第9話 夏祭り②

『久しぶり』

 テツは久しぶりに会う友人をあまり歓迎していない様子だった。


『お前、今何やってんの?』

『大工だよ』

『大工?まじで!?』

『お前が大工!?見習い?』

『いや、、』

『見習い大工だべ。こいつは。笑』

『ダイクというかダイロクだろ?笑』


 酒が入ってるのであろう。僕は中々の絡み酒だなと思いながらも、"上手いこと言うな"と思った。テツも学生時代にこの男達に虐められていたのか、特に言い返すこともせず、僕達の手前、それを誤魔化すように少し笑っていた。


 同級生二人は、僕達の存在を認識しながらも、僕達の事が見えていないかのようにシカトし、テツへの虐めのような絡みを続けていた。

 片割れの一人の男がテツに肩を組み、『お前の女どれ?』と女性陣をニヤニヤと見回した。


 僕もマコトもいつでも手を貸すことはできたし、一瞬で下を向かせる自信もあった。ただ、テツの彼女の手前、僕達はテツを見つめ黙りを決め込んでいた。


 片割れの男がじゅりを指差し『あいつか?』と言った。じゅりが『はぁ?』と男達に詰め寄ろうとした瞬間に、マコトが口を開いた。


『お前ら、どこのもん?テツの地元の人間か?ったく、なまら躾なってねーな』と言いながら、マコトは僕に見た。『あぁ』と僕は少し笑い、男二人に目をやった。


『○○っつったらよーbadだろ?badの元頭の南に今から竜神会のマコトって人に殴られてもいいですか?って聞いてこいや』


 マコトは暴走族時代の繋がりを見せることで、レベルの違いを見せつけた。


 同級生二人は、事の重大さに気づき、あっさりとテツから手を離し『あ、、すいません。失礼します』と僕達に頭を下げ、人混みへ消えていった。

 テツは、また少し笑い、罰が悪そうな顔をして僕達を見たので『何してんだよ?』僕はテツの腹に軽くパンチを入れた。


『とりあえず飯食うべ』とマコトが言い、じゅりはテツの彼女にフォローをしながら歩き始めた。


 夕方になり、まさやみのる、じゅんや達と合流し、祭りを満喫した僕達は繁華街に繰り出した。

『あんな大丈夫?』と聞くと『うん!めっちゃ楽しい』と言って笑顔を見せていた。

 じゅりとみのるの彼女さやは、二人でいる場面ではさやが気を使うような関係性だったが、そこにあんなが加わる事で三姉妹のような関係性が出来上がっていた。


 そう思うと僕は嬉しくなり、俄然やる気を出し本領発揮した。知ってる店のVIPルームであることを良いことにケツ割り箸割りや江頭のモノマネなど三流宴会芸で場を盛り上げた。


 宴会も終盤に差し掛かった時にテツの存在がない事に気づいた。『あれ!?テツは?』と聞くと、じゅんやが『彼女と出ていきました。何か、、彼女泣いてましたよ』と言うので少し心配になり、じゅんやと探す事にした。


『あんな!あんな!ちょっとテツの様子見てくるわ』『うん!わかった~』と僕の事などお構いなしに盛り上がってる様子に『たくましいな』と思い、あんなの違った一面に僕は益々惚れていた。


 テツの財布は店にあったので、ビルの外にはいないだろうと、僕達は店を出てビル内を探すことにした。


『いや~さっきのケツ割りなまらウケました』

『だべ?昔からやってるからよ。年輪がちげーからな』と僕達は下らない話をしながら、非常階段を使って各階を見回っていった。


『あいつらよーテナントが入ってない店で宜しくやってんじゃねーの?』と言っていると、じゅんやが『あれ、絡まれてるのテツさんじゃないですか?』と言った。


 僕は言われた方に目をやると、当時は珍しかった"出逢いカフェ"の店の外のちょっとしたスペースに3、4人の人影が見えた。

 あのボサボサの金髪、、間違いない。テツは、3人に囲まれるように立っていた。本当に良く絡まれるやつだ。


 よく見ると、昼間テツに絡んだ同級生だった。偶然出くわしたのか、呼び出されたのかはわからないが、テツは昔にタイムスリップしたような情けない顔をしていた。


 軽くこずかれたり、服を引っ張られたりと見ていて、気分が悪くなった。

『おーテツ!何してんのよ』と僕が言うと、同級生達は一斉にこちらを見た。

『誰、こいつ?』と僕に対し、昼間居なかった一人が言うと、『こいつだよ。昼間生意気だったやつ』


『生意気?』この俺が生意気?同級生は心強い仲間がいるのか昼間の態度とは違い、僕達に敵意を示した。ただ一つ言えば、相手が悪かった。


 "俺が生意気?この俺がナマイキ?オレガナマイキ?"僕は沸々と怒りがこみ上げてくると同時に、全身に血が通っていくのを感じた。


『テツ!どーすんのよ?』僕が言うと、テツはモゴモゴと何かを言っていた。

『あー?聞こえねーよ?こいつらやんのか?やんねーのかどっちよ?』ともう一度言うと『やんのかコラ』と一人の男がいきり立っていた。


 その男に近づき『コラッ!テツー!!ハッキリすれ!この野郎』と僕が声を張り上げると『、、、オラー!』とテツが一人に掴みかかった。

 それと同時に目の前の男が僕に右ストレートを放ち、それをゴングとして乱闘が始まった。


 結果としては、圧勝であった。テツもダイロクパンチを何度もいれ、相手は戦意喪失していた。じゅんやはタックルのように体をぶつけ、頭を何度も壁や床に押し付けていた。僕の相手は、チョーパン一発、膝一発、ファイト一発であっさりとノビていた。


 周りが『警察!』と騒ぎ立ていたので、僕達は逃げるようにしてその場を去った。街中での喧嘩は、僕の経験上"先手必勝!やるだけやったら、すぐ撤収"が必須であった。


 僕達は、ビルから離れた所で一休みしていると、テツは満足気な顔をして煙草を吹かしていた。どれだけ今が充実していたり、強くなった気でいても、意外と過去に縛られている人間は多い。テツは、過去の自分と戦い、打ち勝つことができたのである。

 それは、簡単な様でいざ目の当たりにすると、難しく勇気がいる。僕にはそんなテツの気持ちが痛い程わかった。


『ありがとね』というテツの横顔を見ていると、僕にはテツが一皮剥けた良い男に見えた。


 その後、マコト達に電話で事情を話し、僕達は合流することができた。

 僕はあんなをほったらかしにしていたし、警察騒ぎになるほど暴れてしまっていたので、あんなにどう言い訳しようかと考えていると『あんなちゃんゆうじ借りてごめんね』とテツが僕の心中を読んでくれていた。


 あんなも姉さん女房のように『ウチのゆうじがすいません』と言い、場は丸く収まった。

 結局、当初の『あんなをめちゃくちゃ楽しませてやる』という目標は、達成できたとは言えないが、あんながめちゃくちゃ楽しんでいたことは間違いなかったので、僕の中で成功とした。

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