招かれざるモテ期


「さて、話して貰おうか」


部室兼アトリエでは既に凛が待ち構えていた。椅子に座って腕と脚を組んでいる。何のオーディションなの?


凛の前に用意された椅子に座って、昨日の成り行きを説明した。目を瞑り、黙って聞く凛。やり辛い。普通に聞いて欲しい。


「……成る程、さすが見る目があるね、和泉君」

「どういう事?」


顎に手を添えて目を瞑ってふむふむと頷く凛。さっきからそれ何なの?何かのドラマとかに感化されてる?


「づっきー、アンタ自分の価値分かってる?」

「え、カチ?なにそれ」

「男子需要の事だよっ」

「はい?」


つまりは男子生徒の間での私の人気度の事らしい。そんなの私自身は聞いた事なんて無いし、ましてや男子から好意を伝えられた事も無い。和泉君を除いて。


「需要とか……もう少し違う言い方無いの?」


「キスとかエッチしたい女子、とか?」

「色々飛び越えてるよ?!」


やだよぉ、男の子をそんな目で見たくないよ〜。でも女の子と話す時に相手の胸元しか見てない男子もいる。やっぱり男子は全員エッチなんだろうか?あながち間違ってはいない気がする。


「誰しも行き着く所はそれでしょ?」

「最終目標みたいに言わないでよ。先ず好きとか嫌いとか無いの?」

「づっきー、話が逸れてるよ。和泉君に戻そう」

「凛が需要とか言い出すからでしょ……」


がっくりと脱力する。中学生の恋バナが、恋愛の深淵を探るようなものになる所だった。


「要はづっきーは男子人気が高いって事。知ってた?知らないか」

「おバカさんみたいに言うのやめて。まあ知らなかったけど。ていうか何で凛がそんな事知ってるの?」


凛の話ではそういう情報に詳しい友達が何人かいるらしい。明るい性格の凛は顔が広い。口伝てやSNSでイヤでも情報が耳に入って来るそうだ。

私はと言うと、大人しい性格は自覚している。そんなに前に出る事はせずに、というか出来ずにこれまでやってきた。周りの友人も同じような娘ばかりで、特定の情報には詳しくても人間関係には疎い。言いたく無いけどオタク気質なのだ。でも根暗じゃない。そう思いたい。


「アンタ可愛いんだよ。大人しい上に髪がロングの娘は皆んな同じ髪型だからそれ程目立って無かったんだよ」

「私そんなに地味?!」


親友にそんな事言われたらちょっと凹む……


「大人しいって言ってんの!言い換えれば、お淑やか?清楚?兎に角っ、そんなアンタに惹かれる男子が居るって言いたいの!」

「例えば?」

「教室の片隅で、実は俺あの娘が好きなんだ……って固まってダベってるオタク男子?」

「ごめん、なんか嬉しくない」

「あーーそうじゃなくてぇー!」


頭を掻きむしる凛。無理しなくてもいいよ?私結構強い子だよ?少し傷ついたけど。オタク男子ごめんね?


「そうじゃなくて!づっきーが地味とか暗いとかオタク受け女子とかじゃ無くて!」

「凛をキライになりたくないからもうやめて?」

「ふーっ……つまり、アンタかわいいのにイケてる部類の男子受けが今一つだったのよ。地……大人しかったから」


言い直した。私の凹んだ心はそのままだ。

イケてるとかオタクとか、今日の凛はちょっと嫌な子になってるよ?奥村君に言いつけるよ?


「それがいきなり男子のカーストトップからの告白とか!彼を注目させる何かがあった筈。心当たりは?」

「無いよ〜、そんなの……」


毎日普通に登校して普通に授業を受けて、部活動して帰る。このルーティンの中で何か私が目立つような事があったの?思い返してみるけど……


「私はアレだと思う」


思案する私の顔の前にぴん、と人差し指を立てる凛。


「アレって?」

「新入生歓迎会」

「あれがどうし……あ」


四月。進級して間もない頃、体育館に全校生徒が集まり、新一年生の歓迎会と称して各行事の説明と、その様子が正面スクリーンに映し出される映像と共に紹介された。

そして最後に行われたのは部活動紹介だった。各部が趣向を凝らしたパフォーマンスで、新一年生にアピールするのだ。


私達美術部は部員全員で、自前で用意した衣装を着てのライブペイントだった。皆んなでディスカウントストアへ行って衣装を買って、ホームセンターでハケやらバケツやらを調達して迎えた本番。


大きな板に貼った白紙に部員の女子、男子、交互に予め薄く下書きした線に筆を入れて行く。

男子は黒いズボンに白いシャツ、それに各人色違いのベスト。女子も色違いのワンピースを着て、音楽に合わせて手早くお題である「火の鳥」を描いていく。


ある程度色が乗った所で私の出番が来た。ソロでの仕上げ作業だ。何故なら私がデザインしたから。

私の衣装は真っ白なワンピース。この時ばかりは髪は下ろして曲に合わせて激しく筆を振るって行く。

全校生徒には背を向けて描いているけど、両サイドには放送部によるカメラがあって、ライブ映像が流されていた。

けど、そんな事は気にならなくて、ただ、私がデザインした火の鳥を仕上げたくて無心で描きあげた。


描きあげた直後、真っ赤な衣装の凛が抱きついて来て、続いて美術部員の女子が、男子が私の周りで固まって成功を歓び合った。

満場の拍手の中、私はとても幸せな気持ちだった。


「アレだと思うんだよね」

「そうかなぁ」

「だってづっきー、めちゃくちゃ可愛かったもん!」


前のめりで褒めてくれる凛。私はただひたすら筆を振るっていただけだからよく分からないんだけど。


「そう?なんか恥ずかしいなぁ、何も考えてなかったから」

「その無心の表情が刺さったんだよ、づっきー。その後の拍手凄かったでしょ?!」

「うん、そうだね」


実際、今年は七人もの部員を確保出来た。例年二、三人の新入部員しか無かった美術部としては異例だった。卒業した先輩達から凄く絶賛された。


「毎年同じし物なのに新入部員が七人も入ったのはづっきー効果だよ!」


そう。毎年美術部の演し物は同じなのだ。今回の様に一枚の絵を全員で描くとか、数枚を部員がローテーションで描くとかはあっても、ライブペイント以外は私が知っている限りではやっていなかった。


「そんな私だけで描いた訳じゃないし、皆んなで仕上げたんだから……」

「これを見て」


凛がスマホを取り出して、何かの掲示板サイトを見せた。

あるスレッドが目に入る。


「これ……何?」

「所謂裏サイトだよ。友達にアクセス方法を教えて貰ったんだけど、歓迎会のパフォーマンスの直後からこんなスレが幾つか立ってるんだよ」


『葉月姫を愛でるスレ』

『ヅッキーニ愛してるヤツちょっとこい』

『筆を持った天使(白or赤)にこちょこちょしてもらいたい』

『凛ちゃんからヤツを引き剥がす会。総本山』

『伊蕗キュンをビッチから救い出すスレ』

『和泉王子様の動きを逐一報告するスレ』


なんか鳥肌が立った。怖い、なにこれ〜。


「私も怖くて内容までは見てないけど、注目されてるのは書き込みの数を見てもわかるでしょ?同じ生徒がストーカーみたいに何度も書き込んでるかも知れないけど」


「や、やだよぅ、凛〜コワイ、愛でられたくないよ〜」

「私だって引き剥がされたくないよ。こちょこちょとかキモいし」


その時、ガラッと部室の扉が開いた。


「凛ー、そろそろ昼休み終わり……あ、葉月も居たんだ」


美術部部長のみおが指で鍵をくるくるやりながら立っていた。


「あーごめん、澪。今出るから」


言いながら立ち上がる凛。私も椅子を片付ける。


「ごめんね、澪。部室開けてもらって」

「アトリエと言え、葉月」

「あ、ああ、うん。アトリエね」


美術部の魂、澪。部室の呼び方にも厳しい。


「ところで葉月」

「ん?なに?澪」


「あんた和泉君と何かあったの?」

「「んなっ?!」」


凛と同時に驚いた。もう澪のクラスにまで噂が飛び火している……!

自分のクラスで少し話したくらいでここまで?いや、まさか告白の事が誰かから漏れていたとしたら……


「い、いえ?何もないけど……なんで?」

「んと、なんか和泉君と葉月が仲良く話していた、とか?」

「それは!……同じクラスなんだから話くらいするよ」

「んー、だよね。ごめん忘れて?あんたは例の年上彼氏がいるもんね」

「んにっ?!……えへへ……そう、かな」


曖昧な返事しか出来ない。これはまずいよね。噂が拡大する前になんとかしないと。









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