金田が登場した。

『今日はよ、この辺で仕事止めて、飲みに行くぞ。挨拶がてら兄貴の所行くからよ』と金田が開業祝いに飲みに連れていってくれることとなった。皆、横一線で『はい、有難うございます』と答える従業員を見て、ヤクザだなと思った。"俺も行かないといけないのか?"と面倒に思い、マコトにコソッと聞くと『ゆうじも色々やってくれたんだから、来ていいだろ。こいよ』

"正直な所、これ以上は勝手にやってくれ。もう関り合いたくない“『いや、俺はいいよ』とやんわり断ると、『社長!ゆうじも来ていいですよね?』とマコトが要らぬ気を回した。金田は『おう、いいぞ、お前ももうウチのもんだろ』と言われ、結局僕も飲み会に参加することになってしまった。愚痴に一つでも溢そうと、飲み会の時間まであんなに連絡をすると『楽しんできな』と言われ、僕は渋々準備を整え、比山さんの店に向かった。


 完全に気乗りしていなかった僕だったが、久しぶりのキャバクラに浮き足立ち、単純な僕は、気づけば進んで延長を申し出る程盛り上がっていた。宴もたけなわであったが、金田が『そろそろ行くぞ』ということで、比山さんに挨拶をして僕が帰ろうすると、マコトに引き止められてしまった。マコトは、今夜は工場長として金田のお供を約束されており、僕にも『来て欲しい』としつこく誘ってきた。

 結局、僕も二次会に参加する事となったが、残ったメンバーは僕とマコト、金田の三人とよくわからないメンバーで飲む事になった。


 どこに行くのかと聞くと、金田が『俺の店にも顔出せ』と言うので繁華街を三人で歩き始めた。金田が先頭を歩き、僕達が後ろにくっつくように歩く姿は、周りには如何にも取り巻きに映っていただろう。繁華街を少し抜けると金田が口を開いた。

『お前ら兄貴に、拾って貰って良かったな!俺もあの人に拾われて、この世界入ったんだわ。俺よぉ若い時、ムチャクチャ手つけれなかったんだわ』

"俺は、拾っても貰われたつもりもなく、単なる付き添いです"と否定したかったが何も言えず、『とりあえずまだ歩くの?』とだけ思った。酒が入り、いつも以上に口数が多い金田は、ベタな武勇伝を繁華街で肩で風を切りながら語っていた。『くだらねぇ。』自分で語る悪自慢ほどカッコ悪いものはない。極道である以上、虚勢を張って生きていかなければならないのはわかるが、もう少し魅せ方というものがある。安っぽいメッキ程、ギラギラと主張して魅せているのである。


 ヤクザだ、極道だと言っても全員が昔から強くて、悪が行き過ぎて不良の道を歩むという訳ではない。昔の人達はわからないが。学生時代虐められていた人間や動機もなく流され、気づけば不良をやっていたという人間も多くいる。少なくとも、僕の周りの人間で不良になった人間は、あまりパッとしない青春時代を過ごしていた多かった。それでも、厳しい渡世の中で不良を貫く人間は凄い根性だと思うが、それなら一般社会でその根性を発揮すればいいのでは?と昔から思っていた。


 金田とやり取りする中で、本物か偽物かを見極めていたが、観察すればする程、後者であることを僕は確信していた。とは言っても、カタギがヤクザに決して生半可な事は言ってはいけない。ヤクザは、面子を最も大事にするので、仲良く話をする関係でも、少し調子に乗って軽んじた発言をした瞬間、『顔に泥塗った。顔を潰した』とかなり面倒なことになってしまう。そこは気をつけなければならない。とは言っても令和のこの時代に一般的な生活をしていれば、ヤクザと接することはないに等しいだろう。


 僕達は金田の武勇伝に適当に相槌を打ちながら、話を右から左へと受け流していた。すると、金田がそれを察知したのか、単に僕が気にくわないのか、突然僕に「ゆうじぃ今からあの車盗んでこい!」と凄んでみせた。僕は『いや、あーあれ盗難ついてますよ』と適当に断ると、金田は『そんなもん関係ねー!俺が行けっつったら、行けコラッ』と僕を軽く小突いた。するとマコトが『社長!車屋が車盗んだら、格好つかないっすよ』とよくわからない助け舟を出してくれた。


 それに対し、金田は『そーだな、まぁあんな車興味ねーけどな。それよりお前ら、女好きか?』と話を切り替えた。『何だ、この野郎』といきり立つ僕をマコトがなだめながら『はい』と答えた。

『じゃあ、いー所連れてってやっからよ』と意味深な言い方をした後、どこかに電話かけ始め、方向を変えて歩き出した。渋々、僕達も金田の後に続くことにした。金田は、どこに行くとも言わず、人通りの少ない通りを、現在の不良事情を話ながらドンドン進んだ。”何かおかしい”マコトと二人顔を合わせながら探り合いながら、住宅街を数キロ歩き続けた。軽いウォーキングである。気づけば、街の喧騒が消え、車通りもなく、街頭も少ない道を歩いていた。すると、住宅の暗がりに一人の少年が立っているのが見えた。

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