第10話 ファッションショー
僕達のチームは、マコトを筆頭に僕やまさ、てつ、みのる、じゅんやなど多いときで15名に満たない当時で言えば、大きくはないチームだった。
チームの殆どの人間がマコトが頭を張っていた暴走族の人間であったり、友人だったので、車好きというよりかは愚連隊気質の人間の集まりであった。不良としての経験値や顔の広さなど、僕よりも豊富な人間が多かった。
そんないざこざが多く、決して犯罪組織ではないが半グレ集団のようなチームで特攻隊長をやることがどういう事か。僕自身、計算するような頭はなかったが、自然と自己プロデュースのようなある種の"自己暗示"をかけて生きていかなければ、務めることができなかった。
そんな"自己暗示"があんなのような"一般的な女性"との付き合いには邪魔と感じ始めていたある日だった。
あんなと付き合い初めて4ヶ月程が経とうとしていた時だった。あんなは平日の昼間は学校、夜はアルバイト、休日は僕と遊びながらも隙間時間はネイルの勉強に励んでいた。
本当にいつ休むのよって思うほどにあんなは努力家である。前述にもあったが、夢はネイルショップを出すこと。僕は男女問わず、頑張ってる人間が好きだった。僕も仕事の時だけは真面目に取り組んでいた。
僕と遊ぶ時は少し位休んで欲しい、気晴らしをさせてあげたいと思い、あんなのやりたい事行きたい場所を優先して、色々な場所に連れていった。
あんなも、そんな僕の気持ちを汲んでくれていたので、いつも優しい気遣いと優しい言葉をくれていた。
"お互いを思いやり、言いたい事は言う"
口で言うのは、簡単だが実際に行動するのは簡単な事ではない。お互いに忙しい日々を過ごしながら、それができていたのは、あんなのおかげだったと思う。
『今度学校でファッションショーやるんだよねっ!ゆうちゃん見に来れたら見にきて』
『そーなんだ、すごいね。見たいわ。いつあるの?』
『○月○日の土曜日だよ~』
『土曜ね、楽しみにしてるわ』
『ありがとう、うん、私頑張るね!』
あんなの通う学校には、ヘアメイクやファッションデザイナーなど様々なジャンルがあり、定期的に商業施設内のイベントホールなどで、ファッションショーを行っていた。
学生にとっては、学校祭のような立ち位置で、各グループそれぞれ一つの作品を作り上げ、競い合うイベントだった。
普段、あんなは僕の仲間とばかり遊んで、同級生とは学校外で会うことが少なかったが、ショーに向けて、放課後友人宅で打ち合わせなどで帰りが遅くなることが多くなった。
内心、少し寂しさを感じていた僕だったが、頑張れと言った手前、愚痴をこぼすことなく、毎度帰りは友人宅まで迎えに行っていた。友人も一緒に帰るので、友人宅経由であんなを送り届ける。
僕は当時日産のプレジデントに乗っていて、シャコタン、直管マフラー、フルスモークと誰が見ても"やから"に見える車だった。
格好も当時流行っていたプレイヤーズやエコーなど、ストリート系ファッションに身を包み、金のネックレスや夜でもサングラスにセカンドバックといったファッションセンスの欠片もないような外見であった。
誰が見ても、頭が悪そうな人間だったので、例え仕事で疲れていても、"あんなの顔を潰さないように"と、あんなの友人にはなるべく爽やかに愛想良く振る舞っていた。そのギャップが良かったのか、あんなの友人には評価が高かったように思う。
ファッションショー当日。
僕は、みのるとさやにも声をかけ、家から一時間程かけて会場へ向かった。ファッションに疎い僕には、良さなどはわからなかったが、ショーは大成功を納めたようで、観客もまばらの中、僕達は大拍手を送った。
ショーの後、学校の打ち上げがあるという事で一度あんなと別れ、夜にマコト達とボウリングに行こうと話をした。みのるとさやにはお礼を言い、夜に落ち合おうと約束をした。
夜になり、仕事を終えたじゅんやと会い、時間を潰していると、あんなから電話がきた。
『ごめん。この後、学校の人達と、カラオケ行くことになったんだけど、私も行ってきてもいい?』
しょうがないと思い『わかったよ~、楽しんできな。帰り時間合えば迎えにいくわ』
『ありがとう。うん、帰る時、連絡するね』と言われ、電話を切った。
その後、マコトやみのる達と合流し、あんなが来ない事を伝えると、マコトの彼女のじゅりが残業の為、遅れているらしく、『丁度良いんじゃね?多分同じ位に終わるんじゃねーか?』とマコトが言うので、皆で二人を待つこととなった。
あんなには、成り行きを伝え、終わったら迎えに行くという話にした。『もう少しで終わる』とあんなからメールがきたので、僕を先頭にじゅんや、マコト、みのるの順でカラオケ店に向かった。
繁華街にあるカラオケなので、カラオケの店の前はタクシーがびっしりと列を作っていた為、僕達は少し離れた所であんなを待っていた。
5分ほどすると、7.8人の男女がカラオケから出てきた。その中にあんなが見えたが、かなり盛り上がってる雰囲気だったので、僕はあんなが解散するまで待つ事にした。すると、その中の一人の男があんなに寄りかかってきているのが見えた。
ハラワタ煮えくり返ったが、その男はかなり酔っている様子だったので、奥歯を噛みしめ我慢した。
あんな達はその場で少し話した後、僕達と反対方向に歩き出した。それと同時に、その男はあんなの方へ更に寄りかかり、腰に手を回し始めた。
『あぁーん!』怒りが汲み上げた時だった。
『ヴォン』後ろに停車していたじゅんやのシーマが僕の車に横付けし、『どうしますか?』と言う表情をした。
『どーする、やっていいのか?あんなの顔潰すわけには、、』
心の中で自問自答した後、ゆっくり僕は目を据わらせ、じゅんやに視線を合わせ、顎で合図をした。
『パァーァァン』
じゅんやは、大音量のクラクションとタイヤを空回りさせ、ロケットスタートを切った。騒がしい街並みや人混みを一瞬で凍りつかせるようだった。
タクシーの車列に向かい、『どけよ』と言わんばかりにクラクションを再度鳴らした。タクシーは、焦った様子で車を移動させ、空いたスペースにじゅんやが割り込んだ。
それに続き、今度は僕がロケットスタートを切り、じゅんやが開けたスペースに突っ込み、じゅんやがスペースから抜け、斜めにいわゆる"ヤクザ止め"をした。僕が車を降りると、あんな達は唖然とした表情でこちらを見ていた。
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