第15話 発砲事件
2004年 春
少しずつ気温が上がり、あれだけ積みあげられていた歩道の雪の塊も小さくなり、アスファルトの匂いを嗅ぐと春を感じる。やっと僕達の季節がやってきた。
雪を溶かす為に道路に撒かれる塩カルを洗車で落とし、スタッドレスから夏用大径ホイルに履き替え、エアロを組みつけて、車を完全体に戻す。
その愛車を眺めると、どんな嫌なことも吹き飛ぶ位に気持ちが高ぶる。
そんなある土曜の夜、久しぶりにチーム全員集合礼がかかった。僕は冬の間、仲間の誘いをことごとく断り、国家資格の勉強に励んでいた。
仲間達もそんな僕に気を遣ってくれて、しつこく誘ってくることもなければ、後半は殆ど連絡も来なくなっていた。
勿論、あんなとは毎日のように会っていたがデートの内容も図書館や大型書店のフリースペースなどに教材とノートを持ち込み、学生に混じって勉強をしたりしていた。
そんな中、久しぶりにマコトから連絡が来た。
『走ろうぜ!』
正直勉強に疲れていたし、ストレスも感じていたので、僕は飛び上がるように即答した。
あんなにも声かけ、あんなを乗せて向かった。いつものテリトリーに行くと、久しぶりに会う皆の顔を見て、自然と笑顔が溢れた。
僕達が車から降りて『お疲れ!』と言うと皆が笑顔で迎えてくれた。しばらく僕の都合で蔑ろにしていて、少し不安な気持ちもあったが、皆に会い仲間の素晴らしさ知った。
この日は、あんなもストレス解消するかのように大暴れしていた。
皆の支えや何よりあんなのおかげで、僕は無事二級整備士の資格を取得することができた。会社では、アホ扱いされていた僕だったが、努力が認められつつあった。
そんなある日、比山さんから電話がきた。
『お前ら、先週の土曜何してた?』
『ご苦労様です。先週は俺ら集会やってました。俺は用事あったので、少し顔出して、先に帰りましたけど』
『そうか。先週よー、発砲事件起きたんだわ。極道相手にカタギがチャカ向けてよ。やったのは、VIPの連中だって話なんだよな。お前ら関係ねえよな?』
「発砲事件?マジっすか!?俺らそんなんじゃないです。アホだけど、そこまでアホじゃないっす」
『ほんとだろうな?まぁとりあえずウチの情報では、黒のセルシオだって話だからよ、大丈夫だとは思ったんだけどよ。ウチにも上からお達しがきて、今若い衆に動かさせてるからよ。お前らも、チョロチョロしてたら、拐われるぞ』
僕達のチームでは、まさとてつが白のセルシオに乗ってた。
『わかりました。大人しくしています。わざわざお電話有難うございます!』
電話を切り、『発砲事件かよ、、』僕はすぐさまマコトに電話して伝えた。マコトには、既に情報が回っており、『まさ曰く、今回ばかりは、本職も躍起になってるみたいだからよ、とりあえず集会はしばらく中止だな』と言い電話をきった。
『○○のセルシオやられたらしいよ』『不良に囲まれて車もろともボコボコにされたらしいぞ』など、比山さんから連絡が来て程なくして、そんな話を仲間から聞かされることが多くなった。
"これは、いよいよヤバいな"と思いつつも、心境が変わりつつあった僕には、これを機に引退もいいなと呑気に考えていた。
"引退して、三年振りに親に会いに行き、和解し、あんなにプロポーズをして"と僕は柄にもなく、あんなと幸せになるための人生設計を立て、慎重に生き始めていた。
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