第11話 ファッションショー②
僕は車を降り、あんなの方へ向かって歩き出した。
『誰の女に手ぇ絡めてんだ、この野郎ー!』
僕が近づくとその男は、怯えた表情であんなから手を離し、両手を少し前を出し、体を守る体勢をとった。僕は『ツカツカ』と更に近づき、その男を射程圏内に入れた。
その瞬間、僕は一気に距離を詰め、右腕をその男の首に回し、首投げのような形で壁に投げつけ、すかさず膝蹴りを腹に当てた。
男の腕がガードとなり、浅く当たったので、続けざまに髪を掴み鼻ずら目掛けて、もう一度膝蹴りを食らわせ、男をノックダウンした。
内心、『やってしまった』という自責の念と『やってやった』という爽快感が入り交じっていた。
男が無様に倒れているのを横目に、あんなの表情を見るのが怖く、少し躊躇いながらも振り向くと、あんなは手で顔を抑え、哀しみの表情をしていた。僕は気まずさを感じながらも、ここまでやって引く訳にはいかず、目を細めあんなの方へ歩み寄ると、
『なんだテメーこの野郎』
じゅんやの声が聞こえた。そちらに目をやるとじゅんやと見知らぬ男が揉み合ってるのが見えた。じゅんやは僕の停車スペースを確保した後、交差点の手前でヤクザ停めをしていたので、それに腹を立てた後続車が文句を言いにきていた。
僕はあんなを無視するように小走りであんなを交わし、歩道と車道の境界線にある花壇に足をかけた。
『おい!コラガキ!お前○○と構えるんか?コラッ!後でケツまくったって知らねーぞ、この野郎』
まるで"ここの場面を仕切ってるのは俺だ"と言わんばかりに大物風を吹かせて言った。その後、すぐにみのるが追い付き、更に脅しをかけるとその男は、首を縮めて詫びを入れていた。
マコトは参戦する事なく、遠目から一部始終を眺めていた。警察がくる前に、僕はあんなの手を引き、車に乗せた後、僕達は蜘蛛の子を散らすように立ち去った。
あんなは無言で俯いたままで、重たい空気が流れ、車内は最悪の空気だった。
僕自身も納得していた。事故で言えば100:0事故であり、全面的にこちらが悪い。じゅんやに合図した瞬間に僕は、"自己暗示"をかけていた。格好つけて言えば、特攻ゆうじのスイッチを入れたのだ。
ずっと俯くあんなに対し、かける言葉が見つからなく、『ごめんな』とだけ言った。
その後、マコトの彼女のじゅりを拾って僕達は埠頭に集まった。僕は気まずい空気であったが、皆の前では明るく振る舞っていた。あんなは車から降りてこず、助手席に座ったままだった。
『あんな大丈夫か?』とマコトに声をかけられ、『まぁ大丈夫だ』と罰が悪そうに答えるしかなかった。
それを見かねてじゅりが、あんなの方に向かい、話をし始めた。
じゅりは気が強く、良く気が回る子であった。夏祭りの時にも発揮していたが、皆をまとめるムードメーカーだった。
数十分たった後、あんなが車から降りてきて、『このやんちゃ小僧』と僕に近づき言った。僕は笑顔で『どうも、すいませんでした』と芸人のネタを使って詫びを入れた。
あんなも笑顔を見せ、皆も笑顔になった。
じゅりのおかげだ。
後日、あんなの先輩から何だかのアクションがあるかと思ったが、何もなかった。恐らく関わり合いたくないのであろう。この一件は、僕にとって生き方について考えさせられる大きな経験だった。そして、僕はこの時くらいからあんなとの結婚を意識し始めた。
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