第12話 危機一髪!?飲酒検問

『もう冬だな~今年もあっという間だったな~』

『ですね~。マシンも冬仕様にしないとだめだし』

『センチュリーなら純正でもいーべ。シーマの純正は照れるわ』


 11月某日、僕とみのる、じゅんやであんながアルバイトをしている居酒屋に行った時の話である。


 少し前まで夏の纏まりつく暑さだったが、すっかり気温も下がり、紅葉した葉は枯れ葉となり、街並みもどこか寂しく見える季節である。

 雪国のこの地域では、冬になるとエアロを外したり、純正サイズのスタッドレスに履き替えなければいけなくなる。そのような状態で集まっていても格好がつかないし、何より凍え死んでしまう。

 11月中旬~3月末までは、チームの活動休止し、僕達の気持ち的にも完全オフシーズンとなる。


『この前、てつさんに貸したCD、ケースバキバキになって返ってきたべ』

『まじか、何か言ったの?』

『ケースバキバキじゃないですか!って言ったら、マジで!?今度買って返すわって言われたよ』

『得意のやつでしょ。俺なんてスロット行った時に貸した金返ってきてないからね』


 以前から、てつの事をよく思ってないみのるとじゅんやが愚痴を言い始めていた。てつは、物事を中途半端にする所があった。意地がないくせに見栄は張りたい。恐らく本人も理想と現実の違いを理解し始めていた時だったと思う。


 てつは、僕と同じで暴走族をやった経験がなく、悪で有名だった訳でもなかった。そういう所も、後輩達にも舐められやすい要因であったとは思う。


 特にみのるは、近隣中学の総大将をやり、暴走族でもマコトの次の代で総長をやっていたので、下に見ている態度が見え隠れしていた。"自分より弱いやつには従いたくねぇ"おそらくこんな所だろう。


『兄ぃどう思います?』

じゅんやは僕の事を兄貴と慕ってくれていた。


『まぁキャラだな。そーゆーやつがいてもいんじゃねーか?』となだめるように言った。

『いや、、』とじゅんやは言いかけた言葉を飲み込んだ。


 そんなじゅんやを見て、みのるが口を開いた。

『ぶっちゃけた話、俺もじゅんやもてつさんが気に食わないんですよね。マコト君の顔立てて今まで我慢してたけど、そろそろ我慢の限界なんですよ』


『限界って何かあったのか?』

『特別これってことはないけど、貸した金は返さねー、勝手に人の名前語ったり、困ったらマコト君にチンコロ(告げ口)するとか、男として許せないんすよね』と鋭い眼光を僕に向けた。そんなみのるを見て、僕は約一年前のことを思い出した。


 とある集会の日、ささいな出来事で他のチームとの揉め事となり、チーム同士の喧嘩が勃発する所だったのを、僕が納めたことがあった。それに対し、当時イケイケだったみのるは、僕に対し『いも引いた』だの『ビビった』と意見した時の事である。


 僕の中では、こちらに大義があるわけではなかったし、喧嘩のきっかけが下らなすぎて冷めていたという言い分だったが、そもそも下の世代の人間から認められていない、それが原因ということを常々感じていた。


 "一発ハッキリさせといた方が良い"と思っていたので、みのるを煽り、まんまと喧嘩をすることとなった。


 "ハッキリさせる"と言っても、みのるは180cm以上あり、体重も90キロある巨漢なので、"ハッキリさせられる"というパターンも可能性として高かった。


 結果としては、僕が優勢の所でマコトに止められたので僕が勝ったということにはなったが、格闘技の試合であれば、僕が判定負けであったと思う。

 最後は死に物狂いであらゆる急所を狙い撃ちした。それくらいしても、みのるの心を折ることができなかった。

 僕は歯と鼻が折れ、みのるは指2本の骨折と耳がちぎれかかっていたが、喧嘩の後、皆でキャバクラに行き、最後は2人で肩を組んで帰った。



 話を戻すが、みのるは、そこまでして、ようやく人を認めるような面倒臭いやつなので、偉そうなことを言うようだが、てつには無理だろうとわかっていた。


 僕は目を細めて『男として認めれないのもしょうがねーし、好き嫌いあんのもしゃーねーよ。わかるよ。

だけどよ、それを1つ1つハッキリさせんのはどうかと思うぞ!』

『そんなもん全部白黒やってたら、お前息もできねーよ!そんなんなら、集まってる意味もねーよ。楽しくやりてーから、集まってんだろ?

それによ、人の事を中途半端だとか言ってっけどよ。俺もお前も中途半端なんだよ。社会的に見たら、中途半端、人に迷惑かける、出来れば関り合いたくねーのが本音なんだよ!』

『自分の信念大事にすんのは、良いことだけどよ、それが、時には大事なもんを傷付けたり、壊すことになるんだわ!

尊敬しろと言わねーよ!認めれとも言わねーけど、俺の顔に免じて堪えてくれや』と熱く語った。


『わかりました。すいません』とみのるは頭を下げた。じゅんやは、涙を浮かべ『はい!』と熱い視線を僕に送っていた。


『まぁ、飲むべや』

とりあえず、形上は丸く収まり飲み会がスタートした。するとそれから少し経ち、てつから電話がきた。


『何してんの?ちょっと時間ある?』盗聴してるの?というタイミングだった。

『みのるとじゅんやと飲んでるよ。今お前の悪口言って盛り上がってたんだわ』と軽い冗談を言うと、『マジか、ガハハハ、俺も行くわ!どこにいんの?』と言うので、『いや、もうちょいしたら解散するんだわ』

『マジか、したら迎えにいくわ』


断ろうとする僕に、みのる達は気を遣い、『俺らも帰るんで』というので、てつに迎えにきて貰うこととなった。


『ブォンブォン』


 後輩の手前だからなのか謎の空ぶかしをして、自慢のセルシオでてつは登場した。『そしたらお疲れ様です』と帰ろうとするみのる達にてつは、運転席から窓を開け、親指を後部座席に向け『乗れ』と格好つけた。


 そういう所だよ?と思いつつも、てつのよくわからないテンションに負け、4人で帰る事になった。


 右へ左へと蛇行運転をしたり、前の車を意味なく煽ったりと、後輩2人に良い所を見せたいのか、てつの運転は最悪だった。

 すると、駅前通り抜けた所にパトカーが見え、検問をやっていた。てつは、急に大人しくなり、車を停車した。


 警察官がフロントに1人、ドアの前に1人。てつが窓を開けると、警察官が『カッコ良い車乗ってるね。ちょっと免許証見せてくれる?』と言った。

 てつが「いっすよ」と余裕をアピールするように振る舞っていたが、声は上擦っていた。


 警察官が免許証を確認した後、車内に、酒の匂いが充満していたのであろう。『少しお酒の匂いがするね。お酒飲んでない?』と飲酒検査を要求してきた。

 また、てつが余裕な態度で「いっすよ」と言った。


『声震えてるよ?』


 誰もが突っ込もうとしたが、面倒臭いので、黙ってみることにした。


 飲酒の検査は、検査袋に息を勢いよく吐いて、アルコールを検知する。色々やり方があって、ある程度飲んでても、検査をクリアするやり方もある。


 そこを警察官も注意して見ている。ただ、てつは一滴も酒を飲んでいない純粋なシラフだったので、隠す必要がないのだ。


警察官「吐いて」

てつ「ふー・・」

警察官「もっと、はーっとやって」

てつ「はぁぁ」


 いやいや声しか出てねーし。僕達は爆笑した。あまりのプレッシャーにてつは、息を吐く事さえできなくなっていた。それを5、6回繰り返し、結局警察官は、諦めて怒って帰って行った。



 帰りに「実は少し飲んでたんだよね。」と明らかに仕事帰りのてつが言っていた。この夜、僕がてつをボコボコにしたのは言うまでもない。

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