第21話 小さな光③

数日後、あんなと二人で海に行った。

海は、まだ海開きをしていなかったが、チラホラ人がいた。犯人を一人捕まえた後で、あんなの気持ちの変化や僕の思いなど、少し話ができたらいいなと思っていた。海に到着すると、あんなが『色々あったけど、今日は普通に遊びたい』と言った。『そうだな』と笑顔で答えると、あんなは嬉しそうに笑顔をみせた。

久しぶりにあんなの本当の笑顔を見た気がした。


 そんな笑顔を見ると、僕も嬉しくなり、あんなを楽しませようと、まだ海開きをしてない海にパンツで飛び込んだ。海から上がってくる時に、パンツをケツに食い込ませ、Tバックのようにしてみせると、あんながとても笑ってくれて、それを見ると何故か涙が出そうになった。僕達は久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。


 その夜。僕はチームの仲間を集めた。『今からぶっこみだから、よろしく』僕はあんなには黙って、仲間達と配達員の家に掛け合いに行くことにした。

 全員が個々の車を出し、ここぞと言わんばかりに爆音で乗り付け、マンションの駐車場の入り口を塞ぐように車を停車した。皆が車から降り、マンションの出入口に向かうと豪華なエントランスが僕達を迎えた。一人の完全オートロック完備の高級分譲マンション。最上階。


 一般的に50歳と言えば、働き盛りの40代から少し落ち着いて物事が見れたり、社会的地位を手に入れたりとしていても不思議ではない年齢である。50歳になっても嫁の力で生活。自分も何かやらないとと新聞配達のアルバイト。年頃の娘がいるらしいが、父親の威厳どころが家庭に居場所もないであろう。


 自分自身も社会的には弱者であるので、そんな背景を想像してしまうと気が引ける所もあるが、これで終わらすわけにはいかないのである。他の住人の後ろにくっつき、オートロックをクリアし、僕達は全員で部屋の前まで行った。

 僕達はチャイムを連打して呼び出したり、周り近所に聞こえる大きな声で怒号を飛ばしたりと、かなりタチの悪い振る舞いをした。

 部屋に招き入れるしかないと僕だけが部屋に通されたが、居間のテーブルに足をかけ、出されたお茶を蹴飛ばして何度も何度も恫喝を繰り返した。


『二度とあんなの家半径2キロ圏内に入んなよ!もし、俺や俺の周りの人間が見つけた瞬間に拐うからな!』


 集団ストーカーを疑っていた僕は、パソコンの中身を確認させた。特に証拠になるものはなく、嫁いわく配達員も僕と同じくパソコンに関して、全く知識がないということなので、可能性は低かった。配達員は、妻に毎日のように小言を言われ、娘には冷たく扱われる毎日を過ごしていた。家庭で居場所がない中、悶々とした気持ちで夕刊を配達していた時に、あんなに挨拶され、次第に好きになったという話を気まずそうに妻の前で語っていた。


『馬鹿だな。被害者ぶってるけど、一被害者はこっちなんだよ!保身のためにテメーの嫁や娘も裏切りやがって!お前にとってはただのストレス解消なんかしらんけど、それがエスカレートしたりよ、やられた方は気持ち悪いだけなんだよ!

お前の娘も思ってるって、オヤジきもいって笑

こっちは発砲事件だなんだで、ケツに火ついてる状態なんだからよ、間違って手伸ばしやがったら、指ごとふっ飛ばすぞ、コラッ!

指飛ばして歯抜いて出家しろタコッ!』


 最後は嫁も一緒に土下座し、約30万の慰謝料を貰った。その代わりに今回の事で、これ以上は家や会社に何もしないよう嫁に頼まれた。僕は部屋を出て、皆に見せびらかすように慰謝料を見せ『飲みに行くべ』と言った。皆は一喜一憂した。その後、全員の飲み代を奢り、帰りに一人一万ずつ渡した。残りの金は、コンビニのエロ本を買い占め、配達員の家の郵便ポストやマンションの出入り口にエロ本を差し入れした。


 結局、数時間で約束を破ってしまったが、そもそも酒は飲んだが、約束を飲んではいない。何かに怯えながら暮らす生活を少しでも体験すればいい。そうしたら、僕達の気持ちも少しは分かるだろう。そう思っていた。

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