第14話 新年

2004年1月。

新たな年を迎えた。


 年明け早々、僕は僕達のチームのケツモチをやってもらってる比山さんの家にいた。年末に『今年も比山さんの家に顔出し行かなきゃならないけど、大丈夫か?』とまさから連絡がきていた。

 まさの兄貴は不良をやっていて、比山さんはまさの兄貴の兄貴分だった。


 基本的には、まさの兄貴がケツモチなのだが、話が拗れた際は、S組の若頭比山さんが出張ってくれていたので、毎年1月2日にまさ、マコト、僕がチームを代表して、挨拶に行っていた。


 僕の心情としては、"もうヤクザとは絡みたくない。全うに生きたい"と思っていたが、そんな都合良くはいかない。普段から、そういった"対やくざの話"はまさに全て任せっきりだったので、まさには申し訳ない気持ちがあり、断ることはできずにいた。

 僕がどんなに気持ちを改心しようと、今まで自分がしてきた事を"ゲームのスイッチを切るように"、無かったことにすることは容易くない。


 僕達は比山さん宅に着き、構成員に一人ずつ、足を止め『おめでとうございます!ご苦労様です!』と挨拶をしていた。

 比山さんに会い、両手を膝につけ『おめでとうございます!昨年はお世話になりました!今年も宜しくお願いします!』と頭を下げた。まるで構成員である。


『おう。よく来たな。今、若い衆に雪かきやらせてるからよ、お前らもちょっと手伝ってこい』

僕達は若い衆に混じり、雪かきをさせられた。


 早く終わらせ、すぐにでも帰りたい一心で一生懸命雪かきをしていると『さすが、若いから馬力あるな』とパンチパーマの男に話かけられた。その人は学さん。僕達の二つ年上で地元も近いということで元々、顔見知りだった。中学でも小悪党という感じで、僕達の中では、『学』と呼び捨てで呼んでいた。


『そんな事ないですよ』と言いながら、"お前とは身体の出来が違うからね"と心の中で思っていた。

『お前らもウチ入れよ。初めは難儀するけどよ、兄貴みたいに金も女も手に入るんだぜ』


 聞き飽きた台詞だった。確かに当時はまだ暴対法の警察による不良の締めつけは、今よりはきつくはなく、若い衆を引き連れて、繁華街を肩で風を切って歩くような不良達も多くいて、それに対して少し憧れの気持ちを持っていた事もあった。


 しかし、実際は理不尽な事で小突かれ、親分の機嫌が悪い時は、血まみれになるほど、木刀で殴られる。ろくでもないシノギを掴まされると刑務所に服役することになるし、正に修行の日々である。

 全てがそのような組ではないのだろうが、僕の知っている先輩達は殆ど耐えきれず、言い訳だけを残し飛ぶように不良の世界から逃げ出す人間が殆どだった。


 学と話をしていると、他の組員も学の話に乗っかり、僕に甘い話を仕掛けてきた。絶妙に兄貴の比山さんを絡めてくるので、変に否定もできず、頭を抱えたくなった。


『だから来たくねんだよ!』と心の声が溢れそうになると『ゆうじぃお前いつウチに入るのよ?親父に話しといてやるぞ』と比山さんが登場した。

『いや、自分根性ないんで、務まらないと思います。それじゃあ失礼します!』

いつもの僕と比山さんのやりとりである。いつも僕が困った時に助け舟を出してくれていた。


 ヤクザモードの比山さんは、ワイルドすぎてあまり関わり合いたくないが、普段は"弱気を助け、強きを挫く"ような任侠ヤクザであり、とても義理人情がある人であった。


そして、この先に僕の命の恩人になる人でもあった。


 僕達は無事解放され、帰り際に周囲に挨拶をして、楚々くさと帰ろうと車まで戻る時だった。アルマーニのダブルのスーツを着た一人の男が微笑むのプレジデントを眺めているのが見えた。僕達は組関係の人間だと思い、三人顔を合わせ挨拶をした。


 その男は、僕達の挨拶に返事をすることなく、こちらを振り向き、僕を見ながら『ツカツカ』と歩いてきた。

 身長は180cm位あるだろうか。細身の身体に長髪を後ろに束ね、傷だらけの顔に細くつり上がった目。

 その男は、僕から目線を外さず、目の前まで近づき『まさ、久しぶりだな。こいつは?』と低く喉を潰したような声で言った。

『お久しぶりです。こいつは、ゆうじです』

『お前は?』とマコトに視線をやると、『マコトです』とマコトが答えると、その男はニヤッと笑い去っていった。


『まさ知り合い?』僕は緊張のあまりか細い声で聞いていた。

『前に兄貴の義理事の時に顔合わせた事あんだわ』『そうなんだ。何か俺の事めっちゃ見てたんだけど、、なんつー人なの?』

『そうだよなー。あの人は金田だよ』

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